画集『生頼範義 緑色の宇宙』

生頼範義 緑色の宇宙 (玄光社MOOK illustration別冊)

スターウォーズ帝国の逆襲」、平成版「ゴジラ」シリーズなど数々の映画ポスター、平井和正幻魔大戦」や小松左京日本沈没」「復活の日」などの装画・挿し絵を手がけ、約50年にわたり第一線で活躍してきた伝説のイラストレーター・生褚範義。圧倒的な画力で膨大な仕事量をこなし、特にSFや戦記物の分野では輝かしい実績を残しており、生褚さんの影響を受けたイラストレーターは数多く存在します。2014年2月に代表作約300点を網羅した初の大規模な展覧会をみやざきアートセンターで開催。本書はその展示作品を中心に、代表的な仕事や作品をアーカイブした1冊です。

生頼範義の名前を初めて目にしたのはハヤカワ文庫JA早川書房の日本人作家小説文庫)だっただろうか。SF小説を読み始めて間もなかった中学生の頃、手にした小説は小松左京の『復活の日』。青みがかった巨大な嚢胞から、苦悶のポーズを取る彫像が飛び出し、手前には海上から潜水艦が艦橋を覗かせ、背後には土色の空に赤い太陽が昇る。禍々しく暗示的なその表紙には作品内容同様深く魅せられてしまった。そして同じく小松左京の『果てしなき流れの果てに』の表紙が決定的だった。やはり重々しいミケランジェロ風の彫像の前に配された一機の未来マシン。そしてその背後には、燦然と輝く幾千もの星と緑色した大宇宙。陶然と魅入ってしまった。なんと美しい宇宙だろう。
生頼範義 緑色の宇宙』はイラストレーラー生頼範義がこれまで携わってきた様々な表紙絵やイラストを一堂に会したムック本だ。前述の小松小説以外で生頼の仕事をよく目にしたのは平井和正の「狼男シリーズ」で、これも作品内容同様お気に入りだったが、もっと若い方には映画『スター・ウォーズ』『ゴジラ』のポスターがお馴染みかもしれない。ゲーム好きの方には『信長の野望』等コーエーのゲーム・パッケージで見知った方もいるだろう。これら生頼作品は卓越した描写力や独特の画面構成と併せ、彫りの深くグラマラスなキャラクターがなにより特徴的だろう。言うなれば、生頼作品は「こってりと濃い」のだ。その濃さはどこか日本人離れした感性とも言える。
これら生頼氏のグラフィックを眺めながら、SF読みだった少年の頃から慣れ親しんできたあの小説・この小説、読んではいないが名前は聞いたことのあるあの作家この作家の表紙絵の懐かしさに触れるのもまた善し、その息を呑む描写力に改めて感嘆するのも善し、「生頼宇宙」の深遠に触れ楽しむことのできる充実の1冊だった。全作品網羅な作品集というわけではないけれども、これだけ楽しめて2000円という安価な価格で手に入れることができるこの『生頼範義 緑色の宇宙』、多分すぐ品切れになって将来的にプレミア価格がつくこと必至であろうから、気になった方はすぐさま購入することを是非お勧めする。

生頼範義 緑色の宇宙 (玄光社MOOK illustration別冊)

生頼範義 緑色の宇宙 (玄光社MOOK illustration別冊)