ドリームプラン (監督:レイナルド・マーカス・グリーン 2021年アメリカ映画)
テニスにはずぶの素人の父親が、二人の娘を世界チャンピオンに育てあげようと悪戦苦闘を繰り広げる!?というウィル・スミス主演・製作のスポコン映画です。実はこの作品、世界最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の成長を描いた実話映画なんですね。テニス未経験者の父親がいったいどうやって?というのが見どころになります。この作品でウィル・スミスは2022年・第94回アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
リチャード・ウィリアムズは優勝したテニスプレイヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿をテレビで見て、自分の子どもをテニスプレイヤーに育てることを決意する。テニスの経験がない彼は独学でテニスの教育法を研究して78ページにも及ぶ計画書を作成し、常識破りの計画を実行に移す。ギャングがはびこるカリフォルニア州コンプトンの公営テニスコートで、周囲からの批判や数々の問題に立ち向かいながら奮闘する父のもと、姉妹はその才能を開花させていく。
スポーツはまるでしない・観ない・興味ないオレではありますが、スポーツが主題の映画は割と普通に観てしまいますね。そういや子供の頃、野球のルールすら知らないほど野球に興味がなくても、『巨人の星』や『侍ジャイアンツ』みたいな野球漫画は結構好きでしたから、スポーツそれ自体とそれを題材とした「ドラマ」とはやっぱり別なのでしょう。多くの「スポーツを題材としたドラマ」は、基本的に「サクセス・ストーリー」を描くものであり、”ゲーム”に勝ってゆく、あるいは敗北しながら何かを学ぶといった過程が「物語として」面白いのでしょう。
映画『ドリームプラン』はテニス未経験者の父親が娘二人を世界チャンピオンにまで上り詰めさせるという「サクセスストーリー」です。未経験者なのになぜ?とは思いますが、この映画を見た限りでは本人が優秀なコーチだったというよりも、その時々で優秀なコーチを見つけ、口八丁手八丁で上手くコーチにつけさせる、というある意味でやり手、別の言い方をするならプロデュース能力に長けた父親だったと言えるのかもしれません。確かにウィル・スミス演じるお父さんは頑固で強引、持論を全く曲げず、どこか乱暴な印象すら受けますが、ただそれだけでは娘を世界チャンピオンにはできないでしょう。そもそも二人の娘に人よりもずば抜けた才能があり、それを上手く伸ばしてあげたという(だけの)ことなのでしょう。ただ、この作品は決してそれだけのものではありません。
この映画を観て思い出したのが世界的な大ヒットを記録したインド映画『ダンガル きっと、つよくなる』でした。
映画『ダンガル きっと、つよくなる』は元アマチュアレスリング選手の父親が二人の娘を総合競技大会コモンウェルスゲームズのチャンピオンにするまでが描かれます。しかし映画『ダンガル』が単なるスポコン映画に終わっていないのは、そこにインド独特の前近代的な家父長制と女性蔑視が存在し、主人公姉妹がそれを乗り越えようとする物語であるという事です。翻って『ドリームプラン』では、アメリカにおける黒人差別と貧困問題がその底流にあり、スポーツチャンピオンになることでそこから娘たちを抜け出させたいという父の願いが存在するのです。それはまた、人として、黒人としての、「尊厳」を賭けた戦いでもあったという事なのだろうと思うんです。