ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画 (監督:ジャガン・シャクティ 2019年インド映画)
世界で初めて成功した火星探査船計画
2013年、インドは世界で初めて火星周回軌道に探査船を到着させることに成功します。それまでアメリカ、ロシア、中国といった大国が軒並み失敗していた計画を、月探査船さえ送り込んでいなかったインドが成功させてしまったんですね。その実話を元に、計画の背後に存在したであろう様々なドラマを脚色して描いたのが映画『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』です。
《物語》2010年、宇宙計画の命運をかけたロケット打ち上げが失敗に終わり、チームリーダーのラケーシュと同僚のタラは実現に程遠い火星探査プロジェクトに異動させられます。しかもそこに集められたスタッフは経験の浅い若手女性職員や二軍落ち扱いの男性職員ばかり。けれどもラケーシュとタラは次々とアイディアを出し、火星探査プロジェクトを実現可能のものとしてゆきます。とはいえ、上層部の反応は冷たく、無理難題ばかりが積み重なってゆきます。果たして火星探査プロジェクトは軌道に乗ることが出来るのか!?
『パッドマン 5億人の女性を救った男』スタッフが再集結
主演は『パッドマン 5億人の女性を救った男』『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』のアクシャイ・クマールと『女神は二度微笑む』『フェラーリの運ぶ夢』のヴィディヤー・バーラン。さらに『ダバング 大胆不敵』のソーナークシー・シンハー、『きっと、うまくいく』のシャルマン・ジョシ、Netflixドラマ『ピンク』のタープスィー・パンヌーといった俳優が脇を固めます。監督は『マダム・イン・ニューヨーク』『パッドマン』で助監督を務め、今作が初監督となるジャガン・シャクティ。
いやー、素敵な映画でした。『パッドマン』主演・製作スタッフが再結集ということらしいんですが、『パッドマン』同様、困難極まりないミッションを、決して諦めることなく、石に齧り付いてでも成功させようという不撓不屈の精神がここでも描かれているんですね。今作は宇宙計画という、国家規模の計画が扱われますからその困難さはまた別格です。それは予算や人員、技術的問題と達成すべき期日、さらに国家の威信までが重なるのですから、その重圧は並大抵のものではありません。
女性がメインとなる今日的なアプローチの作品
しかしこの『ミッション・マンガル』は、そんな困難な計画の様子を決してシリアス一辺倒で描くものではありません。お堅いリアリズムにこだわらず、ややこしい科学技術を並べることもなく、むしろ明るく軽やかなステップで、ユーモラスかつテンポよく進んでゆくんです。それはなんと言っても、この作品がタラを始めとする女性スタッフが中心となって描かれていることが理由の一つでしょう。彼女らが挑む宇宙計画だけではなく、それぞれのプライベートな人間関係や各々が抱える想いを描くことにより、実にたおやかで情感豊かな物語となっているんです。こういった「女性がメインとなる物語」であることが非常に今日的なテイストを生んでいるんですね。
「女性がメインとなって描かれる宇宙計画」といえば60年代NASAの黒人女性スタッフをクローズアップして製作された映画『ドリーム』を思い浮かべる事ができるでしょう。『ミッション・マンガル』はこの『ドリーム』を多大に意識して作られたものであるように思えます。実のところ『ミッション・マンガル』の、「経験の浅い少数の若手女性職員が中心となって遂行されたミッション」というプロットはあくまで脚色です。実際当時の計画には1万7千人が従事し、そのうち女性は20パーセントだったというのが正確な数字です。しかしその中から女性をクローズアップさせることによって、単なるドキュメンタリー作品ではなく、今日的な切り口を持った娯楽作品として豊かな物語性を加味することに成功しています。
無理難題とアクシデントが重なる困難な計画
そういった点のみならず、作品は「困難な計画」のその「困難さ」を徹底的に描きます。上層部の冷淡さと圧力と対立、バラバラな気持ちのチームスタッフ、ひたすら渋られる予算、どの国も成し得ていない計画の技術問題、火星接近に間に合わせなければいけない期日、これら積み重なる無理難題と度重なるアクシデントが、観ていて最後までハラハラさせられどうしなんです。そしてそれを数々の閃きとアイディアで乗り越えてゆく様子がまた胸のすく作品となっているんです。
これらのドラマも映画的脚色なのだろうと思いますが、現実的には宇宙計画とは地味で地道で厳密なものの集積であるのでしょう。しかしその根底にある「宇宙への想い」をドラマとして結実させたのがこの作品だと言えるのではないでしょうか。実際にも、この火星探査船計画は日本円で約70億円という破格の低予算で成し遂げられました。映画でも言及されていますが、それはハリウッドの大作映画よりも低い予算です。宇宙を駆ける映画の夢よりも低い予算で現実に宇宙へと羽ばたく夢を実現させたこの計画、その偉大さに触れるという部分においても、見所のある作品ではないでしょうか。