プリンスのアルバムをコンプリートした《前篇》

PURPLE RAIN (EXPANDED) [3CD+DVD] (2015 PAISLEY PARK REMASTER, PREVIOUSLY UNRELEASED TRACKS, REGION-FREE DVD)

ちょっと前まで、オレの中で空前のプリンス・ブームが訪れていた。そう、戦慄の貴公子、紫色大好き、よくわかんないマークに変名したことのある変人、2016年に突然の死を迎えた不世出のカリスマ天才アーチストのあのプリンスである。

プリンスの音楽に最初触れたのは、アルバム『パープル・レイン』の時だから、出会い自体は35年ほど前に遡ることになる。あの頃はMTV流行で、『パープル・レイン』からのシングルカットPVもよく紹介されていたが、まあ最初は「なんだコイツ?」って感じだった。でも音楽をよく聴くと非常にユニークなことをやっていて、特に『ビートに抱かれて』のドラムマシーンの音とか独特過ぎてあっという間にハマってしまった。それからは一気呵成に過去のアルバムを全部振り返って聴き、その後も新作アルバムが出たら必ず購入していた。

プリンスにハマったもうひとつの理由は、オレはそれまでブリティッシュニューウェーヴ/ポストパンクの音楽をずっと聴いていたのだけれども、内容の重い暗い音楽が多くて、精神的に相当参ってしまっていた、というのがあった。そこに紫色の怪しげなスーツを着た小柄な黒人が現れて、「レッツゴークレイジー!」なんて歌いながらケツ振り出したもんだから、オレはそこで「フッ」と吹っ切れてしまったんだ。オレはあの時、プリンスに救われたんだよ。

『パープル・レイン』から始まったプリンス探求の旅であったが、1991年発表の『ダイアモンズ&パールズ』あたりで気分的に合わなくなってきて、そこからプリンス・アルバムを追いかけるのは止めてしまった。その後思い出した頃にポツポツとアルバム購入していたが、以前のように熱狂的に聴く事はなくなっていた。とはいえ、2016年の突然の訃報には絶句した。あんな巨大な才能がこの世から消えてなくなってしまうなんて。まさに諸行無常である。

そんなこんなで時間は今年に戻るが、そういえばプリンスのラスト・アルバム『HITnRUN Phase Two』(2015)をまだ聴いていなかったな、と思い何の気なしに入手したのだ。そしてこれが、あまりに素晴らしすぎた。死の直前のプリンスは、こんな音楽をやっていたのか。これほどまでに抜けがよく、明快な音を出していたのか。これは、彼の新たな黄金期を告げたはずの音じゃないか。それにしても、オレがプリンスを無視していた間に、彼はいったいどんな音を作っていたのだろう?そこからオレの全プリンス作品探索の旅が始まったのだ。 そして数ヶ月掛けて全てのオフィシャル・アルバムを入手して聴いた。

というわけで今回コンプリートしたプリンス・アルバムを並べて簡単なコメントをつけブログ記事として挙げておく。取り上げたアルバムは全49作。ただしここで「コンプリート」と称したアルバムの数々はWikipediaを元に収集したもので、実際はこれ以外にもあれこれあるのかもしれないが、とりあえずキリがないのでここに取り上げた分で「(多分)コンプリート」ということでお茶を濁しておくのでご了承願いたい。アルバムは膨大な数になるので発表年と併記し区切りをつけておいた。

また、なにしろ量が膨大なので今回《前篇》ということで紹介し、残りは後日更新の《後篇》へ持ち越すことにした。では行ってみよう!

◎1978年~1990年

1978年: For You

フォー・ユー

フォー・ユー

 

プリンスのデビュー作。まだまだ初々しく薄味な部分はあるにせよ、隙の無いサウンドとセクシーなファルセットヴォイスといったプリンス・サウンドは既に確立されており、非凡な才能を発揮しまくっている。

1979年: Prince

PRINCE

PRINCE

 

この2ndから輪郭のしっかりしたよりポップでキャッチーなサウンドを展開するようになってくる。『I Wanna Be Your Lover』『I Feel For You』 といった記憶に残るヒット曲もこのアルバムから生み出された。

1980年: Dirty Mind

Dirty Mind

Dirty Mind

 

いよいよ黒光りし始めるプリンス、ジャケットの「ダーティ」な雰囲気からも読み取ってもらいたい。音はよりファンキーに、ヴォーカルはよりセクシーに。

1981年: Controversy

戦慄の貴公子

戦慄の貴公子

 

前作までに模索した様々な要素がここにきて集大成され、「プリンス」というアイデンティティが確立されることにより初期プリンス・アルバムの傑作として送り出された作品。

1982年: 1999

1999

1999

 

そしてプリンスがいよいよブレイクを迎えたのがこの『1999』だ。1曲目からラストまで、まるで一つのシンフォニーのように連なってゆくプリンス・ワールド。自信に満ち溢れた歌声と演奏がなにより心地よい。また、現在5CD+DVDの6枚組スーパースペシャルエディションも発売されている。

プリンス『1999』スーパーデラックスエディション発売! - メモリの藻屑 記憶領域のゴミ

1984年: Purple Rain 

プリンスと言えばなによりもこのサントラアルバム、『Purple Rain』だ。彼の最高傑作は何かと聞かれたら、やはりこのアルバムを推すだろう。発表当時熱狂を持って迎い入れられたことは未だに記憶に新しい。ポップミュージックでありハードロックでありヘヴィーファンクであり、さらにエレクトリックミュージックの要素さえ兼ね備え、全てが融合しつつ極上のキャッチーさで完成されている本作はプリンスの稀有な才能が存分に生かされた傑作中の傑作と言って過言ではない。ここまで完成度の高い音を作っておいてPVは胡散臭くて半裸でレロレロだ。こんなの誰も勝てない。また、このアルバムは現在リマスター版と別バージョン等を収めた3CD+DVDの4枚組バージョンも発売されている。そしてまたこれが、なかなかいいのですよ。

1985年: Around the World in a Day

アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ

アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ

 

スーパーヒットを記録した『Purple Rain』の次作となるこのアルバム、むしろ『Purple Rain』路線を全く継承せずホワホワしたサイケデリック路線に舵を切る所が実にプリンスらしい。プリンス作品の中では五指に入る作品という評価だが、オレ自身はちょっと期待外れだった。

1986年: Parade

Prince And The Revolution/Parade: Music From The Motion Picture Under The Cherry Moon

Prince And The Revolution/Parade: Music From The Motion Picture Under The Cherry Moon

 

これも自身の主演する映画サントラだが、 奇妙に抑制された静謐な音世界はプリンスのこれまでとは全く別の側面と、それを事もなく生み出す才能とを思い知らせてくれた。これも彼の5本の指に入る傑作アルバムだろう。

1987年: Sign "☮︎" The Times

サイン・オブ・ザ・タイムズ

サイン・オブ・ザ・タイムズ

 

『Purple Rain』からその奇才ぶりを世に知らしめたプリンスが、紛う事なき天才であったことを満天下に認知させた超絶的な傑作アルバムである。限りなくポップでありながら同時に高い実験性を感じさせ、プリンス以外誰も作ることは出来ないであろう音世界を完成させているのだ。これも『Purple Rain』と併せ将来に渡ってポップミュージック史に語り継がれるだろう名作だ。

1988年: Lovesexy

Lovesexy by Prince (1988-07-28)

Lovesexy by Prince (1988-07-28)

 

ヘヴィー過ぎてお蔵入りになった『The Black Album』の反動からか相当にポップでキャッチーな曲が並ぶ、ジャケット同様ハッチャケまくっているアルバム。レコード盤では曲間の無い全曲1曲の扱いだったが、CDでは発売国によってセパレートされているものもある。あと配信だと全1曲扱いなのでアルバム1枚が300円ちょっとで購入できる。

1989年: Batman

BATMAN MOTION PICTURE

BATMAN MOTION PICTURE

 

ティム・バートン版映画『バットマン』のサントラであると同時にイメージアルバム。殿下が調子に乗って山のように曲作っちゃったので、サントラのようなオリジナルアルバムのような変な立ち位置の作品だが、当時のバットマン・フィーバーと併せてオレは好きなアルバムだったな。

1990年: Graffiti Bridge

プリンス監督主演映画のサントラ。これまでのサントラと違い他のアーチストの曲も入っているため、アルバム全体で聴くと長くて散漫に思えるかも。プリンスの曲だけをセレクトして聴くと吉。

◎1991年~2000年

1991年: Diamonds and Pearls

ダイアモンズ・アンド・パールズ

ダイアモンズ・アンド・パールズ

 

バックバンドであるザ・ニュー・パワー・ジェネレーションを全面に押し出しこれまでになくゴージャス感溢れるアルバムとなったが、このアルバムからオレの求めていたプリンス像と離れてしまい、聴かなくなってしまっていた。 

1992年: Love Symbol

The Love Symbol : Prince & The New Power Generation

The Love Symbol : Prince & The New Power Generation

 

初っ端からヒップホップを取り入れたヘヴィーファンクで始まりその後もこれでもかというほどバラエティーに富む展開を迎えるテンコ盛りプリンス篇。なんだかもう全身ドクドク脈打ちまくっているようなアドレナリン解放作。これは今聴いても新鮮なアルバムだ。

1994年: Come

Come

Come

 

例の改名前の「俺(プリンス)の死亡宣言だ」 ということらしいアルバムで、全体的にお通夜的な暗さが醸し出されているが、実はこれはこれでまたもやきちんとした完成度を持つアルバムでもある。

1994年: The Black Album

Black Album by Prince (1994-11-22)

Black Album by Prince (1994-11-22)

 

1987年に録音されたが長らくお蔵入りされ1994年に発売されたアルバム。プリンス的には「ヘヴィー過ぎてキャッチーじゃない」という考えだったらしい。サウンドがあまり練り込まれておらず、どこかデモっぽい内容で、これはお蔵入りで正解だったかもしれない。

1995年: The Gold Experience

ゴールド・エクスペリエンス

ゴールド・エクスペリエンス

  • アーティスト: アーティスト・フォーマリー・ノウン・アズ・プリンス
  • 出版社/メーカー: ダブリューイーエー・ジャパン
  • 発売日: 1995/10/10
  • メディア: CD
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「ハイ、俺今日から《シンボルマーク》です」という最初のアルバムなのだが、「新生だ!」というだけあって力漲るハイテンションな曲が並び、 ヤル気満々振りを誇示しているアルバムだ。笑っちゃうほどド派手。

1995年:The Versace Experience (Prelude 2 Gold)

Versace Experience..-Digi

Versace Experience..-Digi

 

ベルサーチのショウのみで配られたカセット作品のようやくのアルバム化。『The Gold Experience』別バージョンのDJミックス的なアルバムで、ダンスフロアなプリンスサウンドが楽しめる。

1996年: Girl 6

ガール6

ガール6

  • アーティスト: プリンス,ニュー・パワー・ジェネレーション,プリンス&ザ・レヴォリューション,ザ・ファミリー,ヴァニティ6,レボリューション,バニティー,スター・カンパニー
  • 出版社/メーカー: ダブリューイーエー・ジャパン
  • 発売日: 1998/08/26
  • メディア: CD
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スパイク・リー映画のサントラで新作は3曲のみなのだが、いわば「プリンス裏ベスト」とでも呼べるような微妙に珍しい選曲が面白いアルバム。確かに「レッツゴークレイジー」と「パープルレイン」ばかり聴かされるベストはあまり聴きたくはない。映画での使われ方もナイスだった。

1996年: Chaos and Disorder

カオス・アンド・ディスオーダー

カオス・アンド・ディスオーダー

  • アーティスト: アーティスト・フォーマリー・ノウン・アズ・プリンス
  • 出版社/メーカー: ダブリューイーエー・ジャパン
  • 発売日: 1996/07/25
  • メディア: CD
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「俺もうレコード会社とやっとられんわ」と憤懣遣るかたないプリンスが 「混沌と無秩序!」とそのまんまのタイトルでリリースしたアルバムだが、粗削りであるにもかかわらずきちんとイイ仕事はしており、これはこれでちゃんと評価すべきアルバム。

1996年: Emancipation

イマンシペイション

イマンシペイション

  • アーティスト: アーティスト・フォーマリー・ノウン・アズ・プリンス
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1996/11/19
  • メディア: CD
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「ヤタ!俺レコード会社から解放された!」という喜びを「開放」というタイトルの3枚組長大アルバムで表現する殿下。全36曲3時間、これだけの作品なのにも関わらず1曲たりとも無駄な曲が無く、「聴いても聴いても延々プリンス」という「金太郎飴的プリンス」をとことん堪能できる。やはりどうしたって天才には敵わない。

1997年: Crystal Ball

Crystal Ball

Crystal Ball

 

またしても3枚組。ただし配信での話で、フィジカルでは次に紹介する『The Truth』と併せて4枚組の発売だった。さらに通販限定ではもう一枚加わって5枚組だったのらしい。この5枚目となるアルバム『Kamastra』は今回コンプリートと言いつつ入手できなかった。っていうか5枚組ってナニよ。音的には83年から96年のお蔵入り曲を集めたものなのらしい。こちらは3枚組では全30曲150分。 もちろん言うまでもなくどの曲も完成度は高くこれも「聴いても聴いても延々金太郎飴プリンス」地獄、いや天国を体験できる。

1997年: The Truth

The Truth

The Truth

 

プリンスのアコギ弾き語りアルバム。とはいえ全編という訳ではなく曲を追うごとに徐々にドラムやシンセが入った曲が増えて来るのだが、それでも全体的にシンプルな音構成のアルバムで、実は結構な名盤なんではないか。

1999年: The Vault: Old Friends 4 Sale

ザ・ヴォルト~オールド・フレンズ・フォー・セール
 

「お蔵出し大セール!」というタイトル通り85~96年に録音され未公開だった音源の大放出作品だが、お蔵出しだろうがセールだろうがそこはプリンス、その辺のアーチストには真似できないクオリティだから凄い。

1999年: Rave Un2 the Joy Fantastic

2000年: Rave In2 the Joy Fantastic

1999年リリースの『Rave Un2 the Joy Fantastic』とそのリミックス集で2000年リリースの『Rave In2 the Joy Fantastic』。現在は『レイヴ完全版』という2枚組で発売されている。多彩なゲストと多彩なジャンルをミクスチャーして製作されているが、例によって完成度は高いもののどこか浮ついた感じがしてあまり聴かないんだよなあ。落ち着きのないプリンス?

 

(後篇に続く)