嵐の日に外なんか出ちゃダメ!/映画『クロール 凶暴領域』

 

■クロール 凶暴領域 (監督:アレクサンドル・アジャ 2019年アメリカ映画)

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進化の過程でどれだけ知能を発達させ文明を築き上げ地球全土の覇者として我が世の春を謳歌する人類であろうとも、いざ自然界に放り出されたら食物連鎖の結構な下、狂暴な肉食獣の前にあってはあっさり餌食になるだけの存在でしかありません。ライオンや虎、狼に熊、ヘビやらサメやらピラニアやら、果てはアリの大群まで、人間を喰ってやろうと手ぐすね引いて待っている連中ばかりではありませんか!そして今回紹介する映画で登場するのはワニ!この『クロール 凶暴領域』は大嵐の中人喰いワニに追い掛け回されてサア大変!という人喰いサスペンスなんですね!

物語は単純至極、舞台はフロリダ、主人公は大学競泳選手のヘイリー、巨大ハリケーンが猛威を振るっている真っ最中、彼女は連絡の取れないお父さんを探して昔住んでいた家の軒下に潜ってみたのですが、お父さんは見つけたものの絶賛食いもん探し中のワニ御一行様ともご対面しちゃった!?というお話なんですね。ワニがいるから軒下から出られない!おまけに豪雨の雨水が入り込み水位が上がってこのままだと溺れ死んじゃう!?いったいどうしたらいいの!?という絶体絶命の危機を描いたサバイバル・サスペンスがこの映画なのですよ!

この映画に出て来る人喰いワニは近所のワニ園から逃げ出したワニで、別に遺伝子操作や放射能の影響で巨大化したワニだとか首が二つあるとか空を飛んだりとかはしない普通のワニなんですが、まあしかし普通だろうがなんだろうがワニはワニ、シーユーレイーターアリゲイター、でっかい口とでっかい尻尾をパクパクブンブンさせて襲ってくるタチの悪い連中なわけですからたまったもんじゃありません!しかもそれが1匹2匹ではなくあっちにもこっちにも大量に沸いてくださっていて足の踏み場もありません!ワニ怖い!ワニ怖い!

監督は『ハイテンション』『ヒルズ・ハブ・アイズ』『ピラニア3D』といったホラー映画の佳作を撮って来たアレクサンドル・アジャ。これは期待も高まるというものですね!主人公を『月に囚われた男』『メイズ・ランナー』シリーズ、『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』に出演なさっていたカヤ・スコデラーリオ、お父さん役を『オーバードライブ』『ローンレンジャー』『メイズ・ランナー』シリーズのバリー・ペッパーが演じております。

正直申しますと最初この映画、「単にでっかいワニが出てきてキャアキャア言うヒロインを追っかけまわすだけの大雑把で十把一絡げなモンスターホラーなんだろなあでも観るけど」などとちょっとナメたことを思ってたんですが、しかし実際観てみると意外や意外、これが実にしっかり作られたスリラーサスペンス作品だったのでここは監督に土下座して謝るしかありません。そりゃだってアレクサンドル・アジャだもんなー。

この映画がどうしっかり作られていたかと申しますと、ひとつの危機から次の危機へ、手を替え品を替え主人公を窮地に陥れ、そのたびに主人公は脱出口を探しワニと戦いあるいは回避し、延々と決死のサバイバルを強いられ続ける、という展開の在り方でしょう。これにより常に緊張感が途切れる事なく持続しているんですね。

この「主人公は喉から手が出るほど手にいれたいものがあり(希求)」「しかしその為に恐ろしい目に合い(試練)」「からくもそれを切り抜ける(達成)」といった構造は物語作りの基本なんですが、それが結末に向けてどんどん難易度を上昇させてゆく、といった点で実にエンターティメント作品のツボを押さえた作りになっているんですね。物語の舞台となるのも最初の軒下という閉環境から外の開かれた環境へ、またしても閉環境へと繰り返され、実にメリハリが効いている。ここも実に巧みだ。こういった物語作りだけではなく、ワニがバックンバックン人を喰いまくる「もうヤメテー!」と言いたくなるような残虐シーンもバッチリ描かれて、もう言う事なしなんですね。

もうひとつ見どころとなるのは、これが決して主人公一人の闘いなのではなく、そこに重傷のお父さんがいて、彼を守りつつ同時に協力し合い、体力と知力と己がスキルを生かしながら危機を乗り越えてゆく、という点でしょう。単に力任せ運任せの大雑把なお話じゃないんですよ。主人公とお父さんとのたった一つの目標、それは「なんとしてでも生き延びること」です。そして生き延びるためにあらん限りの事をする、ということです。「自分が盾になるからあなたは逃げて!」みたいな安易すぎてオレの大嫌いな玉砕特攻隊展開など全くありません。

生き延びるためにはタフであらねばならないし、また、タフであろうとしなければならない。その悪あがき、もがきっぷり、負けてたまるか、死んでなるものか、この強靭な意思の在り方がたまらなく熱いし、そのために知力と体力とスキルをあらん限りに駆使する様が実に素晴らしい!そしてここで指摘した「スキル」というのは主人公が競泳選手である、という点なんですね。つまり水に強い、水中をものともしない、水の中でもワニと互角の泳ぎが出来る、主人公に与えられたこの1点の「特色」により、物語の展開にさらに幅が広がり、さらに新たなサスペンスも生じさせられる、こういった着眼点も巧い作品なんですよ。だからタイトルにある「クロール」というのはワニの這い回る様とかゾッとする物語とかいう意味とは別に、主人公の水泳選手としてのクロールも掛けている、ということなんですよ。

というわけで映画『クロール 凶暴領域』、物凄く新しいことをやっているとかそういう作品ではもちろんありませんが、職人芸的なエンターティメント作品として十分面白くて楽しめる、なかなかの佳作でありましたよ!まあこの作品からなにか教訓的なものを無理矢理ヒリ出すとするのなら、「嵐の日に外なんかに出ちゃダメ!」ということでありましょうか!?いやー台風接近の日に観に行ってよかった!(外に出たんじゃないかよオレ)

ところで最後に唐突に、「人喰い映画」第一人者であるとみさわ昭仁さんのサイト「人喰い映画祭」と単行本「人喰い映画祭 【満腹版】 ~腹八分目じゃ物足りない人のためのモンスター映画ガイド~」をここで紹介しておきましょう。是非ご参考までに!

人喰い映画祭 【満腹版】 ~腹八分目じゃ物足りない人のためのモンスター映画ガイド~

人喰い映画祭 【満腹版】 ~腹八分目じゃ物足りない人のためのモンスター映画ガイド~

 

【参考】アレクサンドル・アジャ作品レビュー