■アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲 (監督:ティモ・ブオレンソラ 2019年フィンランド・ドイツ・ベルギー映画)
世紀の極悪軍団ナチスは生きていた!?それも月の裏側で!?第2次大戦を密かに生き延びた彼らは、秘密の月面基地を築き、地球征服の機会を虎視眈々と狙っていたのだッ!?……というストーリーの映画『アイアン・スカイ』、大変面白い映画でしたね。「月刊ムー」をバイブルと崇める中学生が片眉毛をそり落とし雪山に籠ってヒグマと戦いながら作り上げたような、根性と情熱に満ち溢れた素晴らしい怪作でありました。
そしてなんと、その続編が公開される!?と聞いた日にゃあ、こりゃもう観るしかないじゃああ~りませんか(チャーリー浜風)!?タイトルは『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』、前作で滅んだ筈のナチの皆さんがまた大暴れするのかッ!?しかもトレーラー観たらヒトラーがティラノザウルスに乗って襲い掛かってきちゃったりしてるじゃないですか!?こりゃもう「馬鹿が戦車(タンク)でやってくる」どころの騒ぎじゃないですよ!?前作以上に頭の悪さが炸裂するのかッ!?これ以上頭が悪いと脳死状態と一緒じゃないのかッ!?様々な憶測と期待と不安をない交ぜにしながら我々は現場(映画館)へと急行したッ!?
《物語》
人類は月面ナチスとの戦いに勝利するも、核戦争で自滅し、地球は荒廃してしまった。それから30年後、人々はナチスの月面基地で生き延びていたがエネルギーが枯渇し、滅亡の危機を迎えていた。主人公オビは地球の深部に新たなエネルギーがあることを知り、人類を救うため、前人未到の<ロスト・ワールド>へと旅立つ。しかし、そこはナチス・ヒトラーと結託した秘密結社ヴリル協会が君臨する世界だった。ヤツらは人類絶滅を企て、恐竜とともに地底から攻めて来るッ!!
(公式サイトより)
……とまあそんな『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』なんですがね、実際観終ってみると、これがもう清々しくなるほどの駄作で、むしろ心洗われ魂の階梯が一個上がったんじゃないかと思ってしまうほどの涅槃の境地に達してしまいました!
まあなんといいますかねえ、「なんだよ、どこもかしこも出オチだらけじゃんかよ」ってな気分にさせられたんですよねえ。
まあオープニングの辺りはいいんですよ、期待させられちゃうんですよ、「地球滅亡後の人類生き残りが月面で細々と暮らしていたが資源は既に枯渇し……」なーんて導入部、なんかスッゴくディザスターSFしててワクワクさせられるじゃありませんか。オレは去年読んだ傑作地球滅亡SF小説『七人のイヴ』を思い出したぐらいですよ。前作の主人公だったレナ―テ・リヒターが老婆役で出てきたのも嬉しかったですね。そして今作の主人公はその娘であるオビということになってるんですね。世代交代ですね。
ただねえ……その後がもうずっとグダグダでねえ……。まず「ジョブズ教」なる連中が出てくるんですが、これがまあアップル信者をおちょくってることは分かるんですけど、「これってただおちょくりたいだけで映画と関係ないだろ?」と思っちゃうんですよ。それと主要キャラとしてハゲマッチョとロシア難民マッチョが出てくるんだけど、『ワイルド・スピード』じゃないんだからマッチョキャラ2人いらないだろ?しかも2人ともそれほどマッチョじゃないし。その後も繰り返しが多くて段取りの悪い無駄なシークエンスがあちこちで散見し出すんだけどあれ実は笑わせたかったのかあ。
さて地球に新たなエネルギー資源を取りに行く事になるオビ様御一行なんですが、なんとその場所というのが「センター・オブ・ジ・アース」、つまり「地球空洞説」ということなんですね!この着想はいい! しみじみと噛み締めたくなるほどに頭が悪くていい!そしてその「ロスト・ワールド」にはハチュウ人類が住んでいた!?というゲッターロボの「恐竜帝国」みたいな設定もいい!なんだやるじゃん!?伊達に「月刊ムー」とマンガばっかり読んでねえな(根拠のない憶測)!?
そしてここで「実はかつて人類の歴史に暴君として刻まれた圧政者の多くは異星人(だかハチュウ人類だか)だった!?人類は操られていたのだ!?」ということで、見たことのあるような方々がいっぱい出てくるんですね。それがまずヒトラーだったりチンギス・ハーンだったりビン・ラディンだったり北の大将軍様だったりするんですよ!何故だかマーク・ザッカーバーグとスティーブ・ジョブズもいるんですが!ビル・ゲイツとジェフ・ベゾスはいなかったと思ったな!とりあえずこの映画の監督がアップルとフェイスブックが大嫌いだということは十分に伝わってきます!この辺りのシーンは予告編でガンガン流れてて大いに期待を持たせてくれたんですがね!
……でもねー、結局「出てきただけ」で、物語になんにも役に立ってない賑やかしにしかなっておらず、単なるコスプレ大会で終わってるんですよ。その登場のさせ方だってダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模したかったんでしょうが、最初から全員横並びで画面に登場させてしまったら面白味もなにも無いでしょうに。
その後のアクションも「世界空洞説!謎のハチュウ人類!超エネルギー!」とかブチ挙げた割にはなんだか妙に狭い範囲でいじましい程みみっちくジタバタするだけでまるで盛り上がらない。「出オチ」した後のお話を物語るのに精いっぱいで息切れしてるんですね。結局、大風呂敷の広げ方が大きかったばかりにその後のしょっぱさが目に染みて、「悲しくて悲しくてとてもやりきれない!」と思わず涙腺を緩ませながら口ずさみたくなってしまった傷心のオレがそこにいたというわけなんですよ。
ってかなー、なんか書けば書くほど「え、でもなんだか面白そうに思えてきちゃうよ?」と誤解されそうなんですが、結局ひとつひとつのアイディアは面白い方向へどうとでも発展出来そうだったのに、その料理の仕方が拙い、アイディアの活かし方や展開のさせ方にまるで注力できていないなんですよ。「こことここが惜しい」というよりも根本的に作り方が間違っちゃってる気がするし、監督単なる「一発屋」だったんじゃないかと思わされちゃいましたね。でもまあ嫌いになれない作品であることも確かで、ホントに作るのかどうか分かんない3作目が出来たとしたらまたノコノコと観に行っちゃうでしょうね、多分。
映画『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』7月12日(金)公開