今年面白かったエレクトロニック・ミュージックやらなにやら

※注:レビューはブログに書いた当時のままで掲載していますので若干現在と異なる記述があります

■Migration / BONOBO

MIGRATION
この[MUSIC]ジャンルの記事(というか単なるメモなんだが)を日記に更新するのは2ヶ月ぶりとなるが、それはひとえに2月を前後して引っ越しをしていたからだった。引っ越し前に申し込んでいたネットが開通したのが結局それから50日後で、音楽情報を全くチェックできなかったのである。そもそも試聴ができないしDL購入もできない。だからほぼ1か月余り、手持ちの音源ばかり聴いていた。そしてその中で、引っ越し間際に購入したBONOBOのこのアルバムを最も聴いていた。BONOBOことサイモン・グリーンは1999年から活躍するエレクトロニック・ミュージック・アーチストで、『Migration』は今年1月にリリースされたニューアルバムだ。実のところBONOBOは以前アルバムを1枚聴いたくらいでそれほど印象に残っていなかったが、この『Migration』は強く心に残る作品だった。「エレクトロニック・ミュージック」という言葉で一括りにできない芳醇な音楽性を兼ね備えているのだ。非常に繊細であり同時に洗練されており、時にメランコリックでありセンチメンタルであるその音は、強烈なアレンジメントとコンポジションの才能が生み出したものであるであることは確かだ。そしてあの2月、あるいは3月、このBONOBOのアルバムを多く聴いていたのは、引っ越しも含めあれこれと疲弊していた自分の心に、これらの音がひんやりとよく沁みたからなのだろう。特にヴォーカル曲『Surface』の美しさと切なさはひとしおだった。とりあえずこれまで今年聴いたアルバムの中では十指に入る名作であることは確実である。 《試聴》

MIGRATION

MIGRATION

 

■Drunk / Thundercat

Drunk
このThundercat、ジャズに暗いオレは全く知らなかったのだが、「新世代ジャズシーンを牽引するロサンゼルスの天才ベーシスト」という人なのらしい。とはいえ、そんな肩書など知らなくても、そしてジャズを殆ど聴かないオレにとっても、このアルバムはとても面白い。一聴して非常に引き締まったジャズ・ファンクのテイストではあるが、なんだかこう、茶目っ気があるサウンドで、そして美しく、さらに楽しい。ジャズ門外漢のオレですら、「これはなんなんだ?」と聴き入ってしまう。傑作。 《試聴》

Drunk

Drunk

 

■The Distance / Gaussian Curve

The Distance
Gaussian Curveはアムステルダムを拠点として活躍するGigi Masin、Jonny Nash、Marco Sterkの3人によるユニットだ。このアルバムは彼らの3年振りとなる2ndアルバムだというが、今までこのユニットのことは知らなかった。分類としてはニューエイジ・サウンドということになるのだそうだが、このアルバムに関してはIDMなテクノとどう違うのか分からない。とはいえ、多分レトロ機材も使用しながら構成したと思われるその音は非常に澄み渡ったアンビエント/チルアウト作品であり、リズムボックスや時折聴こえるギターの旋律の使い方からはかつてのファクトリー・レーベルの鬼才、ドルッティ・コラムを思わせるものすらある。このあたりのしっかりした美しいメロディの存在と楽器音の絶妙な使い方が凡百のアンビエントと違う部分だろう。これはいつまでも聴き続けたい名盤の一つと言ってもいい。 《試聴》

The Distance

The Distance

 

■Silent Stars / Jimpster

SILENT STARS
最近最も繰り返し聴いているのがJimpsterによるこのアルバム、『Silent Stars』。Jimpsterはこのアルバムで初めて知ったアーチストだが、UKのテックハウス・プロデューサーとして20年以上ものキャリアを持っているのらしい。一言でテックハウスと言っても様々ではあるが、個人的には打ち込み主体で機械的に漂白を掛け過ぎたハウスといったイメージもあり、作業用で聴くならまだしもアルバムとして感銘を受け愛聴する程のアーチストはそれほど思い浮かばない。しかし、このアルバムは違った。十分にメロディアスであり、さらにドラマチックでロマンチックでもあるのだ。サンプリングされた個々の音に対する配慮が実に行き届いており、それがシンフォニックに響き渡る様は非常に有機的な音の結合を感じる。R&Bの熱情とジャズのメランコリーも加味されながら、かといって情感の高さのみに振り切れることなく、マシーンミュージックのクールな美しさも兼ね備えている。これはもう非常に知的な音楽構成を練っているからということなのだろう。特に『The Sun Comes Up』では、バレアリックな落ち着きと長閑さから始まりながら、中盤からうねるようなコーラスがインサートされ荘厳に盛り上がってゆく。こういった技巧の数々が堪能できる非常に優れたアルバムなのだ。これは今回の強力プッシュ盤だ。 《試聴》 

SILENT STARS

SILENT STARS

 

 ■Loop-Finding-Jazz-Records / Jan Jelinek

Loop-Finding-Jazz-Records
Jan Jelinekが2001年にリリースした1stアルバムのリイシュー。このアルバムは古いジャズのアナログ・レコードをサンプリングして構築されたものだというが、これが実に素晴らしい。いわゆるジャズ・サンプリングというとヒップホップあたりでは割とお馴染みの手法なのだろうが、このアルバムでは相当なトリートメントを施しているのか、音源がジャズなのにもかかわらず聴こえてくるのはダウンテンポミニマル・テクノであり、さらに言うならこれはダブ・ミュージック化されたジャズという表現もできる。また十分にアンビエント的な味わいもあり、クールダウンにも最適だ。15年以上たっても全く古びていないばかりか今でも十二分に新しい。それにしてもこんなアルバムの存在を今まで知らなかったとは。名作であり名盤なので是非聴いてください。 《試聴》

Loop-Finding-Jazz-Records

Loop-Finding-Jazz-Records

 

■Mulatu Of Ethiopia / Mulatu Astatke

Mulatu of Ethiopia
いつもは殆どエレクトロニック・ミュージックばかり聴いているオレだが、実は最近、部屋でジャズを聴くことも多くなってきた。聴くというよりも、単にBGMとして優れているから鳴らしているだけで、全く造詣はないし、思い入れもないのだが。そんなオレが最近部屋でよく流しているジャズ・ミュージックの一つがMulatu Astatkeによるアルバム『Mulatu Of Ethiopia』、いわゆる「レア・グルーヴ」モノである。Mulatu Astatkeは1943年エチオピア生まれのミュージシャンで、ヴィブラフォン、パーカッションを操る打楽器奏者だ。「エチオ・ジャズ」の生みの親と呼ばれ、現在も現役で活躍中のジャズ親父である。詳しいバイオなどはネットで調べてもらうとして、なぜジャズに疎いオレがよりによってエチオ・ジャズなんかを聴いているのかというと、その独特な音が面白かったというのがある。まず全体的に妙にこってりしている。そしてホーンの音がやはりねちっこく、さらにセクシーだ。音も十分に黒々している。詳しくはないがいわゆるアフロ的な音だということなのかもしれない。オレの知るようなジャズの音がキリッと冷やしてライムを加えたジンのような無駄のない味わいだとすると、このMulatu Astatkeの音はカルーアリキュールにホットコーヒーとホイップクリームを加えたティファナ・コーヒーのような味わいだ。燻されたような甘い匂いが漂っている。しかし全体を見渡すとこれはこれでジャズの音に間違いない。そういった"臭み"の面白さがオレがこのアルバムを気に入った理由である。このアルバムは7曲のステレオ・バージョンに同じ7曲のモノラル・バージョンが同時に収められているが、やはり若干響きが違う。さらに日本版には9曲分のセッションのダウンロードコードが付いていてちょっとお得だ。 《試聴》

Mulatu of Ethiopia

Mulatu of Ethiopia

 

 ■Fabric 94 / Steffi/Various

STEFFI

DJMIXの老舗シリーズ「Fabric」は常にその時々の最新の人気DJを起用し、オレもちょくちょく購入して聴いているが、今回のDJ、Stiffiによる『Fabric94』はこれまでのシリーズの最高傑作なのではないかと思っちゃうほど素晴らしい。基本はテクノ・エレクトロニカなのだが、アルバム全体の統一感が段違いなのだ。アゲ過ぎずサゲ過ぎず、一定のテンションとムードをラストまで淀みなくキープし続け、全15曲のMIXながらあたかもトータル1曲の組曲のように完成している。DJMIXの醍醐味はまさにそこにあるのだが、ここまで高いクオリティを維持しつつMIXしている作品も珍しい。今作は全作新作のエクスクルーシブトラックで構成されているが、調べたところStiffiがあらかじめアルバム全体のイメージを各プロデューサーに伝え、それによりこのトータル感が生まれたのらしい。そしてその「全体のイメージ」となるものがWarpのクラシックCDシリーズ『Artificial Intelligence』だったのだという。おお、『Artificial Intelligence』!フロア向けハードコアテクノのカウンターとして生み出されたIDMの草分けとなったシリーズであり、美しく繊細で静謐で、強力に内省的な作品が数多く並ぶ画期的なシリーズだった。特にオレはカーク・ディジョージオの各名義の作品の多くに心奪われていた忘れられないシリーズである。この『Fabric94』はその正統な血筋を持ったアルバムであり、『Artificial Intelligence』のハート&ソウルを現代に蘇らそうとした傑作なのだ。個人的には今年リリースされたエレクトロニック・ミュージック・アルバムの中でもベスト中のベストと言っても過言ではない名盤の誕生だと思う。 《試聴》

STEFFI

STEFFI

 

■ De-Lite Dance Delights / DJ Spinna/Various

DE-LITE DANCE DELIGHTS (日本独自企画)

クール&ギャングを見出したことでも知られる70~80年代の名門ファンク/ディスコ・レーベルDe-Liteの珠玉作をNYで活躍するDJ SpinnaがMix!いやなにしろディスコなんだけれども、これがもう一周回って素晴らしい!伸びやかなヴォーカル、カリッとクリスプなギター、エモーショナルなストリングス&ホーン、キャッチ―なメロディ、ファンキーなリズムはひたすら歯切れよく、そしてどことなくお茶目。どれもこれも音のクオリティが非常に高い。この心地よさはまさに極上。いやあ、ディスコ、侮りがたし!今回の強力お勧め盤。《試聴》

DE-LITE DANCE DELIGHTS (日本独自企画)

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■Late Night Tales / Badbadnotgood/Various

Late Night Tales - BADBADNOTGOOD - [輸入盤CD / アンミックス音源DLコード] (ALNCD46)_475

様々なアーティストがダウンテンポ曲中心のMIXをアルバムにまとめた人気シリーズ「Late Night Tales」の最新作キュレーターはヒップホップ・ジャズ・ファンク・カルテットBadbadnotgood。というかこの「Late Night Tales」ってシリーズもBadbadnotgood自体も全く知らなかったんだけど、いいわ、これ。サイコーに和むわ。よくもまあここまで和みまくる曲ばかり集めたものだなあ。これも今回の大プッシュお勧め盤。 《試聴》

Late Night Tales - BADBADNOTGOOD - [帯解説 / アンミックス音源DLコード / 国内仕様輸入盤CD] (BRALN46)

Late Night Tales - BADBADNOTGOOD - [帯解説 / アンミックス音源DLコード / 国内仕様輸入盤CD] (BRALN46)

  • アーティスト: BADBADNOTGOOD,バッドバッドノットグッド
  • 出版社/メーカー: Beat Records / Late Night Tales
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: CD
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■New Energy / Four Tet

New Energy

エレクトロニカ・ファンなら人気実力共に誰もが認めるFour Tetだが、オレも嫌いではないにもかかわらずどうも「Four Tetの音」というものをすぐイメージできないでいる。いやそりゃあ変幻自在だからといえばそれまでだが、というよりも所謂"エレクトロニカ"な音からこの人の音というのはスルッとすり抜けているからなのかなあ、という気がしないでもない。そのデビューがポスト・ロック・バンドであったり、ジャズや第3世界の音に接近したりフォークトロニカの第一人者と目されたり、こうして並べてみても確かにエレクトロニカの中心にいるわけではない人なのだが、中心にいないからこそ見えるエレクトロニカの音をこの人は作り続けているのかなあ、などとなんとなく思いつきで言ってみたりする。Four Tetのニューアルバム『New Energy』ではアンビエントダウンテンポな曲とミディアムテンポの曲とが半々で、最初に聴いた時はやはりどうもトータルなアルバムイメージがすぐ湧かなかったのだが、聴き続けてみると、ああこれはそれぞれが違うスケッチやリリックのようなもので、DJMix聴いてるみたいに「トータルイメージがー」とか言って聴くべきじゃなかったんだな、と気づかされた。そして1曲1曲に注視しながら聴き、その差異と共通項を見出すことで、Four Tetの全体像がふわっと浮かんでくるのがこのアルバムなのかな、とも思った。こうしてそれぞれの曲の輪郭を把握してみると、いややはり単純に、よく出来たいいアルバムですねこれは。非常に内省的な作品集であり、一つ一つの音をきわめて注意深く扱うことによってとても繊細な構造の音として完成している。それは効果的に使用されたアコースティック音に顕著だろう。抑制されつつもやはりエモーショナルなのだ。そしてこの人の音は、なんだか優しいな、という気がする。  《試聴》

New Energy

New Energy

 

■Glass / Aparde 

Glass

”最近聴いたエレクトロニック・ミュージック”の覚書をブログにぽつぽつ更新しているが、全体的に見渡してみるとオレがよく聴くのは静かで綺麗目、あるいはメランコリックで、ダウンテンポ気味の音が多いなあという気がする。いわゆるリスニング向けというのになるのか。フロア向けの音も聴くけれども、割合としては多くない。多分エレクトロニック・ミュージックに興奮ではなくリラックスやリフレッシュを求めているんだろう。まあオレも結構なジジイなので、和みたい・寛ぎたいってことなんですな。いや、いろいろ疲れてるんですよ……。そんな癒されたいジジイであるオレが最近外で・あるいは部屋でよく聴いているのがドイツのApradeによるこの1stアルバム『Glass』。緩やかなダウンビートに浮遊感たっぷりのシンセと抒情的なピアノが被さり、とても元気の無い切なげな歌声で全体を〆る、という実にオレ仕様のリスニング向けアルバムとなっている。ホラー映画の1場面みたいなジャケットも鬱っぽくていい。というか、オレはこのぐらいの静かでささやかな音が最も好きなんだろうと思う。あんまりささやか過ぎて聴きはじめたと思ったらいつの間にか終わっている。強い主張が無い音とも言えるが、だからこそふわふわと空気中に漂わせておける。そんな部分が心安らぐ。いや、いろいろ疲れてるんですよ……。 《試聴》

Glass

Glass

 

■Ambient Black Magic / Rainforest Spiritual Enslavement

Ambient Black Magic

ああ、雨だ。雨が降っている。Rainforest Spiritual Enslavementのアルバム『Ambient Black Magic』は、どこまでも、ひたすら、雨が降りしきっている。CD2枚組のこのアルバムのCD1は34分に渡るアンビエント・ダブ・テクノ『Jungle Is A Shapeshifter』1曲のみが収録されているが、幽玄なドローン/ダブ音響の背後で、しとど降る雨の音が34分のほぼ全編に渡り延々と鳴り止むことなく響き続けているのだ。「熱帯雨林の精神的な奴隷化」といユニット名、そして黒々とした木の枝の陰に身を潜める大蛇が描かれたアルバム・ジャケット、これらからも、人気のない鬱蒼としたジャングルにどこまでも降りしきる雨、といったイメージが補強され、さらにその音は低音がドロドロと響き渡り続けるドローン/ダブであり、それらから、得体の知れない秘境に入り込んでしまったかのような錯覚すら憶えさせる音となっているのだ。そしてその音を聴くにつれ、自分がたった一人緑の魔境に取り残されたかのような不安感を感じるのと同時に、数多の生命が息吹く大自然に包まれそれと一体化したような安心感、といったアンビバレントな感覚に捕らわれる。こういった感情を呼び覚ます音の没入感が非常に優れた作品なのだ。そしてCD2の1曲目『Beyond The Yellow-Spotted Bamboo』ではさらに17分間に渡り激しい雨に包まれることとなるのだ。《試聴》

Ambient Black Magic

Ambient Black Magic

  • アーティスト: Rainforest Spiritual Enslavement
  • 出版社/メーカー: Hospital Productions
  • 発売日: 2017/10/13
  • メディア: MP3 ダウンロード
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