『マイティ・ソー バトルロイヤル』は銀河のアホアホ兄弟が主役だったッ!?

マイティ・ソー バトルロイヤル (監督:タイカ・ワイティティ 2017年アメリカ映画)

f:id:globalhead:20171105154856j:plain

マーベル・ヒーロー『マイティ・ソー』のシリーズ3作目『マイティ・ソー バトルロイヤル』でございます。

改めて紹介するまでもないと思いますがこの「ソー」、北欧神話の神「トール」を題に採り、神々の国アスガルドの王子ソーが様々な異世界で"鈍器のようなもの"通称ニョニョルン(……こんな名前だったっけ?)をぶん回しながら宇宙の平和のために戦っちゃうよっ!?というスーパーヒーロー作品なんですな。あ、これも書くまでもないことでしょうが例の「マーベル・シネマティック・ユニバース」の一環となっているキャラクターでありストーリーであるというわけです。

で、この3作目なんですが、「神々の国アスガルドラグナロクがやってきちゃうよ!?」というお話になっています。ラグナロクってぇのは北欧神話における終末の日のことでありまして、食べログとかオンザロックとはそれほど深い関係はありません。

ここで「上手い」と思ったのは描かれるのが「アスガルドの危機」であって「地球の危機」じゃないってことですね。どう上手いかというと、地球の危機だったらアベンジャーズのそううそたる皆様が大挙してやってきて解決しちゃうじゃないですか。でもこれはマイティ・ソーが主演の映画、彼が中心になって活躍するにはこの設定が最高に適しているじゃありませんか。

さてお話が始まりわくわくしながら観ていますと、なんだか「アレ?」と思わされてきます。なんかこー、ギャグが多いんです。「お前はデッドプールか?」と思っちゃうほどボケまくるし、弟でありかつての宿敵だったロキが登場すると今度は二人で掛け合い漫才なんですよ。

いやあ、それにしてもロキ、キャラ変わったなあ。昔は歌舞伎町の客引きみたいなテラテラした頭をしたギンギラギンのルサンチマン野郎だったのが、今作ではゲゲゲの鬼太郎ねずみ男並みのセコイ小悪党ですよ。おまけにソーに減らず口叩きながら華麗なずっこけを演じており、もう画面にロキが出て来るたびに「今度はどんなボケをかましてくれるのか」とワクワク感が止まらなくなってきます。

その後の展開もギャグとドタバタ、ボケとツッコミのオンパレードです。とある辺境の惑星でハルクと出会っちゃうソーですが、脳筋ソーと脳筋ハルク、脳筋同士の限りなく頭の悪いやりとりに観ているこちらの頭が「神々の黄昏」状態になっちゃうぐらいです。二人の出会う惑星のボスをジェフ・ゴールドブラムが演じてますが、惑星の統治者のくせに呉服問屋の2代目ボンボン程度にしか見えないのがまた限りなく悲しい……。

おまけに舞台となる惑星は50~60年代パルプSFにしか出て来なそうなひたすらキッチュで悪趣味なコテコテのスペースオペラ風味。「え、今観てる映画、『フラッシュ・ゴードン』じゃないよね?」と思っちゃったぐらい。音楽までレトロな80年代エレクトロポップ/デジロックの音色を響かせ(DEVOのマーク・マザーズボーが担当らしい)、この確信犯的な時代錯誤感が逆に清々しいと思わせてしまうほど愉快痛快なんですな。

こんな「スーパーヒーロー大喜利な世界観の中でたった一人怪気炎を上げているのが今回の宿敵、死の女神ヘラ。しかし最強&最凶の敵の筈である彼女がそもそもソーとロキの姉、という段階で既に出オチ確定しているばかりか、常にいちゃいちゃしまくってるソー、ロキ、ハルクの前では「ハブられて逆ギレしているあんまり関わりたくない人」にしか見えず、果てしなく浮きまくっているのが哀れ。それにしてもヘラ、戦闘形態の時のあの頭の角、重たくねえのかなあ……。

そう、今作『バトルロイヤル』、「アスガルドの危機!」だの「史上最恐の敵!」とかデカイ花火をぶちあげながら、実際やってることはひたすら馬鹿馬鹿しいドタバタと脳筋まみれのスペースオペラ展開で、にも関わらずそれが一周回った楽しさを感じさせてるんですよ。

これ、『ソー』の1作目でやってたら間違いなく叩かれてたでしょうが、これまでのシリーズ、そしてアベンジャーズでの、ソーというキャラの蓄積や立ち位置が完成されていればこその大いなる脱線ぶりだったのでしょう。アベンジャーズ絡みはシリアスになり過ぎてなんだかつまらなく思えてきたのですが、今回の『バトルロイヤル』を見るにつけ、「むしろスーパーヒーロー映画なんてこのぐらいの馬鹿馬鹿しさでいいんじゃない?」とすら思わされました。

というわけで『マイティ・ソー バトルロイヤル』改め『宇宙のアホアホ兄弟・ソーとロキの凸凹銀河旅行』の一席でありました! 


「マイティ・ソー バトルロイヤル」日本版本予告