最近読んだコミックなどなど / 『イノサン (4)』『ルサンチマン(全巻)』『西遊妖猿伝 西域篇(5)』『いとしのムーコ(5)』

イノサン (4) / 坂本眞一

“一度始まった舞踏会は止められない"──。引き返せないダミアン「八ツ裂きの刑」に、シャルルは傷心しながらも、全霊の慈悲を込めて執行することを誓う。だが、叔父の思惑ですり替えられていた駄馬に、刑は行き詰まる…。窮地のシャルルに解決の術はあるのか!? そして、思わぬ存在が…!? 烙印を背負う「無垢なる心」たちの革命の物語が、今、加速する──!!

フランス革命期に実在した死刑執行人一家の数奇な運命を、華麗な描線と徹底的な残虐描写で描く歴史絵巻第4巻。この巻では前頁のほぼ3分の2を使って「八ツ裂きの刑」の執行の様子が描かれる。これがなにしろ凄い

パリで八つ裂きの刑が行われるのは147年ぶりということで、誰もその実際の手順がどうなのかが分からなかった。そこで判決を聞いた2人のサンソンは必死で公文書や歴史資料を読みあさり、八つ裂きの刑の執行手順や必要な用具を調べ上げた。
八つ裂きの刑はあらゆる刑罰の中でも必要な用具と人員が最も多い刑罰なため、サンソンたちは準備に奔走した。国王の弑逆未遂という大逆罪を犯した犯人の処刑である。万一当日になっても用具が揃わず刑の執行ができないようなことにでもなれば、一転してその執行人の責任が厳しく追及されかねない状況にあった。
Wikipedia:八つ裂きの刑

その残酷さはもとより、この刑がどのような状況でどのように行われるのかが詳細に描かれているのだ。ただ残酷な描写であるというだけではない、それがどれほど残酷なものであったかが詳らかにされているのだ。サンソンは死刑執行人でありながら後に死刑制度反対者となるのであるが、ここでも残酷な刑に処せられた罪人の苦痛をどこまで和らげてあげられるかに腐心する。ある意味この物語の核心であり、最初のハイライトとなるべきエピソードであろう。そもそも「八つ裂きの刑」をここまで詳しく描いたコミックなど古今東西存在したであろうか。いやあ、今まで「女顔のエモな主人公がうじうじしながらゴスな展開をする物語」だなんてナメたこと言ってて正直スマンかった。物語はこれから、後にサンソン本人が処刑することになるマリー・アントワネットとの出会いを描くこととなる。どんどん壮絶になっていくぞこの漫画。これからが楽しみだなあ。なお、この巻では巻末にサンソン一家とフランス死刑史について書かれた特集文があり、これもまた読みごたえたっぷり。

ルサンチマン 新装版(上)(下) / 花沢健吾

ルサンチマン 上 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ルサンチマン 上 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ルサンチマン 下 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ルサンチマン 下 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

物語の舞台は、2015年、東京。デブ、ハゲ、素人童貞のたくろーは、30歳の誕生日に運命の彼女と出会う。しかし、それはアンリアル――バーチャルリアリティープログラムによって構成された世界・仮想現実の中のAIキャラクター・月子だった……「現実を直視しろ。おれ達にはもう仮想現実しかないんだ」月子に惹かれていくたくろーだったが、彼女の存在には大きな秘密が隠されていた……

アイアムアヒーロー』があまりに面白すぎるので、作者である花沢健吾の2004年デビュー作『ルサンチマン』を読んでみることにした(Amazonリンクは上下2巻の新装版だけど、実際読んだのは最初に出ていた4巻もののほう)。物語は花沢健吾お得意のヘタレキャラが非モテをこじらせすぎてヴァーチャルリアリティ・ゲームのAI少女に入れあげる、というSFチックな近未来モノ。タイトルにある通り、どこまでもしょうもないルサンチマンを炸裂させる主人公が、AI少女の純な魅力に翻弄されてゆく、というまたも情けない物語なのだが、そこにヴァーチャルリアリティ世界で進行する陰謀と、自意識に目覚めたAI、といったテーマを絡めているところがミソ。デビュー作ということもあってか、絵は『アイアムアヒーロー』と比べ物にならないぐらいキタナイし、主人公をはじめとするオタクな連中の描写はキモく描きすぎだし、物語進行もあっちにふらふらこっちにふらふらで主題を見失いがちだし、そのテーマ自体も未消化だし、そういった部分で完成度的がイマイチだから、オレと同じく『アイアムアヒーロー』で花沢健吾のファンになった人にはあんまり薦められないところがある。けれども、この処女作の反省点から花沢健吾は現在の花沢健吾になったということもありありと判って、だから決して無意味な作品というわけではないのだ。お小遣いに余裕ができたら次の長編『ボーイズ・オン・ザ・ラン』も読んでみたいな。

西遊妖猿伝 西域篇(5) / 諸星大二郎

冷酷な傭兵(ようへい)隊長・ヴァンダカ! 恐怖の刺客・サソリ女! 難敵たちの追撃をかわし、玄奘一行は伊吾(いご)を脱出できるか!? 「サソリ女の章」、ついに完結。そして新章では、悟空の中に眠る大妖怪・斉天大聖(せいてんたいせい)が久々の顔見世! さらに新たなる怪人も登場と、ますます波瀾万丈の諸星版西遊記

5巻出た。もう続いているだけでも、新刊が出るだけでも嬉しい諸星大二郎の『西遊妖猿伝 西域篇』。前半では前回に引き続き、カポエラとよく似た武術を使う殺し屋サソリ女、さらに悟空を追う傭兵たちとの死闘が描かれ、後半ではからくも戦闘から脱出した玄奘一行がまたもや出会う紛争の火種が描かれてゆく。玄奘一行はいよいよシルクロード天山北路に差し掛かるが、ここからまた中央アジア、そしてインドへと旅の行程はまだまだ続くのだろう。…いやあ、先は長いなあ…。

いとしのムーコ(5) / みずしな孝之

いとしのムーコ(5) (イブニングKC)

いとしのムーコ(5) (イブニングKC)

第5巻では梅雨が明けて、こまつさんのガラス工房に夏がやってきます。キレイな虹にムーコビックリ!風鈴にムーコグルグル!かきごおりにムーコキーン!さらに夏の風物詩と言えば高校野球、何とこまつさんの高校球児時代のお話も収録。ムーコの笑顔めっちゃ満載でお贈りしまーす。カバーはお約束の「おはなつやつや仕様」!プールではしゃぐムーコの、ギラギラ太陽に負けないつやつやおはなでお出迎えです!!

お鼻ツヤツヤ柴犬の雌・ムーコと、飼い主でありガラス職人である小松さんやその仲間たちとのラブリーな日々を描くほのぼの動物マンガ。今回もシンプルな幸せで頭がいっぱいなムーコのお茶目な様子が楽しいです。それにしてもスキンヘッド&巨漢のうしこうさんの過去がああだったとは…という衝撃的な事実も描かれていたりします。個人的にはゆるふわ美女篠原さんをもっと登場させて欲しかった!