■ザ・ブルード 怒りのメタファー (監督:デヴィッド・クローネンバーグ 1979年カナダ映画)
『ザ・ブルード』である。プルート。それはこの間惑星の呼び名から外されランク下扱いされている不憫な星、冥王星である。ブルーザー・ブロディ。それはプロレスラーである。ちなみに得意技はキングコング・ニー・ドロップ。そうではない。ブルードとは「獣腹の子」、みたいな意味なのである。沢山の子豚が親豚のおっぱいにブヒブヒ言って群れてるみたいな感じ、あれね。というわけでデヴィッド・クローネンバーグが1979年に撮った劇場長編、それがこの『ザ・ブルード 怒りのメタファー』なのである。
お話はと言いますと、サイコなんちゃらとかいうインチキ臭いセーシン治療がまず描かれるんです。この治療法、心の中の恨みやら怒りなんぞといったドロドロした感情をデキモノの形にして外に出しちゃえ、という治療法らしいんですが、この物語の主人公の別れたヨメがこの治療法受けてるんです。で、物語の進行と共に主人公や元ヨメのトーチャンやカーチャン、さらに娘の先生までが次々と惨殺されてゆくんですよ。それもコビトの姿をした不気味な連中に鈍器でボコ殴りにされてぬっ殺されるんですな!
で、ネタバレするとこの不気味な子供連中というのが元ヨメの生みだしたモノ、つまり「ザ・ブルード」というわけなんですな。元ヨメの恨みつらみがセーシン治療の作用によりコビトの形をしたでっかいデキモノとなってヨメの腹の下から生えてきたんです!それも何個もですよ!?いやあ因業の深いヨメですな!花環和一の漫画に出てきそうなヨメですよ!
人の形をしたデキモノと言えば人面瘡なんていう奇病がありますな。日本の中世から伝わる怪談話のネタなんですが、漫画「ブラックジャック」にも登場してたりします。こちらは人の顏の形のデキモノが体のどこかにできて、それが喋ったりモノを食べたりするそうなんですよ。肘とか膝にできたグチャグチャの人の顏したデキモノが夜中に「ヴヴヴ」とか呻いたり「腹減ったぁ」とか言うんです。で、煮干しとか食わせるとパクパク食う。いやあ気色悪いですね。食ったもんどうやって消化するんだ?とかは言わない約束ということでお願いします。
で、この人面蒼がさらに発展していわゆる「人体蒼」になっちゃった、というのがこのお話なんですが、そもそも人の形をしたデキモノが独立して生きててさらにそれが人を襲う、という発想が既に異常(褒め言葉)ですわな。しかもそのブルードが何人もいて宿舎みたいなところで寝泊まりしている、という段階で相当シュールです。そのうちブルードの皆さんは労働組合作ったり積立預金を始めたりお互い恋が芽生えて結婚したりするのかもしれませんな。映画ではこの「ブルード」を不気味なメイクをしたちっちゃい子供たちが演じているんですが、これがそれぞれ色違いのヤッケを着ていて、フードを被ると普通の子供にしか見えないんです。それが人々を恐怖に陥れるんですが、「ヤッケ姿の子供が怖い」というのも、この映画の変で面白い所だったりするんですな。
「映画をつなげて観るブログ」さんの「メタファーじゃない?『ザ・ブルード 怒りのメタファー』」という記事によると、この『ザ・ブルード』、前妻との親権争いに疲れ果て、その怒りと怨念から作られた映画なのらしいですな。子育てに精も根も尽き果てたデヴィッド・リンチがその悪夢のような日々をあの処女作『イレイザーヘッド』へと昇華したのと似ているかもしれないですな。
まあしかしこのなんたらいう精神療法、心が平穏になるのはいいとして、かわりに体のあちこちが気色悪い腫瘍だらけになっちゃうというのはどうなんでしょうな!体中デキモノだらけになってしまったら逆に心の平穏もなにも無いと思いますけどね!
http://www.youtube.com/watch?v=q4GWFla-Hls:movie:W620
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