夏休み手抜き企画・昔の日記の再録だ!〜『北海道に行っていた(2004年6月27日〜7月4日)』(前編)


夏である。夏といえば夏休みである。この日記も休みたい。そもそも書く事なぞ何も無い。何も無ければ書かねばいいではないか。真っ当な思考能力を持っている方なら通常そう考えられるであろう。しかしだ。週5日日記を更新することを日課として早9年、このしょうもない頭と身体に染み付いた習慣は早々消えないのである。休みたい。でも日記も更新したい。そのような一般社会人にはどうでもいいような葛藤を経てオレは名案を思いついたのである。「昔の日記を再録しよう!」
という訳で今回、2004年6月27日から7月4日まで飛び飛びで更新した『北海道へ行っていた』という記事を再録することにした。実はこれ、旅行に行っていたわけではなくて、亡くなった伯父の葬式に突然出かけなければならなくなったオレのドタバタ道中を日記にしたためたものである。9年前、ブログというものを書き始めの頃の記事なので、今読むと相当青臭く、つまらないことで粋がっている内容なのだが、だいたいそのまま再録することにした。まあ今でも相当青臭い上につまらないことで粋がっている人間なんだが…。なお結構な長文なので2日に渡ってお送りすることになる。夏休みでお暇な方はどうぞお付き合いください〜。

(以下から日記再録分になります)

実家から連絡

木曜の夜、北海道の実家から電話があり、親戚に不幸が出たとの事。母親の兄、オレの伯父が事故死したらしい。オレの伯父は沿岸漁業をやっていたのだが、早朝つぶ貝採りに出かける途中、誤って車ごと海に転落したと言う。享年69歳。金曜日に通夜、土曜日に告別式との事なので出席できるか、ということだった。
オレは親戚付き合いというものが嫌で、というより親戚の存在そのものが嫌いで、こういうものとは殆ど係わる事が無く歳を経てきたが、なんだかこの日、「もうこういうの嫌だとか言ってるの止めようかなあ」と突然思った。それで、出席することにした。結婚してから実家を離れて、5年ほど会ってない妹とも会いたかったし、何しろ、取り合えず、オレの親戚って、今どうなってんの?という単純な興味が沸いたんである。
いや、「理由がどうとかではなく、親戚の冠婚葬祭に出るのは社会人の常識」ではあるのだが、オレという人間は、どうもちゃんとした常識が身についていないのだ。という訳で、自分なりに一つ“常識”を取り戻したオレは、金曜日の早朝、親戚の家がある北海道の函館へと向かうことにした。

北海道

ところで、「函館に向かうことにした」はいいのだが、オレが住んでるのは東京都内。交通はやはり飛行機になるだろう。で、ネットで羽田=函館の空席を調べたが、これが、殆ど無い。これが木曜の夜。しかし、「どうにかなるだろう」と金曜日は特に何も考えず朝から空港へ行く。で、当たり前だが、本当に空席が無い。結局PM2時ごろの飛行機を見つけるが、この段階で、AM9時。チケットは買えたが、時間が余りすぎる。
で、何をしたかというと、アパートにもう一回戻って荷造りをし直す。さらに有楽町に行って白シャツと黒ネクタイを調達する。白シャツはクリーニングに出しててこの時点で無かったんである。で、もう一度空港へ。もうこの時点で、オレがいかに無駄の多い生き方をしているか察した人も多いだろう(…)。
PM4時ごろ、函館到着、空港〜JR函館駅へバスで行く。実は親戚の家はここからさらにバスのローカル線に乗って長旅しなければならないのだ。
それにしても函館の駅は20年ぶりぐらいじゃないか?と思う。オレの実家自体は北海道の、というか日本の一番北、最北端の地稚内というところにある。函館は北海道の南端。にもかかわらず、街並みのスカスカした寂れた様子、空一面にアルミ板を打ち付けたような鈍色の空、バスの移動中見かける原野の植生など、どこまでもが妙に実家に似通っていて、偏頭痛のようなデジャ・ビュに悩まされた。ああ、北海道は何処までも北海道だ。
函館には路面電車が走っていた。此処だけなんだかレトロな風情があって、オレは少し函館が好きになった。今や何処の地方都市も風景が一緒な気がするけど、やっぱり地方都市はこういう“独特さ”が必要なんじゃないかな、とかガラにも無く真面目に思うオレであった。

取り合えず食事

函館駅ロータリーから目的地へのローカルバスの時間はPM6時40分。時間が空いてるので取り合えず食事。「北海道ならラーメンだろ」というその辺の観光客と同じ紋切り型の理由でラーメン屋を探し、見つけた店で味噌ラーメンを注文。北海道は味噌ラーメンですよ皆さん。もやしたっぷりが基本なんですよ。東京の人間と以前話したとき、「味噌ラーメンって味噌汁にラーメン入れてるみたいで薄気味悪い」とか言われたことがあるが、オレにとっては味噌ラーメンこそが北海道的ソウル・フードなのである。
まあ味はたいしたことなかったけど。というか、北海道のラーメンの麺の基本は縮れ麺だろ!普通の柳麺使ってる味噌ラーメンはペケだ!
ところでこの店で、オレも知らない名前の北海道メニュー(?)を発見。ちょっと書き出してみるね。
「ザリジ」:豚肉のから揚げ。(鶏肉のから揚げを「ザンギ」っていうのは北海道では一般的)「クローヨー」:酢豚。「フヨーハイ」:かに玉。いったい何語だ?
あと駅ビルにはTVドラマ「新撰組」にあやかってか「土方歳三ラーメン」というのがあった。食わなかったが。どういうラーメンなのか気になる。で、ググッたら単なるタンメンだった!

現実感

そもそもこの度の旅の趣旨は「お葬式」なのであって、こんな浮かれた調子で文章なんか書いてていいのであろうか、とか思うんですが、なにしろ会社休んで飛行機飛び乗る、って段取りを組んだ段階で既に現実感を喪失しちゃってるんですよ。もう非現実の世界に入ってるんですよ。昨日の今日、自分が北海道にいるなんて想像すらしなかったもの。これから待っているであろう事も、お葬式にしろ親戚達に会うことにしろ、自分の生まれた土地に30年ぶりぐらいで足を踏み入れることも、なにもかもへらへら生きてた現実からすっぱり切れてる未体験ゾーンなわけなんです。よく、不祥事を起こした会社の責任者が、記者会見のときウヘヘ、と笑っちゃったりして、善良で朴訥で勤勉実直でセックスは月一回正上位のみっていう小市民の皆さんから「けしからん」とか「不謹慎だ」とか「通報してやる」とかお叱りの言葉を受けるじゃないですか。でもオレあのウヘヘッって判るんですよ。あれ、連中は、現実感を喪失しちゃってるんですよ。

バスに乗る

函館駅ロータリーから目的地へのローカルバスの時間はPM6時40分。」って所から続けよう。
実を言うと函館から目的地への交通手段って良くわかんなかったんですよ。調べる暇も無かったし。このローカルバスって奴も、「多分これだろう」というオレの希望的憶測によって成り立つ何の根拠の無い選択だった訳なんですよ。
普通、人間は、こういうとき、せめてそれが正しいのかどうか、人に訊くなりして確認とりますよね。ところが、オレ、 人に物訊くのが大嫌いなんですよね。「多分大丈夫だろう」と思ったら、それは既に大丈夫なんですよ。
賢明な読者(って読者いるのかよこの日記)の皆さんならこの後の展開を既に予想されているでしょう。そう、このバス、目的地に行かなかったんですよ。
いやー、途中で、なんかおかしいな、と思ったんですけどね。普通、人間は、こういうとき、おかしいなと思ったら、バス運転手に訊くなりバス降りるなりしますよね。しかし、オレは、「ま、なんとかなるだろう」 と、自分で手を下さないくせに事態が都合の良い方向に勝手に行ってくれるだろう、行けばいいな、行くんじゃないかな、と手をこまねいて夢の世界に旅立っちゃうんですね。
そもそも、オレという人間の行動の規範は、
「思いつき」
「行き当たりばったり」
「気分次第」
なのだ。さらにその行動全てを統べるオレ自身のセントラルドグマ
「学習能力が皆無」
という血の十字架を背負っているのである。
よく、友人なり付き合ってる異性の本当の性格を知りたかったら一緒に旅行をしてみるといい、なんて言われるが、オレという人間は、多分、一緒に旅行をさせたらサイテーの人間だと思うね。今回の旅でも自分で思ったもの。もし今回誰かと一緒にいたら、一緒にいた人間は絶対キレるだろうね。
そうやって2時間あまり。午後9時近く。バスに揺られていたオレが最後に辿り着いたのは、街路灯一つ無く、まばらな民家にさえ家の灯りが点いてない、真っ暗な山の中のバス・ターミナルなんであった。そして、そこで、この鈍い男はやっと気付いた。
「此処、何処なんだ?」
遅いよ。あまりに気付くのが遅いよオレ…。

(明日に続く)