久住昌之のぶらり呑兵衛紀行な本3冊

■昼のセント酒 / 久住昌之,和泉晴紀

昼のセント酒

昼のセント酒

「昼間っから銭湯に浸かってたっぷり暖まったら銭湯近くの飲み屋に入ってウマー!!」というお気楽の限りを尽くした久住昌之さんの銭湯・居酒屋ルポであります。のんびり軽くスカスカした読み口だなあと思いつつ読んでいたんですが、内容が内容だけに読んでいて酒が呑みたくなる(当然銭湯にも行きたくなる…が、銭湯入りながら銭湯ルポ読むわけにはいかない)。そんななので途中からビールを冷蔵庫から取り出して呑みながら読み始めると、これがなんと!文章にエラいハマる!素面で読んでいた時にはそこそこ楽しい文章だったものがとっても楽しい文章になる!これは酒呑みながら読むのが正しい読み方の本じゃないですか!酒の酔いにほわんとしながら、気さくで気取らない久住さんの文章を読んでいると、なんだか久住さんと一緒に酒呑みながら以前入った銭湯やぶらっと寄った居酒屋の話を聞かされているような気分になる。この本の銭湯ルポ最後の章はかつて久住さんがお世話になっていたガロの青林堂社長・長井勝一氏と入った銭湯の思い出。これがまたぐっとくるんだ。

■ちゃっかり温泉 / 久住昌之,和泉晴紀

ちゃっかり温泉

ちゃっかり温泉

こちらも『昼のセント酒』と同様、「昼間っから温泉浸かって温泉近くの飲み屋に入ってウマー!!」という、さらにお気楽にお気楽を重ねまくった温泉・居酒屋ルポであります。しかし温泉とはいってもそこは久住さん、OLさんやカップルが出掛ける様な綺麗でオサレな温泉なんかでは決してありません。主に都内・関東周辺を中心に、鉱泉の出る身近な温泉施設を渡り歩いているんですな。ファミリーランドなんてェ名前の付いたそれなりに大きな施設の温泉もありますが、見た目的には殆ど銭湯のような所や、「寂れ始めている、というか滅び始めている」といったような魔界のごとき温泉(「浅草観音温泉と牛すじ煮込み」)まで登場します。全体的には閑散としている、混んでいても爺さん婆さんばかり、そして昭和の臭いのする温泉が多かったですな。なんかこう読んでいて「ここ楽しそう!行ってみたい!」というよりは「怖いもの見たさに覗いてみてもいいかも」といった感じなんですよ。どこも共通するのは、日常的に入る銭湯とは違い、温泉はもっともっと緩く、そして非日常的な雰囲気があり、風呂上がりには食事したりお酒飲んだりできるスペースが設えられている、といったところでしょうか。そういえばなんかこういう感じの施設、田舎にもあったなあ。車で出かけて温泉入って兄弟でエアホッケーやってその後家族でジンギスカンとか食ったなあ。大座敷では演歌ショーとかやってたなあ。楽しくはあったけど少々退屈でもあったなあ。なんだかそんなことを思い出しちゃいました。

■ひとり家飲み通い呑み / 久住昌之,久住卓也

ひとり家飲み通い呑み

ひとり家飲み通い呑み

一方こちらは久住昌之・卓也の兄弟ユニットQ.B.B.による『ひとり家飲み通い呑み』。久住さんが一人お家で様々な料理やつまみを作ったり買ってきたりしながら「これに合わせる酒はこれだ!」とばかりに独断と偏見であれやこれやの酒類を持ち出して、その食いまくり呑みまくりの至福とグダグダ感を、時に自分突っ込みを入れながら、時に勝手な妄想に酔い痴れながら、グルーヴィー&ファンキィーに楽しむといった内容。当然久住さんの事だから気取らず気張らず安上がりで庶民しまくった、ちゃちゃっと作れてちゃちゃっと食える「男の料理」というか「男な料理」がメイン。そして呑む酒もビールやホッピーや焼酎ロックやハイボールみたいな、やっぱり気取らず気張らずな酒をその時の気分だけで選択、それをあれやこれやの理屈をつけて「この酒でなきゃ駄目なんだ!」となんだか分かんないけど納得させる、もはや「久住芸」とでも呼びたくなるような絶口調が楽しい1冊になっております。そして後半では【特別付録 Q.B.B.の幼稚な大人漫画】が収録、こちらもテンガロンハット被った謎のおっさんがしょーもないクダをまきつつグダグダしている愉快な漫画で、さらに第二部「今夜もひとり居酒屋で」では久住さんの(その辺の)居酒屋紀行が載せられております。自分は「B級グルメ」という言葉には卑屈さと虚栄の臭いを感じるからなんだか好きじゃなくて、そうじゃなくていつも食ってるような好きなものを好きなように好きなだけ飲み食いすることの愉悦を実にリラックスした態度で追求する久住さんのこんなエッセイはやっぱり読んでいて落ち着くものを感じました。