ウーパー!?ルーパー!〜映画『LOOPER/ルーパー』

LOOPER/ルーパー (監督:ライアン・ジョンソン 2013年アメリカ・中国映画)


2074年、タイムマシンが可能になった未来。その未来では殺人が簡単に足がつくため、ある犯罪組織がタイムマシンを悪用し、消したい人間を30年前の過去に送り出し、そこでルーパーという殺し屋に処刑させていた。主人公はルーパーの一人、ジョー。しかしそんなジョーのもとにある日、処刑されるべく送られてきたのは、30年後の自分だった。30年前のジョーを殴り倒し逃走するオールド・ジョー。オールド・ジョーは実は、自らの悲惨な事件を変えるために、過去へとやってきたのだ。そしてヤング・ジョーは"未来の運命を変えるためにやらなければならない殺人"のターゲットを知り、苦悩する。
ジョセフ・ゴードン=レヴィットブルース・ウィリス主演のタイム・トラベル・テーマSF映画、『LOOPER/ルーパー』です。「苦痛に満ちた未来を変えるためにやってきた男」ブルース・ウィリスといえば映画『12モンキーズ』を思い出しちゃいますが、この映画、物語的には『ターミネーター』なんですね。しかし『ターミネーター』は未来の救世主的主導者を抹殺するためにロボット軍団が過去へ刺客を送る、というものでしたが、この映画はその逆で、未来の暗黒社会に君臨する謎の男「レインメーカー」を、過去に戻って子供時代のうちに抹殺するためにオールド・ジョーがやってくるというものなんです。その子供の母親の名前がサラ。そう、『ターミネーター』のサラ・コナーのサラなんですね。
しかしヤング・ジョーは彼の時代にはまだ決定していない未来のためにどこかの子供が殺される、ということに対して逡巡します。この、「まだ決定していないはずの未来に起こる犯罪の為に現在の犯罪予定者を罰する」というプロットは、トム・クルーズ主演・スティーブン・スピルバーグ監督のSF作品『マイノリティ・リポート』に通じるものがありますね。そして映画冒頭に描かれる、貧困に喘ぐものと金持ちとの格差社会、といった光景は、時間テーマとはちょっと違いますが、タイトルが時間そのものである『TIME/タイム』を思い起こさせました。また、ループする時間、といったテーマにはダンカン・ジョーンズの『ミッション:8ミニッツ』という優れたSF映画がありましたね。
物語は中盤までちょっとドタドタしています。まずこの世界の背景をずっと台詞で語って説明するのが若干映画話法として下手かな、と思ってしまいました。構図やカットなどの画面作りも平板で、これもなんだかいただけません。また、SF作品なのにもかかわらずSF的なガジェットへの偏愛や映像自体へのこだわりが足りなく、「とりあえず未来っぽくしてみました」というやっつけ感が物語への興味を殺いでしまいます。最大の瑕疵は、「人を容易に殺せないことになっている未来」ということが物語コンセプトなのに、その未来の描写でうっかり殺人が行われていて、そしてその殺人が物語に大きく関わってしまっている、ということです。
確かにそんな部分で中盤まではちょっと舌足らずかな、と思う部分もありましたが、物語自体は牽き付けられるものがあるんですね。なにしろこの映画、展開が読めないんです。物語の落としどころをどこに持って行こうとしているのか、全然予想がつかないんですよ。とりあえず生き延びたいヤング・ジョー、悲痛な未来を変えるべく殺戮を繰り返すオールド・ジョー、二人は同一人物なのに共闘しているのかと思えば反発し、お互いの「未来」というもののとらえ方も違います。どちらが正しいわけでも間違っているわけでもないけれども、その二人の行動によって確実に未来は変わる、しかし、その変わるべき未来がどちらに転ぶのかが全く分からない、どのような形で決着が付くのかが分からない、そこがこの映画を面白くしているんですね。
そしてそんな風に思って観ていると、なんとその中盤から突然思いもよらない展開を見せ、「え、実はこれがテーマだったの!?」とびっくりさせられてしまうんです!ネタバレになるから書きませんがこれって『XXX』じゃん!こう来たかよ!?時間SFだと思って観ていたのに予想外の映像がバーンと出てきて、正直これはヤラレました。おかげで前半の不満はチャラ、あとはハラハラしながら物語の行方を見せられることになるんです。そして映画は驚愕のラストを迎えますが、しかしこれ以外無い、という鮮やかなラストでもありました。映画『LOOPER/ルーパー』は決して完璧ではありませんが、きっと観る人を魅了する作品だと思いますよ。

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