ベルリンの伝説的クラブ【Tresor】の素顔に迫るドキュメンタリー〜『SubBerlin - The Story of Tresor』

SUBBERLIN-THE STORY OF
ベルリンに存在する伝説的クラブ【Tresor(トレゾア)】。世界で最も有名なクラブの一つであり、ハードコアなテクノ・ミュージック・レーベルでもあるこのTresorは、ベルリンの壁崩壊と東西ベルリン統一直後の1991年、第2次世界大戦の廃墟がいまだ残る旧東ベルリンのヴェルトハイム銀行跡地の地下室に作られた。崩れかけた壁、空っぽのロッカーや錆だらけ鉄格子が剥きだしのまま残された、それ自体が残骸であり廃墟であるこのクラブは、殆ど暗闇のような暗い照明、低い天井から滴り落ちるクラバー達の蒸発した汗、DJでさえ酸素ボンベを持ち込む酸欠状態の中、ダークで性急なリズムを刻むテクノ・ミュージックが昼夜を徹して大音響で響き渡るというまさに異様な別世界であった。しかしだからこそ、その異空間をクラバー達は愛し、このクラブを世界でも唯一無二の特別なクラブとして認めたのだ。クラブTresorは2005年に閉鎖され、現在は別の場所で再びクラブを開催しているが、このドキュメンタリーでは、関係者とTresorでプレイした世界中の有名DJのインタビューを交えながら、旧Tresorの歴史を遡ってゆく。
テクノ・ミュージック好きの自分にとっても、Tresorは一種別格の存在だ。テクノ・ミュージックはそもそもがシカゴ・ハウスに影響を受けたアメリカ・デトロイトアンダーグラウンドで発生したものだと受け取っていいだろうが、このデトロイト・テクノとベルリンを代表するドイツのテクノ・シーンは非常に親和性が高く、その発展においても、双方のリスペクトがあったからだと言うことが出来るだろう。なぜデトロイトとベルリンは親和性が高かったのか?それはフォーディズム崩壊後の暴動により廃墟と化し、それがそのまま貧しい黒人ゲットーとなったデトロイトの歴史と、ベルリンの壁という第2次世界大戦の遺物が残っていたベルリンの、その廃墟にも似た町並みとそこで暮らす人々の心情に、ある種の共通項があったからなのではないかと思うのだ。言ってみればテクノ・ミュージックというのは、こうした廃墟から立ち上がってくる音楽なのではないかとすら思う。剥き出しで空っぽで、全てが破壊しつくされ、そしてそれと同時に新たなものを生み出す胎芽を孕んだ場所。何も無かったからこそ、逆に彼らは新たなものを、新たな音楽を作り出せたのではないのか。
若者たちは東西ドイツ統一という社会の変化にとまどい、苛立ち、同時に統一の喜びにも酔い、それら沸き上がる感情を昇華するものを必要としていた。そしてそれがテクノ・ミュージックだった。東側の若者も、西側の若者も、分け隔てなく平等に出会える場所、お互いが集まることの出来るただひとつの場所、それがクラブTresorだった。違法クラブとして出発したTresorは瞬く間に音楽好きの若者たちの注目を浴び、大成功を果たす。そしてそれは東西ドイツ統一後の混乱が、逆にエアポケットのように生んだ自由さの賜物でもあった。統一後の混乱に掛かりきりだった警察はこの違法占拠にまるで関知しなかった。そもそもこの廃墟の大家が存在しなかった。その自由さの中で、ベルリンにおけるテクノ・ムーブメントは開花したのだ。ドキュメンタリーでは加速するムーブメントが次に【ラブ・パレード】を生み出す様も描かれる。
しかしそのラブ・パレードも様々な問題を抱え終焉、さらにTresorもその敷地を遂に立ち退く日がやってくる。この旧Tresor最後のパーティーを映し出す最終章はテクノを愛するものに非常に深い感慨を与えることだろう。涙を流すもの、晴れやかな顔のもの。そして一番最後にプレイされたあの曲。しかしこのTresorの終焉は、東西ドイツ統一が軌道に乗り安定し、保守的に機能し始めた結果なのではないだろうか。即ちTresorは時代に呼応して人気を博し、時代の変遷と共にその役割を終えたということも出来ないだろうか。そういった意味で、『SubBerlin - The Story of Tresor』はミュージック・ドキュメンタリーに留まらず、東西ドイツ統一という大きな歴史の動きの中でひとつのサブカルチャー・ジャンルがどのように発展し終息を迎えたかを描く、秀逸なドキュメンタリーだということもできるだろう。
なお、メディアは輸入版CD+DVDという形で販売されているが、輸入版DVDはリージョンと形式によっては日本のDVDプレイヤーで再生することが出来ないので購入には注意が必要だ。自分の購入したものはPAL形式のDVDであり、これは通常日本のDVDプレイヤーでは再生できないが自分はXbox360で試聴した(PAL形式が再生可能なのである)。ただし、輸入版DVDにもかかわらず日本語字幕が付いていて、これはかなり嬉しい。また、CDはアーチスト表記に間違いがあるのでこれも注意が必要(8曲目と9曲目が逆になっている。さらにiTuneに突っ込むと2曲目のアーチストが間違って表記される)。
◆Tracklist(CD)
01.Monika Kruse - Luvsucka
02.System 01 - Drugs Work
03.In niti - Game One
04.Savvas Ysatis - On The Hook
05.Pacou - Phase Transition
06.Scan 7 - Triple Darkness
07.Hiroaki lizuka - Tera
08.The Advent - The Vault
09.X-101 - Sonic Destroyer
10.James Ruskin - Detached
11.Chris Lo - Fils d'O
12.DJ T-1000 - Jetset Lovelife
13.Stewart Walker - Blisterpacks
http://www.youtube.com/watch?v=0f3qKZ5z6Q0:movie:W620

SUBBERLIN-THE STORY OF

SUBBERLIN-THE STORY OF

TRESOR RECORDS 20TH

TRESOR RECORDS 20TH