今年面白かったエレクトロニック・ミュージック

今年も沢山のエレクトロニック・ミュージックを聴きましたが、そのなかから特にお気に入りだったものを選んでみました。

■Passed Me By + We Stay Together / Andy Stott

Passed Me By / We Stay Together

Passed Me By / We Stay Together

最近ではダブステップから様々に進化した音を聴くことができるが、このAndy Stottなどはコラージュ、ループを駆使したアンビエント的でサイケデリックな音を鳴らしている。アルバム『Passed Me By』とEP『We Stay Together』がカップリングになっている盤が出ており、そちらのほうがお得でありましょう。

■Street Halo + Kindred / Burial

Street Halo / Kindred [解説付・国内盤] (BRC320)

Street Halo / Kindred [解説付・国内盤] (BRC320)

ダブステップの鬼才Burialの去年と今年リリースされたシングルのカップリング盤。『Street Halo』では相変わらずのダーク&メランコリックさだが、『Kindred』は一転、よりエモーショナルな展開を見せ、今後発売されるであろうニューアルバムの完成が非常に楽しみだ。

■Hive Mind / Ital

Hive Mind

Hive Mind

ItalはUSインディの人でこのアルバムは”ネクスト・バレアリック・ハウス”なんて呼ばれているらしい。確かにダンス・ミュージックのリズムは刻んでいるのだけれど、ユラユラと音の芯が動いてゆくような感じが奇妙で、そして10分程度の長めの曲は催眠的な音の連なりを見せ、ジャケットの如くサイケデリックさを感じさせるのだ。

■Made For The Night / Jesse Rose

Made for the Night-Mixed By Jesse Rose

Made for the Night-Mixed By Jesse Rose

ブラジル生まれでロンドン在住のDJ、Jesse RoseのDJMix。1曲目がHenrik Schwarzと共作の「Stop, Look & Listen」という部分からこのMixアルバムのインテリジェントな音の構成が伺われるというもの。アルバムはJesse Roseのドキュメンタリー・ショート・フィルムのサウンドトラックでもあるらしい。

■Ame Live / Ame

AME LIVE

AME LIVE

結成10年を迎えたINNERVISIONSレーベルからリリースされたAMEのライブ・アルバム。ライブといってもクラブの熱い空気が伝わってくる!というものではなく、あくまでもRemix等を含めたAMEのベスト・アルバムといった趣き。しかしもちろんそこはAME、卓越したインテリジェンスと音楽センスを感じさせる素晴らしい名曲揃いで、AMEのベストであると同時にエレクトリック・ミュージックのベスト・パフォーマンス・アルバムとして長く評価されるアルバムになるだろう。

■Masterpiece: Andrew Weatherall / Andrew Weatherall

MASTERPIECE

MASTERPIECE

かつてFRANCOIS.KやGILLE PETERSONも参加した、Ministry Of SoundレーベルのCD3枚組Mixシリーズ「Masterpiece」に遂にAndrew Weatherallが参戦。このシリーズはどれもクオリティが高いが、ここで聴けるAndrew WeatherallのMixは3枚組全篇を通してゴリゴリのミディアム・テンポ攻めで、有無を言わせずどっしり着実にのせて行くその手腕はあたかも重戦車の走行を見せられているかのよう。

■Blondes / Blondes

BLONDES

BLONDES

インダストリアル・ダブ・テクノ・アーティストBalam Acabのアルバムにも参加したというNYブルックリンのインディー・ダンス・プロデューサーBlondesのデビュー・アルバム2枚組。1枚目がオリジナル、2枚目がRemixというお徳盤。これがニューディスコ風・ハウス・サウンドなんだが、同じくUSインディのItalが創出するネクスト・バレアリック・ハウスと通じる幻惑的かつ催眠術的ディスコ・サウンドが展開している。この辺のUSニュー・ディスコ/ハウス・サウンドは意外と注目かもしれない。

■Journey of the Deep Sea Dweller I,II

Journey of the Deep Sea Dweller I

Journey of the Deep Sea Dweller I

Journey Of The Deep Sea Dweller II

Journey Of The Deep Sea Dweller II

Drexciyaの音の面白さは、その修飾の無いダイレクトなエレクトロ音に集約されるだろう。非譲歩の頑固さがそのまま音として結晶化…というより岩石化したような無愛想な音。決して踊らせてそれで終わりではないざらざらとした澱のような淀みのような音。高揚も酩酊もなく覚醒してゆく音。Drexciyaのこの音は唯一無二…とまでは言わないが、それでも自分がよく聴くエレクトロ・ミュージックの中では珍しい種類の音であり、それと同時に「この音色はいったいなんなのだろう?」と常に考えさせてくれる音であり、そういった部分で興味の尽きないアーティストであり続けているのだ。

■Promenade Eleven / Kirk Degiorgio & Ian O'Brien

Promenade Eleven

Promenade Eleven

夏の暑い時期、身体もそうだけど精神的にもちょっとぐったりしていた頃に聴いたこのデトロイトなシングルは、気持ちにとても爽やかな涼風を運んでくれた。

■Arkives 1993-2010 / Plastikman

Arkives 1993-2010

Arkives 1993-2010

Plastikman / Richie Hawtinはこれまで何枚かアルバムを買ったことはあるし、クラブでのプレイも見た事はあるんですが、あまりにミニマル過ぎるのでちょっととっつきにくく感じていた部分もあって、諸手を挙げて「メッチャ好き!」というアーティストというほどでもなかったんですが、なんだか最近どんどんテクノなりクラブ・ミュージックを突き詰めていったら結局Plastikmanに行き着いてしまった…ということなんですよね。

■Music For Real Airports / Black Dog

Music for Real Airports

Music for Real Airports

Enoの『Music For Airports』の向こうを張り静謐かつ陰鬱なアンビエント世界を奏でるBlack Dogによる2010年リリースの作品。

■Held / Holy Other

Held

Held

ウィッチ・ハウス系アーチスト、Holy Otherによるデビュー・フル・アルバム。メランコリックなヴォーカル・サンプリングが飛び交い幽玄なメロディが奏でられる非常に美しいサウンド。

■Negative Fascination / Silent Servant

Negative Fascination

Negative Fascination

SANDWELL DISTRICTレーベルの主力アーティストでもあるロス在住のJohn Juan MendezによるプロジェクトSilent Servant。ノイズ、インダストリアル、ドローン系のこれまたダークな音世界が展開する好盤。

■Risco Connection / Risco Connection

Risco Connection

Risco Connection

1979から80年頃に活動し、全てのシングルがレア化したというJoe Isaacsプロデュースのディスコ・ユニット「Risco Connection」復刻版アルバム。このユニットを知ったのはハウスDJ、Dimitri From ParisのMixアルバムで、その曲の名はMcFADDEN & WHIETHEADのレゲエ・カヴァー曲「Ain't No Stopping Us Now」だった。ダビーなレゲエ・リズムと夢のような女性コーラス、"Ain't No Stopping Us Now"という歌詞、レトロ感満載の擦り切れたレコード音を響かせるエフェクト、そしてそして、あまりにも甘酸っぱく切なく盛り上がるストリングス!これは見事にハマった。

■Dependent And Happy / Ricardo Villalobos

Dependent And Happy

Dependent And Happy

ミニマル・エレクトリック・ミュージックの鬼才・Ricardo Villalobos、8年振りのフル・アルバム。実はオレ自身は、Ricardo Villalobosについてはその注目度に反比例して「なんだか掴み所のない音だなあ」と毎回曲を聴くたびに思っているのだが、その"掴み所"を押さえたいばかりに何故か何度も聴いてしまう、という変なリスナーである。非常に複雑なことをやっているのだろうがその音は引っ掛かる部分がなくスルスルと耳に入り、邪魔にはならないがハマることもない。いったいなんなのだろうこの音は、と今回もリピートしている。

Berghain 06 / Norman Nodge

Berghain 06 (import)

Berghain 06 (import)

ベルリンOstgut Tonレーベルの人気Mixシリーズ「Berghain」、最新作のDJは本職が弁護士だというNorman Nodge。「Berghain」はハズレのない名シリーズだが、これもベルリンらしいひんやりした空気感が素晴らしい優良テクノMix。

■Instrumental Tourist / Tim Hecker & Daniel Lopatin

Instrumental Tourist

Instrumental Tourist

それぞれがアンビエントな作品を作っていたTim HeckerとDaniel Lopatinのコラボによるドローン/アンビエント・アルバム。ゴシックな重々しさに満ちたダーク・サウンド。

■The Paranormal Soul / Legowelt

Paranormal Soul

Paranormal Soul

オランダ人プロデューサーLegoweltの最新アルバム。ヴィンテージ・マシーン・サウンドが唸るロウ・ハウスを基本としたシカゴ/アシッド・ハウス〜エレクトロが炸裂!音楽配信サイトBleepの2012年ベストアルバムにも選ばれた好アルバム。聴こう!

■A Mutual Antipathy / Scuba

A Mutual Antipathy

A Mutual Antipathy

あれ、Scuba新譜出したの?と思ったらこれは08年リリースされたデビューアルバムのリイシュー盤なんだとか。2ndのアンビエントダブステップに到達する以前の試行錯誤があれこれ見られてこれはこれで面白いアルバム。

■SubBerlin - The Story of Tresor

SUBBERLIN-THE STORY OF

SUBBERLIN-THE STORY OF

最後にDVDの映像集を。ベルリンに存在する伝説的クラブ【Tresor(トレゾア)】。世界で最も有名なクラブの一つであり、ハードコアなテクノ・ミュージック・レーベルでもあるこのTresorは、ベルリンの壁崩壊と東西ベルリン統一直後の1991年、第2次世界大戦の廃墟がいまだ残る旧東ベルリンのヴェルトハイム銀行跡地の地下室に作られた。崩れかけた壁、空っぽのロッカーや錆だらけ鉄格子が剥きだしのまま残された、それ自体が残骸であり廃墟であるこのクラブは、殆ど暗闇のような暗い照明、低い天井から滴り落ちるクラバー達の蒸発した汗、DJでさえ酸素ボンベを持ち込む酸欠状態の中、ダークで性急なリズムを刻むテクノ・ミュージックが昼夜を徹して大音響で響き渡るというまさに異様な別世界であった。しかしだからこそ、その異空間をクラバー達は愛し、このクラブを世界でも唯一無二の特別なクラブとして認めたのだ。クラブTresorは2005年に閉鎖され、現在は別の場所で再びクラブを開催しているが、このドキュメンタリーでは、関係者とTresorでプレイした世界中の有名DJのインタビューを交えながら、旧Tresorの歴史を遡ってゆく。