今年最も注目すべきSF映画監督は『モンスターズ/地球外生命体』のギャレス・エドワーズだ!

■モンスターズ/地球外生命体 (監督:ギャレス・エドワーズ 2010年イギリス映画)

I.

昨年は『第9地区』のニール・ブロムカンプ監督、『月に囚われた男』のダンカン・ジョーンズ監督と、非常に秀逸なSF作品を世に送り出す新進気鋭監督が注目を集めたが、今年はイギリス人監督、ギャレス・エドワーズが要注目株となるだろう。その彼の初長編映画デビュー作品がこの『モンスターズ/地球外生命体』だ。

物語:2009年、NASAは地球外生命体が存在する可能性を発見、無人探査船を送り込みそのサンプルを採取したが、帰還した探査船は大気圏突入後に故障を起こしメキシコ上空で大破。その直後、流出したサンプルから息を吹き返した地球外生命体がメキシコで大増殖を起こし、メキシコ・アメリカ国境地帯は危険地域として封鎖された。そして6年後。アメリカ人カメラマン・コールター(スクート・マクネアリー)はクライアントの出版社社長の命令で、メキシコで足止めを食っている社長令嬢サマンサ(ホイットニー・エイブル)をアメリカに連れ戻すよう依頼される。しかしメキシコを発つ最後のフェリーに乗り込もうとしていた二人は旅券とパスポートを盗まれ、最後の手段として、軍によって地球外生命体討伐の行われている危険地帯を突破することを決意する。

監督のギャレス・エドワーズはTVドキュメンタリーのVFXリエーターであり、彼の参加した幾つかの作品は英国アカデミー賞受賞、エミー賞ノミネートされている。最近ではBBC大河ドラマ作品の監督で250ある視覚効果を全て一人で担当。さらに映画製作の分業化に業を煮やし、クルー無し、俳優一人、そしてわずか二日で作った映画がSci-Fiチャンネルコンテストでグランプリを受賞。この映画『モンスターズ/地球外生命体』では2人の俳優と5人のスタッフだけでグアテマラベリーズ、メキシコでロケ撮影を行った。彼らはトラックの中で24時間共に暮らしながら3週間のロケ生活をし、エキストラは全て現地で調達、ロケではバスから5分の撮影というスピード撮影、台詞は殆どアドリブ、VFXはほぼ監督一人で製作を行い、一説では総制作費130万円と言うとんでもない低予算で作られたという映画なのだ。そして完成した作品はクエンティン・タランティーノピーター・ジャクソンからも高い評価を得、ギャレス・エドワーズは現在なんとあのハリウッド版『GODZILLA』監督に大抜擢されている。この監督、どうやら掛け値なしの才人のようなのだ。

普通に映画が制作費130万円でも安いぐらいなのに、この映画はSFXを凝らしたモンスターSF映画。そして完成した映画は130万円だなんて嘘みたいに思える出来栄え、1300万円でも「え!?」っと思えるぐらいの高い完成度なのだ。130億円ってことは絶対無いだろうが1億3000万ぐらい、と言われても「ずいぶん安く上げたなあ」と思えてしまうほどなのだ。ただ、実際IMDbで調べたら推定予算は80万ドル、日本円で6300万円ぐらいの制作費ということになっている。130万円よりも現実的な金額だが、それでもやはり破格の低予算であることは確かだ。先日公開された『スカイライン』もVFXマンが製作した、見た目よりもずっと低予算で製作されながらも素晴らしい視覚効果を駆使した映画だったが、この『モンスターズ』はさらにその上を行っている。

II.

この映画は当初「『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』に『宇宙戦争』を足して2で割ったもの」として企画され、さらに『クローバーフィールド』のようなPOV視点で撮影されることを予定されていたという。

モンスター映画は常に作りたいと考えていました。どうせ作るのであれば普通のアイデアではなく今までにはないものを作りたかったのです。実際企画書に「”ブレア・ウィッチ・プロジェクト”と“宇宙戦争”を足して2で割ったもの」というキャッチコピーを書いていてカムコーダー(ビデオカメラの種類)で撮影して終始POVの視点でエイリアンの侵略を撮影するのはどうだろうと思っていました。
ただ、その後に「クローバーフィールド」が製作されたのでそのアイデアを使うのは止めました。その後「もし“クローバーフィールド”が9.11のように「テロリストとの戦い」に自然に移行していったら」と思いました。そのアイデアは欧米国にエイリアンが現れ最初は人々はその”モンスター”を恐れ戦っていたのに途中からその状況に慣れてしまい退屈した人々が普通の生活を取り戻しテレビを見始めたら・・・と、どんどんアイデアが膨らみ始めこれは面白いと感じました。
○「モンスターズ…」G・エドワーズ監督に直撃!「ブレア・ウィッチ+宇宙戦争÷2!」「日本人に受け入れられなければ本物のゴジラではない」

確かにこの映画は『宇宙戦争』や『クローバーフィールド』のような派手な作品ではない。モンスターが暴れまわって町を破壊しまくったりとか人々をぶち殺しまくったりとか、それと軍が戦闘を繰り広げたりとか言う映像はあまり登場しない。登場することはするが、ほんのちょっとなのだ。どちらかというと静かで淡々とした映画作りがなされている。そしてそんな静けさの中で突然現れるモンスターの姿が映画に素晴らしい効果をあげているのだ。映画で描かれるのはモンスターを避けながらメキシコからアメリカ国境を目出す男女と、彼らが見る瓦礫の山。この瓦礫、CGIもあるのだろうが、たぶん現実の瓦礫の山がある現場をきちんとコーディネートして撮影したのだろう。こういったロケーションのコーディネートの仕方も非常に巧みであるといえる。そしてその瓦礫の山を見せることで、「ここで何が行われたか」を観客に想像させるのだ。

派手な映像は登場しないし、また予算的に無理であったのだろうが、この「映像で全て見せるのではなく観客の想像でそれを補完させる」というのは「低予算で物語を成り立たせるにはどういったシナリオで物語を成り立たせるべきか」という戦略のひとつなのだろう。しかし、このように「想像で補わせる」ことによって、逆にちゃちなミニチュアや特撮や合成でお茶を濁し、いかにも低予算といった安っぽさを露呈してしまうよりも数倍の効果を上げ、しかもリアリティに富んだ作品に作り上げている。低予算だからこその苦肉の策というよりも、低予算であることを逆手に取った上手なシナリオといえるだろう。そして、その限られた予算の中で「何を見せるべきか」「どう見せるべきか」を心得ているからこそ、出来上がった作品は予算の掛かった作品と比べても何ら遜色の無い面白い映画して完成しているのである。これはもう監督の才能としか言いようが無い。

名だたる映画作家がこの映画に注目したのは、そういった「映画作りの知恵」が、彼らベテラン監督の琴線に触れたからなのだろうと思う。考えてみれば、ホラーやSFの有名監督なんていうのは、そのデビュー作の殆どが低予算映画で、しかしその低予算の中から抜群に面白い映画を作ってきた人たちだからこそ注目され、人気を得てきた監督たちだからだ。

III.

宇宙戦争』や『クローバーフィールド』が、災厄の発端とその途上、そしてその結末をダイナミックに描いたものだとすると、この『モンスターズ/地球外生命体』はその災厄が長期化し、すっかり日常化してしまった世界をスタティックに描いている。卑近な例えだとすると、日本の311などはどうだろう。悲惨な天災があり、恐ろしい原発事故が起こり、誰もが恐怖と混乱の中に落とされ、そして今も復興の遅れと放射能の危険に晒されながら、それでも、日常は相変わらず続いている。だがそれは、今までの日常ではない。"事件"により、何もかもが変わってしまった、鍵括弧つきの「日常」なのだ。これがアメリカであれば、911のテロ後、そのテロ対策による臨戦態勢が「日常」になった現実だということもできるだろう。
映画の中では、汚染区域の危険を知らせる看板があちこちに立ち、瓦礫があちこちに点在し、TVではモンスターの襲撃予報すら放送している。しかし、人々はその中で、いつものように仕事をし、酒を飲み、家族と過ごし、愛し合う。TVでモンスターと軍が戦闘を繰り広げている映像が流れていても、それを横目で眺めながら、世間話にさえ講じている。だがそれは、災厄に興味が無くなってしまっているからではなく、災厄が"込み"の「日常」と化してしまった光景なのだ。異常が日々続けば、それは日常になる、という言葉がある。この映画『モンスターズ/地球外生命体』は、「戦闘が日常の光景になってしまった戦場」を描いたものであり、だとすると、非常に今日的な【今】の世界を描いた作品だということもできるのだ。