シチリアの町で生きる親子3代の物語〜映画『シチリア!シチリア!』

シチリア!シチリア! (監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 2009年イタリア映画)


ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』のオスカー監督ジュゼッペ・トルナトーレによる自伝的ドラマ、ということなんですが、実はこの監督作品って全く観たことがありません。スタンダードな名作ってそのうち観るだろうと思ってるといつまでも観ないものですねえ。
物語の舞台は1930年代のイタリア、シチリア、ここで暮らす牛飼いの平凡な家庭の、父、子、孫へと続く50年に渡る家族のドラマが描かれてゆきます。物語の中心となるのは牛飼いの子ペッピーノ、貧しいながらも楽しい家庭で彼が育ち、恋をし、結婚して子をもうけ、揺れ動く政治の荒波にもまれながら年を取り、そして子を世間へと送り出してゆき、映画は幕を閉じます。このペッピーノはきっとトルナトーレ監督の父親で、そして映画に目覚め旅立ってゆく子どもが監督自身の姿ということになるのでしょう。
イタリアの風光明媚な豊かな自然と眩い光、人々の生き生きとした表情と生活の様子、イタリアを知らない自分でさえ多分こうであったのだろうと頷いてしまう時代ごとに変わるセットや小道具や衣装、これらが生み出すイタリアという国とそこで暮らす人々の圧倒的なリアリティになにより魅了されます。イタリア人はかくあろうと思わせる賑やかな家族のやりとり、恋人への情熱的なアプローチ、主人公を取り巻く近所の人々の生活ぶりなど、イタリアの文化に触れる楽しさもこの映画にはあります。
この映画の特徴的な描写は、なにより個々のエピソードを短く切り、モノローグやキャプションなどの説明を一切加えず切れ切れに断裂的に描くところでしょう。ストーリーはもちろんあるのですが、それをくどくどと語ることをあえて避けているのです。むしろそれぞれの細切れのエピソードが喚起するイメージの連なりで映画を見せようとしているようなのです。観る人によっては物語を端折られている、と取る人もいるようですが、自分はこの描き方が、ある一人の人間の脳にある記憶が走馬灯のように物語られているかのように見え、50年という長い歴史を冗漫に描いたものではなく、なにか一瞬の煌きのように表現した結果なのではないかと思えました。それは、映画冒頭のエピソードがラストのエピソードと繋がる、まるで魔法のようなシークエンスが全て物語っているのではないでしょうか。
魔法といえばこの映画には奇妙に魔術的な表現があちこちに見られるんです。それは映画の最初のほうで登場する「3つの岩山に一つの石を順番に当てることが出来れば秘密の扉が開く」という言い伝えであったり、突然画面に挿入される悪魔の彫像や割れた卵、地を這う黒蛇のイメージであったり、主人公の家族のもとに突然現れて予言めいたことを口にする老婆の存在であったりもします。そしてなによりあの永劫回帰とも取れる感動的なラスト。イタリア社会とそこで暮らすひとつの家族を描いたリアリスティックな物語であるにも関わらず、こういった超自然めいた描写が時折挿入されることに、監督の、人生というものに対する不可知性、人生そのものへの不思議さ、といった考えが現れているように感じます。
映画は中盤から政治的な色合いが濃くなり、イタリアの歴史に暗い自分としては少々きつい部分もありましたが、全体的に非常に豊かで美しい映画として観ることが出来ました。

■『シチリア!シチリア!』予告編