便利の王、静寂の王。〜キング・オブ・コンビニエンス


ここ何年もクラブ・ミュージックばかり聴いていたけれど、最近なんだかどうもこういう音に疲れてきて、少し落ち着いた音を聴きたい、と思うようになったのは、やっぱり歳だからなのだろうか。まあ、こういう時に使う”歳”なんていうのは、別に何歳だったらなになにである、なんていうのがある訳じゃないから、自分でそう感じた時が、まさしく”歳”なんだろうとは思うが。だけど、30代で「もう歳だなあ」とか言っているのを聞かされたら、「まだまだ甘いよ!」とツッコミを入れてあげるけどね。
というわけでITMSでぶらぶら検索かけたり試聴したりしてこりゃいいな、と思ったのがキング・オブ・コンビニエンス。アコギ・メインの男性デュオである。

Kings of Convenience sing "24-25" live


1999年結成、ノルウェー出身、静謐で端正なアコースティック・ギターの音色と囁くようなヴォーカルが瑞々しいこのデュオの名前は、「ギターがあればどこでも手軽に自分たちの音楽ができる」というこから来ているのらしい。そしてその音は、どこかサイモン&ガーファンクルを思わせるものもあるけれど、オレが真っ先に思い浮かんだのは、エヴリシング・バット・ザ・ガール結成前のベン・ワットだった。サイモン&ガーファンクルには60年代アメリカのドリーミーな雰囲気があるけれども、ベン・ワットには彼の住むイギリスの湿り気を帯びてひんやりとした空気感を感じる。そこがノルウェー出身のキング・オブ・コンビニエンスと共通したものを感じさせるのだ。

■Sound Of Silence - Simon & Garfunkel

■Ben Watt - Some Things Don't Matter


ベン・ワットはオレがあまり元気ではなかった20代の頃によく聴いていた。孤独感がどこまでも立ち込めるその音は、当時の自分に傷薬のようによく沁みた。ついでにベン・ワットがトレーシー・ソーンと結成したエヴリシング・バット・ザ・ガールの音も紹介しておこう。

everything but the girl - night and day


いわば20代の頃にありがちな"青春の蹉跌”の中で聴いていたベン・ワットではあったけれど、今のオレにはそのような懊悩や煩悶があるわけではない。だからなぜ今キング・オブ・コンビニエンスなんだろう、と思ったのだ。
実はこのデュオの音は、随分昔聴いたことがあって、その時は静かで綺麗な音だし決して嫌いなタイプの音ではなかったけれども、"今のオレ"が聴く音ではないな、と感じたのを憶えている。30代を過ぎ、ベン・ワットを聴いて感傷や傷心に逃げ込んでいるだけでは生きていけないな、と思ったオレは、ビルドアップした怪獣のようにぶっといリズムに満ちたクラブ・ミュージックを聴くことで、強引に自己肯定と現実肯定を成し得ようとした。オレは今日も元気だぜ、負けてなんかいられないぜ、と思い込もうとしていたのだ。
そしてそれは半ば成就したように思う。だから今、もう無理しなくてもいいんじゃないのか、オレはもう充分にやっていけてるじゃないか、と思ったのだ。そして、オレの中には、もともとベン・ワットのような静謐と繊細さを愛する気持ちがあって、今このキング・オブ・コンビニエンスを聴くことで、その中にもう一度立ち帰ろうとしているんじゃないのだろうか。もうどこにも逃げなくていいのだ、この静寂を心の底から楽しめるのだから。

Kings of Convenience - Know-How

Kings Of Convenience - Boat Behind


DECLARATION OF DEPENDENCE

DECLARATION OF DEPENDENCE

Riot on an Empty Street

Riot on an Empty Street

Quiet Is the New Loud

Quiet Is the New Loud

Versus

Versus