■フロム・ヘル (監督:アルバート・ヒューズ 2001年アメリカ映画)
『フロム・ヘル』にはジョニー・ディップ主演の映画化作品があるが、随分前に観たきり忘れていたので、今回原作本読了記念という事で観直してみる事にした。
映画版『フロム・ヘル』は原作のみならず史実とも大きく異なる構成になっている。ハリウッド的に単純化された物語は謎解きとサスペンスを重視した単なる犯人探しのポリス・ストーリーとなり、なんといってもジョニー・ディップ演じる主人公アバーライン警部は原作の中年のオッサンとは違う色男である事はともかく、アヘン中毒の透視能力者などという原作にはどこにも描いてないキャラであり、妻子は死んだことにされており、最後の犠牲者として狙われる女性と恋に落ちるばかりか、なんと最後にはぽっくり死んでしまうのである。またイアン・ホルム演じる犯人切り裂きジャックこと医師ウィリアム・ガル卿は、イアン・ホルムが小柄に見えるせいかいまひとつ悪役の貫禄に欠け、演じられる狂気もどこか底が浅く単なる「あぶない爺さん」以上の凄みが無い。
まあ原作とこれだけ違う!と噛み付くのはやめて、あくまでコミック『フロム・ヘル』と同タイトルの切り裂きジャック物語として楽しむほうが正解と言えるかもしれない。映画自体は19世紀ロンドンを退廃的で幻想的に描くことに腐心しており、それはそれで独特のカラーを見せている。この映画の時代考証的な部分は無視するとして、"切り裂きジャックの時代"を描いたヴィジュアル的な雰囲気を味わう為に観るのなら、意外と原作ファンが観ても溜飲が下がるのではないかと思う。映画として凡作な気がするが、少なくともジョニー・ディップはいい男だしヒロインのヘザー・グラハムは美人だし、よくあるハリウッド映画として気軽に観るのが正しいのだろう。
確かに原作は複雑で重厚に折り重ねられた物語や目を覆うようなゴア描写などから完璧な映像化は難しいものがあるかもしれないが、逆に『ウォッチメン』があれほど丁寧に映像化されたことを考えるなら、この今もう一度映画化を試みてみるのもいいのではないかとも思った。
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