■30デイズ・ナイト (監督:デヴィッド・スレイド 2007年アメリカ映画)
アメリカ最北端の町、アラスカ州バロウという架空の町が舞台なんですが、この辺りは冬になると30日間太陽が昇らない"極夜"になるそうなんですね。日が沈まなくなる白夜の逆というわけです。で、この「30日間闇の中」というのに目を付けたヴァンパイアの軍団が、「ヒーハー!こりゃ願ったり叶ったりだぜ!」とばかりに町に押し寄せ、町中の人間を血祭りに上げてゆくという物語、それがこの『30デイズ・ナイト』です。主演はジョシュ・ハートネット、プロデューサーにサム・ライミ、監督が『ハード・キャンディ』のデヴィッド・スレイド、原作はスティーブ・ナイルズのグラフィック・ノベルズ、という映画です。
雪と暗闇と寒さの中、外界から隔絶された土地で、ヴァンパイアの破壊工作により通信手段を奪われ電力供給を止められ、孤立無援の状況のまま人間たちは抵抗する術もなく次々とヴァンパイアに屠られていきます。この「30日間の闇」という舞台設定がまず秀逸です。町の外はどこまでも続く極寒の氷原だけが続き、逃げ場はどこにもありません。「氷に閉ざされた場所でのモンスター・ホラー」というと『遊星からの物体X』を思い浮かべますし、「一つの町がヴァンパイアによって全滅する」というのはS・キングの小説『呪われた町』が思い出されますね。また、ヴァンパイアを避けるために篭城しこれと戦うというシチュエーションは、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』や『ゾンビ』などのゾンビ・ホラーとも共通するものがあります。
この映画のヴァンパイアも、吸血鬼というよりはゾンビに近い描かれ方をしますが、驚異的な身体能力を持ち集団行動し知性があるという部分ではゾンビよりもはるかに怖い存在です。序盤から中盤まではこのヴァンパイアたちが非力な人間たちをガッツンガッツン大量虐殺してゆく様子が描かれ実にオソロシイ。町の通りには悲鳴をあげ逃げ惑う人々、それに襲い掛かり首筋に喰らい付くヴァンパイアたち、そして白い雪の上にはここかしこに鮮血が飛び散り、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられます。
ここまではいいんです。オレも「血だ血だ血だ!虐殺だ虐殺だ虐殺だ!」とグヘラグヘラ笑いながら映画観てましたから。ただその後主人公たちがヴァンパイアを避け、生き残りと逃亡の機会をうかがいながら篭城戦に入る後半からテンポが落ち、ゾンビホラーによくあるような平凡な展開のままクライマックスまで続いちゃうんですね。
割とこれ、原作を膨らませるのに失敗した結果なのかな、と思います。原作自体は100ページ足らずの作品で、その分展開も早いのですが、これを2時間近くの映画にするのにちょっと無理があったんじゃないかな。せいぜい90分ぐらいの尺でスピーディーにサクッとクライマックスをキメてタイトに終わらせればいい具合なB級映画になったんじゃないでしょうか。主役がそこそこ有名俳優だし、人気コミックの映画化だしライミのプロデュースだしってことで手広くやろうとしたのが敗因のような気がします。設定と余韻のあるラストがいい分、ちょっと惜しい気のするホラーでした。
さて、明日はこの『30デイズ・ナイト』の原作とその続編コミックについて紹介します。