■イエスマン "YES"は人生のパスワード (監督:ペイトン・リード 2008年アメリカ映画)
銀行マンのカール(ジム・キャリー)はなんでもかんでも「ノー」と言ってしまう消極的で後ろ向きな男。そんなカールに痺れを切らした彼の友人が、「イエス!と言って人生を切り開こう!」をモットーとする自己啓発セミナーにカールを無理やり引きずり込む。最初は相手にしていなかったカールだが、主催者のテレンス(テレンス・スタンプ)に気圧されて、選択を迫られた時に「イエス」と答えるようにし始めたら、人生の運気がどんどん開けていくようになったのだが…。
自己啓発だとかポジティブ・シンキングだとかという言葉に猜疑心や嫌悪感を感じる方には、粗筋だけで「ケッ」と一蹴してしまいそうな物語である。自己啓発もポジティブ・シンキングも、個人的にやってもらう分には一向に構わないが、啓発されたりポジティブでイケイケになっちゃってる方たちが、「これは素晴らしいですよ!あなたもやるべきですよ!」などと押し付けがましく上から目線でモノを言ってくるのが鬱陶しく感じるのだろう。また、こういったものに宗教的な・原理的な臭いを感じてしまうというのもあるのかもしれない。確かに「○○で自分は生まれ変わった!」なーんて言ってるのを聞くと、それって洗脳?などと皮肉のひとつも言いたくなってしまう。
ただ、自分のスキルを高めようとすることや、前向きに生きていこうとすることは、実際大切なことだし、決して否定すべきことではない。この映画『イエスマン "YES"は人生のパスワード』は、その辺のバランスをうまく取り、前向きに生きることで人生が変わった男を、コメディというフィルターをかけることによりちょっと引いた目で茶化し、嫌味の無い作品に仕上げることに成功している。様々な物事に「イエス」と言うことで最初はとんでもない目に遭ったりもするのだが、回りまわって次第に幸運を掴むようになり、今までの人生が嘘のように積極的に生きられるようになる男を描いたこの映画は、ヒネリが無いといえば無いのだが、空が急に晴れ上がったように生き生きと人生を謳歌し始める様子は、何故だか観ているこちらも晴れやかで楽しい気分になってくるのだ。
勿論実際の人生はそんな単純なものではなく、苦渋の選択があったり結論の出ない困難があったりと、苦く重いものが在り得るのだけれど、映画のファンタジーとして観るのであれば、こういった"幸福のスケッチ"も心地よいものがある。ジム・キャリーのギャグやドタバタは日本人にはきつ過ぎて相変わらず滑ることが多く、決して全編笑える映画でもないし、メッセージもストレートで単純過ぎて白ける方には白けるだろうが、なんだか先の見えないこの御時勢に、ちょっと一息つけるられるような明るい気分になれる映画という意味では、案外楽しめる小品と言えるかもしれない。
■Yes Man - Trailer