精神遅延、カトリックという背景、孤独な人生、死した後発見された夥しい量の図版。ヘンリー・ダーガーはアウトサイダーアートを語る上で無くてはならない存在だが、その作品を分析的に語るのはどこか後ろめたい。ダーガーが描くのは少女達が主人公となりいつ終わるともない戦争を繰り広げる妄想の世界。その世界は同時に全裸の少女達が花園で遊ぶ非現実の王国。そしてそれは、どこか病み、歪んだ、グロテスクな世界でもある。
いってしまえば、これは、ダーガーにとって宗教的に抑圧された性的夢想であり、つまりはオナニーの産物である。ダーガーが生前これらの作品を見られるのを嫌がっていたというのは、当然彼にとってこれらがインモラルなものであるというのがはっきり判っていたからである。女性性器の形さえ知らない少年がチラシの裏に描いた自涜の為の妄想といっしょだ。
そして精神遅延である彼は、どこまでも持て余した孤独な人生の間中、微に入り細に入りそれを描き続けた、彼が死を迎えるその時まで。これらは彼の孤独さが形を成したものであり、彼の不幸がこの世に降ろした歪んだ王国である。そしてこれらの作品を観るという事は他人の手淫の現場を窃視するのとかわりが無い。だからこそヘンリーダーガーの作品を批評するのは後ろめたい。
ただもしもこれらの作品を評価するのだとしたら、人の妄想が、想像力が、いかに恐るべきものを生み出すのか、ということを思い知るという意味で、価値があるのだと思う。
『ヘンリー・ダーガー 少女たちの闘いの物語――夢の楽園』展 原美術館にて7月16日まで
■ヘンリーダーガー
■Realm of the Unreal: A Page About Henry Darger(ヘンリーダーガーHP)

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Henry Darger: In the Realms of the Unreal
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