ロッテ・ライニガー 「アクメッド王子の冒険」特別版

ドイツの映像作家ロッテ・ライニガーによる”影絵”のアニメーション。
実はこれ、非常に古い作品です。今から80年前、1926年にドイツで製作されたもので、これに映像修復と彩色を加え、サウンドをオーケストラにより新録音したことにより現在の形となっています。ネットで見ると「世界初の長編アニメ」は1973年製作の「白雪姫」という情報が多いですが、製作年からいってこの「アクメッド王子の冒険」が実質「世界初の長編アニメ」ということになるでしょう。
物語はアラビアンナイトを下敷きにした幻想的な冒険ファンタジー。アラブのとある王国の王子アクメッドが、魔法使いの姦計により見知らぬ国へと飛ばされ、そこで数々の冒険、恋、戦いを繰り広げます。ある意味通俗的過ぎるぐらいの物語ですが、だからこそ逆に”影絵”の美しいフォルムと動きを堪能できるのではないかと思います。
”影絵”と簡単に言いますがこの映画を観るとその表現の豊かさ力強さに目を見張ることでしょう。
影絵の元になる切り抜き人形は、インドネシアの影絵芝居から着想を得たものと思われる大変エキゾチックで繊細な作りをしています。まずこのフォルムの美しさに目を奪われるでしょう。黒い影でしかない生き物や人物が生きているかのように動くさまには驚嘆します。
抽象的な映像であるからこそそこには想像力が働き、そこでは描かれていない様々な色彩や背景などのディテールが頭の中に思い描かれると思います。魔法の島の妖精パリバヌーの美しさ、魔法使いの禍々しさや魔物たちの恐ろしさ、宮殿の豪奢な佇まいや王族達の威厳に満ちた立ち振る舞い。これらが影絵の黒い輪郭から立ち上ってくるのです。
特にクライマックスでの善の魔女と悪の魔法使いの、様々な動物に変身を繰り返しての戦いや、地中から湧き出してきた沢山の魔物たちと主人公達の熾烈な戦いは、これが影絵なのかと疑うほどの大スペクタクル。
アニメーションの歴史というものを知る上でも、大変貴重な映像なのではないかと思います。