その名はメルヘン

先日会社の連中と飲みに行ったのであった。メンツの一人には入社2ヶ月足らずの新人でKという男がいたのだが、あまり喋ったことが無かったので取り合えず弄ってあげることにしたオレであった。
入った居酒屋ではサービスでお好みのイメージのカクテルを作ってくれるというので早速頼んでみることにした。すると新人K君、茶目っ気を見せようと「じゃあボク、メルヘンチックなカクテルで」なんぞと言ったのをオレが聞き逃すはずが無かった。


「Kよ、君はメルヘンな世界が好きなのか。」と怪しく目を輝かせてオレ。「いや、笑い取れるかなあ、とか思いまして!」と照れくさそうにK。「いや違う。今のメルヘン発言は君の深層心理に眠る魂の真の声だ。平凡な会社員を演じながら君の心は実は七人の小人やガマガエルの王子やお菓子のお家に憧れているのだ。」「そうですかねえ。」「そうだ。同時に毒リンゴで大量殺人を企てたり森に迷った姉弟を幽閉して飼育したり自分の食い殺したお婆さんの皮を被ってその娘を蹂躙する企みを巡らしたりする事にも憧れているのだ。」「なんですかそれ!」「お前悪い奴なんだな!」「違いますよぉ!」「Kよ。君は入社2ヶ月。そろそろ会社にも馴染んできたことと思う。そこでそろそろ君にニックネームを付けてあげようかと思っていたのだが、”メルヘン”に決定だな。」「え、ボク、メルヘンですか?」「ヘタレな名前…。」「フモさんが付けたんじゃないですか!」「そうだ。そして君はこれからメルヘンとして生きメルヘンとして死ぬのだ。メルヘンの人生を全うするがよい。」「メルヘンだけど死ぬんですか!」「そうだ。己の鮮血に塗れ断末魔の絶叫を振り絞りそれはそれはおぞましく惨たらしい死に方をするのが君の運命だ。」「そんなのイヤですよ!」「具体的にどうやって死ぬか知りたいか。」「…。」「フグの毒に当たる。」「血ィ関係ないじゃないですか!」


「ところでどっから通ってんの?」「八王子です。通勤は2時間半掛かるんですよ。」「うわあ、遠いねえ。」「途中で霊園があるんです。」「ははあ。霊園を突っ切って。」「はい。」「そしてお供えのお饅頭や献花してある菊の花をお土産に家に持ち帰ってるわけだ。」「してませんよ!」「”おっとう!おっかあ!今日は鳩サブレーが置いてあったズラ!”」「そんな方言ありませんよ!」「幽霊とか妖怪とかいそうだな。」「いるんですかねえ。」「いる。八王子には八王子限定の妖怪”ズンベラボン”というのがいる。」「聞いた事ないっすよ!」「いやオレが今でっち上げた。」「じゃあいないんじゃないですか!」「いやいる。その妖怪”ズンベラボン”はな。便所の窓から中で用をたしているヤツを覗く妖怪なのだ。」「単なる変態じゃないですか!」「だがな。本当は妖怪”ズンベラボン”の正体は君の先輩のANAさんだ。」「えええ。そういえばANAさん今日帰るの早かったなあ。」「そうだ。今君の家に向っている。」「えええ!」「覚悟しろ。覗いてるから。」「えええええ!!」「でもお供えのお饅頭や献花してある菊の花をあげると喜ぶ。」「イヤだああああ!」


「八王子と言うからには多分畑だらけだろ。」「はあ。ボクの家の前、ジャガイモ畑です。」「だろ。そしてな。」「はい。」「そこには三人の女子大生が埋まっている。」「怖いですよ!」「イヤ大丈夫だ。夜の12時なると土を掻き分けて出てくる。」「ゾンビじゃないですか!」「大丈夫だ。ジャガイモ畑のゾンビだけに主食もジャガイモだ。今頃君の帰りを待ち侘びて生ジャガイモをカリカリ齧っていることだろう。勿論君の先輩のANAさんも一緒にな。」「そんな!」「ANAさん”今日K君遅いねえ”。ゾンビ”う゛〜う゛〜。”」「会話してるんですか!」「連中はグルだ!」「なんのグルですか!」「ところで埋めたのは君だろ。」「埋めてないですよ!」「少なくとも手にかけたのは君だな。」「手にもかけてません!」「どっちなんだ?」「いやだから埋めてません!」「手にかけたのは認めるということか!」「違うううう!!」「本当か?ところで八王子には有名人はいないのか。」「いや、実は宮○勤の家、近所だったんですよー。」「ほほう、それは…。と言う事は手にかけた真犯人は…。」「アブナイから止めてください!」