ショーン・オブ・ザ・デッド

ジョージ・A・ロメロの「ランド・オブ・ザ・デッド」も公開され、盛り上がっているゾンビ業界であるが、これはそんなゾンビものの1本。副題に「ロマンティック・コメディ・ウィズ・ゾンビ」となっているように、ゾンビ映画ではあるが青春コメディでもあるというホラー映画である。ただしパロディ物という事ではなく切り口の新しさで傑作になっていると思う。
主人公のショーンはイケてない青年。職場ではうだつが上がらず、同居している友人は真性ニートだが忠告するほど度胸もなく、恋人には「いつも同じパブにしか連れて行かない退屈な男」と愛想をつかされ逃げられる。こんなついてない時にはどうしたらいい?そうさ!ひたすら飲むのさ!という訳でニートの友人と飲み明かす主人公だったが、朝目が覚めると街の様子がおかしい…。なんで?なんで血塗れの人たちが街を歩いてるの?え?ゾンビ!?聞いてねーよ!という訳で主人公ショーンのなんだか勘違いした脱出&元カノ救出劇が始まる。
だいたい元カノや知り合い連れて逃げる先が何一つ根拠もなく「いつも飲んでるパブ」で、そんな所に逃げ込んだばかりに仲間みんなゾンビに齧り殺されるというあまりにトホホな展開。(ってかよ、「齧り殺される」って凄くイヤな言葉じゃない?)そもそも「元カノを助けよう!」などという、魂胆が見え見えであまりに個人的な決意がかえって回りを危機に陥れてやんの。それで一応ハッピーエンドって、お前、人としてどうなんだ!?
それとイギリス映画という事で音楽が洒落ている。オープニングがスペシャルズの「ゴーストタウン」、スミスもどこかで流れていた。ゾンビが襲うクライマックスとラストはクイーンである。作中にはニュー・オーダーブルーマンデーやプリンスのパープルレインのビニール盤(レコード)が効果的なギャグとして使われていて、なんとなく同じ音楽体験の監督なんだなあ、と思わせた。
あと注目したのは、イギリスが舞台ということで、アメリカ映画のように銃器が出てきてぶっ放しまくる、というのが殆ど無いという所だね。銃器が出てきても頓珍漢な事になってしまうんだ。監督は意識しないでそうなったのだろうけど、「銃社会」というものの文化の違いがはっきり出ているよね。この辺「ボーリング・フォー・コロンバイン」で言及されていた事があったからなるほどと思った。だからゾンビを粉砕する為に使われる武器は何かのスポーツ競技用の棒切れとかビリヤードのキューなのである。
ゾンビ映画らしい「もし仲間がゾンビになったら」というジレンマも描かれ、オチにも巧く使われている。全体的にコミカルな演出はあるにせよ、やっぱり歩く死体を破壊しまくるという意味ではホラーである事に変わりはないので、ホラー嫌いな方にもお奨め、という訳にはいかないが、ゾンビ映画にそれほど抵抗のない方ならとても楽しめると思う。