アフガン零年

アフガン零年 [DVD]

アフガン零年 [DVD]

タリバン政権下のアフガニスタン、カブール。タリバンの過激なイスラム原理主義はこの国に住む全ての女たちを徹底的に抑圧した。曰く、女は顔を出してはいけない。曰く、女は一人で外を歩いてはいけない。女は男に守られるべきもの。だから女は男の庇護無しに何も行ってはいけない。この戒律を守らないものには厳しい罰が待っていた。
しかし、現実的に、ソ連とのアフガン戦争で、そしてその後の度重なる内乱で、夫や肉親を亡くした女たちにとって、寡婦である事は即ち、社会に出る手段を一切奪われ、死を宣告されたようなものであった。この映画に登場するある家族もその一つであった。女だけ3世代の生き残り。彼らが生き残る術は、一人娘に男装させ、命の危険を冒しても仕事をさせることだった――。

えー、…。キッツイ映画でした。最初から絶望的な状況があって、それがタチの悪い病気のようにどんどん悪化してゆくだけ、という映画。終盤へ行くほどに悪夢じみた展開になっていきます。はっきり言って最後まで何一つ救いはありません。延々と続く少女の嗚咽と泣き叫ぶ声が耳にこびりついて離れないです。そういう映画なんです。「これがアフガンの現実だ」と言われればそれまでなんだけど、真面目に作られた悲惨な映画は批評のしようがありません。「悲惨だね」としか言ってあげられないからです。「こんな状況の中の少女の内面が伝わってこない」とか、映画評論チックに言ったって始まらないんです。この映画自体、タリバン政権の崩壊したアフガニスタンでの第一回撮影作品なんだそうです。でもはっきり言っちゃうと映画的には退屈なんです。正統的に作られすぎた物語展開は脇道にそれることなくこれでもかと現実の過酷さを正面から描きます。それがもう映画の使命かといっているかのように。だからそういう見方しか出来ない映画です。

そして終盤の酷さ、救い様の無さは、これが21世紀になろうとしている世界の片隅で本当に起こっていた事なのだろうか、と唖然となり、重い気分になります。

それにしても驚かさせられたのは主人公を演じたマリナ・ゴルバーハリという少女です。アラブ圏内の血筋にしては色白で端正な顔をしていて、表情は硬いのですがそれなりに美しい顔をしてるな、と思ったのですが、彼女はなんと戦争難民の家族で、生計を立てるため街中で物乞いをしている所をスカウトされたんだそうです。文字を読むことが出来ず、台詞は全て口移しだったとか。しかも、映画の場面によっては、現実の戦争体験の思い出がフラッシュバックして泣き出してしまい、撮影が度々中断されたとか。彼女の硬い表情は映画撮影の緊張なんかじゃなかったんです。惨たらしい戦争の傷跡が、彼女に表情を作る事を止めさせてしまったんです。

同じくアフガニスタンの悲惨な状況を描いた映画では、「カンダハール」という映画が凄まじかったです。あそこで描かれるアフガニスタンの日常が、オレにはあまりにも非現実的な光景にしか見えなくて、オレはこの映画を「SFなのか?」とさえ思ったぐらいです。なにしろ、日本という平和な国で生きている人間の想像の範疇を軽く超えた悲惨さ、歴史的共通項の無さ、理解不能の生活習慣。脚色はされているのでしょうが、あれほどまでにシュールな映像が、今生きているこの地球上の別の国で起こっている出来事である、ということがどうしても信じられません。「神に見放された土地、アフガニスタン」とパンフレットには書かれていましたが、これがまさにその通りであることに、慄然とせざるを得ません。

ちなみに、イスラム教は基本的に男女同権なのであり、この映画での女性差別は、アフガニスタンの伝統的な家父長制度によるものなのだそうです。