「サラダ」

その女はエナメル地の白い薄手のダウンに胸元の開いた黒のカットソー、膝までのデニムのミニスカート、そして黒のパンプスを穿いていた。
両手には大小幾つかのブランド物の紙袋。
女はドタドタと電車に乗り込むと空いていた隅の席に陣取り、紙袋を床に置くと、むっちりとした太股を自意識過剰気味に組んだ。
年齢は20代から30代とも取れる顔つき。
もしも20代なら無知を露わにした顔であり、もしも30代なら傲慢さを露わにした顔つきなのだろう。
女は今時では珍しい染色していない長く黒い髪を髪留めゴムで止めると、暑かったのか白いダウンを脱いで座席に立てかけた。
カットソーの胸元から覗く胸の谷間の脂肪分は豊富で、女の意図し計略した肉体の露出は確かに成功していたのだろうと思われた。
そして。
女はおもむろに持っていた紙袋の一つから、コンビニでよく売られているプラスチックのカップに入ったサラダを取り出し、蓋を開けた。
女は器用に小パックの中に入ったドレッシングをサラダにかけると、そしてやはりコンビニで配られる、幼児の離乳食用にも見える白いプラスチックのフォークで、サラダを頬張り始めた。
腹が減っていたのだろう。
ほぼ満席の電車の中で、女はサラダを喰い続けていた。
むしゃむしゃと。
むしゃむしゃと。