ステファン・グラビンスキ『不気味な物語』を読んだ

■不気味な物語/ステファン・グラビンスキ

不気味な物語

死と官能が纏繞するポーランドの奇譚12篇―― 生誕130年を迎え、中欧幻想文学を代表する作家として近年大きく評価が高まっているステファン・グラビンスキ。ポーランド随一の狂気的恐怖小説作家による単行本『不気味な物語』(1922)『情熱』(1930)の中から、本邦初訳の11篇と代表作の鮮やかな新訳1篇を収録する、傑作短篇集。

ポーランド随一の狂気的恐怖小説作家」と謳われるステファン・グラビンスキの短編集『不気味な物語』を読んだ。ステファン・グラビンスキは1887年生まれ、要するに19世紀末に生まれ20世紀初頭に活躍した作家だ。
グラビンスキは近年において再評価が進み、「ポーランドのポー」「ポーランドラヴクラフト」なんて呼ばれたりもしているらしい(この辺Wikipediaのコピーね)。ポーランド作家ということからか、あのスタニスワフ・レムもイチオシしていたという。
日本でも国書刊行会から『火の書』『狂気の巡礼』『動きの悪魔』といった短編集が出されているが、オレ自身はこの『不気味な物語』が初めて手にした作品集となる。なんで手を出したかっていうとまあ、タイトルが直接的でいいし、表紙も怪しげでカッコよかったからなんだけどね。
この翻訳版『不気味な物語』はグラビンスキが1922年に刊行した短編集『不気味な物語』と1930年に刊行した短編集『情熱』の合本といった体裁になる。そして収録された12編の物語はどれも妖しく奇怪な”不気味な物語”を描いているのだ。
英語ならホラーとかテラー、日本語なら怪談とか奇談なんて言葉があるが、この『不気味な物語』に限って言うなら怪異譚といった言葉がしっくりくるかもしれない。ホラーと言うほど徹底的に恐怖を煽る訳ではないし、怪談と言うほどぞくぞくした怖さを描くものでもない。
何か世の常と違う、説明のつかない事が起こるけれども、それがなんなのか分からない、しかしそれは十分に不気味な事だ、といった物語を、朧げに、そして格調高くさらに幻想的に描くのがこのグラビンスキの短編だ。なんといっても20世紀初頭のポーランドだから格調高いんだ。そして怪異そのものの描写よりも格調の高さのほうが勝っている物語なのだ。
確かに前半「不気味な物語」篇は今読むならアイディア的に既視感を覚える作品もあるが、それは21世紀の今読むからそう感じるだけのことであって、20世紀初頭のヨーロッパの空気感を想像しながら読むなら、非常に雰囲気のある作品ばかりだという事が出来る。
特筆すべきは後半「情熱」篇だ。特に『情熱(ヴェネツィア物語)』では水の都ヴェニスで逢瀬を重ねる男女のやりとりが冒頭続くが、ここでの「ヴェニス観光小説」とも思える数々の描写はロマンに溢れ「不気味な物語」を読んでいることを忘れそうになる。
しかし「情熱」篇の特色はそこではない。ここからの数編は、男女の性愛にまつわる「官能」を主軸として描かれているのだ。多くは不倫であったり失われた愛の記憶であったり、若者たちの熱情であったりするが、こういった愛に焦がれる者たちの物語が最後に薄暗い陥穽に堕ちてしまうのがこれら物語の特色となる。要するに性愛と死との対比だ。
こういった展開を迎える作品が幾つか収録されているという点で予想外だったし、その予想外な部分が魅力的であり楽しめた短編集だった。しかし、国書の本は高いな……。
不気味な物語

不気味な物語

 
火の書

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狂気の巡礼

狂気の巡礼

 
動きの悪魔

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