Smash - The Singles 1985-2020 / Pet Shop Boys
実を言うとオレはデビュー当時からの相当なペット・ショップ・ボーイズ・ファンである。PSBは実にイギリス人アーチストらしい虚無的だったり皮肉めいたいたりする歌詞を、エレクトロニックによる美しいメロディと先端的なディスコビートで歌い上げるという部分がなにより好きだった。
さてこの『Smash - The Singles 1985-2020』はPSBがデビュー時よりリリースし続けていた全シングル曲55曲を一堂に会した完全シングル・コレクション集となる。実の所PSBのアルバムは全て所有しているしシングルも集めたし、あまつさえベスト盤もみんな持っているので、「PSBの全シングル集!」と言われてもそれほど食指は動かなかったのだが、本当の目玉は[3CD+2Blu-ray]のデラックスバージョンにある。
このデラックスバージョンでは、2枚のBlu-rayにPSBの66曲に渡る全ミュージック・ビデオが収録されているのである。PSBのMVがこういったまとまった形でリリースされるのは初めてだろう。初期の作品こそ当時の録画機材の問題なのか画質があまりよくなかったりするが、もちろんそれは初期のみだ。こうした形でまとめて観てみると、PSBの変遷がヴィジュアルとして確認出来てなにしろ楽しい。時々変なPVや投げやりなPVが存在するのも可笑しくていい。だいたいイギリス人ってのは偏屈なので変なPVを楽し気に作るものなのである。
PSBの二人も結構いいお年になってきて新作アルバムリリースも最近途絶えているが、こういった形で健在ぶりをアピールしてくれるのはファンとして嬉しいことだ。まあ新作は別にもういいから、PSBのお二方にはこれからも長生きして素敵な人生を全うして欲しいと思う。オレも歳だからそういうことをつい考えてしまうのである。
さてPSBのPVはそれこそ沢山あるのだが、特に好きなのはこれらの作品かな!『West End Girls』に感化されたオレは長いコートを着て街をさまよい歩いたし、『Paninaro』のなんの情緒も無い歌詞とラップと映像は虚無的で好きだった。『It's Alright』の確信に満ちた肯定性はPSBが遂に辿り着いた境地だったと思うし、写真家ブルース・ウェーバーの監督した『Being Boring』はその高い芸術性と美しい映像によりPSBの最高傑作PVと言って間違いないだろう。『Where the Streets Have No Name (I Can't Take My Eyes Off You)』は官能的とさえいえる映像とニールの下手糞なダンスが最高。『Go West』はひたすら頭がカラッポな映像と音楽だが、この計算されたカラッポさが実はPSBの凄みだったりする。