ブラックスプロイテーション映画を観まくったッ!!

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ブラックスプロイテーション映画を観まくっていた

前回「ルディ・レイ・ムーアブラックスプロイテーション映画を観ていた」という記事を書いたが、そういえばオレはブラックスプロイテーション映画というヤツをきちんと観ていなかったな、という事に気が付いたのである。この機会に触れてみようじゃないかと思い、名作と呼ばれる幾つかの作品をピックアップしてみた。
ところで、ブラックスプロイテーション映画は黒人をギャングや麻薬密売人といったプロトタイプとして描き、黒人の地位を貶めているという理由から糾弾され姿を消した、という歴史があるそうだが、実際糾弾されるべき作品だったのか、という事も考えながら観てみた。

【目次】

スウィート・スウィートバック(監督:メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ 1971年アメリカ映画)
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幼い少年スウィートバックは娼婦たちに引き取られ、娼館で育てられることに。少年はそこで無理やり襲われ童貞を失う。しかし、やがて自らのセックスの才能に目覚めていくスウィートバック。大人になった彼はクラブで行なわれるセックスショウの男優として働いていた。ある日、スウィートバックは無実の罪で白人刑事たちに連行された際、途中で刑事たちが黒人活動家をリンチする現場を目撃してしまう。何かに目覚めたスウィートバックは刑事たちに襲い掛かり、ついには逃走を企てるのだった…。 

まずは「ブラックスプロイテーション映画の先駆け」と呼ばれるこの作品から。物語は警官殺しを犯した黒人主人公がひたすら逃げる!逃げる!逃げる!といったものだ。前半は主人公の底辺生活や淫靡なセックス描写が暗くぬめぬめとした映像で描かれる。それは醜くそして救いがないものだ。しかし警官に追い続けらる後半から一転、その終わりなき疾走はドラッギーともいえる幻想味が加味され、それは次第に黒人たちの怒りと願いがないまぜになったスピリチュアルな様相を呈してくる。インディペンデント映画らしく作りは荒っぽく技法もへったくれもないのだが、異様な熱気だけはぐいぐいと迫ってくるのだ。それは描きたいもの、描くべきものが確固として存在するからこそなのだろう。イビツではあるが、ボディブローのように腹にズシッとくる作品だ。音楽はなんと無名時代のアース・ウィンド&ファイアー。

黒いジャガー(監督:ゴードン・パークス 1971年アメリカ映画)

犯罪渦巻くニューヨークを舞台に、腕利き私立探偵ジョン・シャフトの活躍を描いたアクション映画で、60年代末から70年代初頭にかけてのブラック・パワー・ムービーの中でも最もメジャーな位置にある。ハーレムのボスから、誘拐された娘の救助を頼まれたシャフトが、黒人解放グループの過激派や顔馴染みの警部補らの協力を受けて、ハーレム乗っ取りを企むマフィアと対決する。

言わずと知れたブラックスプロイテーション映画の代表作であり大ヒット作である。私立探偵シャフトがギャングの娘誘拐事件を追う!というキナ臭いストーリー自体に既にもう引き込まれるものがあるではないか。サスペンスとアクションのバランスが良く、物語のテンポも小気味いい。そして主人公シャフトがなにしろクールで格好いいのだ。舞台となるニューヨークの雑踏ですら魅力的だ。もはやブラックスプロイテーション映画というジャンルなど関係なく、一級の娯楽映画としての醍醐味に満ちている。アイザック・ヘイズのタイトル・スコアも名作中の名作。

スーパーフライ(監督:ゴードン・パークス・Jr. 1972年アメリカ映画)

コカインディーラーのプリーストはニューヨークのハーレムで派手な生活を送っていた。しかし彼はこんな商売を長く続けられないことに気付き、ある賭けに出る。これまでの最大のコカイン取引を行い、その金で売人生活をリタイアし、新生活を送ろうと考えたのだ。しかしそんな彼の計画とは裏腹に、事態は裏目裏目へと転がり始める。

『黒いジャガー』と並び評されるブラックスプロイテーション映画の代表作。監督ゴードン・パークス・Jr.は『黒いジャガー』監督ゴードン・パークスの息子である。冒頭から白人女のベッドでコークを一発キめ、イカしたロングコートに身を包みキャデラックを乗り回す主人公プリースト。いかがわしいカッコよさに溢れているがしかし物語は決して甘いものではない。麻薬の売人である彼は「俺、今度のでっかいヤマで一儲けして引退するんだ……」と息巻くが、ここから既にブッとい死亡フラグが立ちまくっている。案の定物語が進むにつれあらゆるものが彼の足を引っ張ってゆくのだ。そんなプリーストの目つきは常に暗い空虚さに満ち、このニヒルさがまた堪らない。このプリーストを演じるロン・オニールがなにしろカッコいい。黒いジャガー』とは裏腹に、これは一人の黒人男のシビアな人生を描いた無情の物語なのだ。カーティス・メイフィールドのテーマ曲がなにしろ素晴らしい。

110番街交差点(監督:バリー・シアー 1972年アメリカ映画)

ニューヨークを根城とするマフィアが黒人ギャングに大金を奪われる事件が発生。捜査を命じられた黒人警部ポープは、ハーレム担当で人種偏見の持ち主である白人の部長刑事マテリと共に犯人を追う。暗黒街を舞台に、白人黒人入り乱れての激闘を描いたクライム・アクションの佳作。

黒人ギャングによるマフィア資金強奪事件が発生。これにより警察・マフィア・黒人ギャングの様々な背景と人生模様が交差し正義と悪、白人と黒人、貧困と犯罪、憤怒と暴力、あらゆるものが絡み合った重層的なドラマが構築されるのだ。これには大いに痺れさせられた。ここには黒人のみのドラマではなく、それと関わる白人たちのドラマがある。そのバランス感覚が素晴らしい。ヤフェット・コットーアンソニー・クインら燻し銀の出演人に加え、タランティーノが『ジャッキー・ブラウン』でも使用したボビー・ウーマックの主題歌が炸裂、ひたすら暗くやるせない展開、深く胸を抉る格別な余韻に満ち溢れていた。

ブラック・シーザー(監督 ラリー・コーエン 1973年アメリカ映画)
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野望を抱くトミー・ギブスは靴磨きから身を起こして、ハーレムの犯罪社会で大物に成り上がったが、彼にはもっと大きな狙いがあった。人種差別主義者の警察幹部を抱き込み、血なまぐさい乗っ取りを企てて自らの勢力範囲を広げていくが、身内に裏切られていること、警察とマフィアの両方から標的にされていることに気づく。

白人に虐げられていた黒人少年がマフィアとなり、白人たちを見下しながら次第に大物へと成り上がってゆくという物語。監督はB級ホラーを得意とする白人監督ラリー・コーエンで、これだけでは「ブラックスプロイテーション映画の流行に乗って作られた作品」とも思えてしまうが、実はサミー・デイビス・ジュニアによって委託された脚本によるものなのだという。確かに底辺黒人のプロトタイプを描いたものであるにせよ、非情なる展開とストレートな成り上がりギャングの物語は『スカーフェイス』にも通じる痛快さがあった。しかも音楽は全編ジェームズ・ブラウン

コフィー(監督 ジャック・ヒル 1973年アメリカ映画)

ヘロイン中毒に冒された妹を看取る看護婦のコフィーは麻薬組織への復讐を誓い、行動を開始する。彼女はまず地元のドラッグ・ディーラーを銃殺し、友人の警官カーターには警察の麻薬取り締まり強化を促す。恋人で下院議員のハワードと安らぎのひとときを過ごすコフィーは、一方でジャマイカから来た高級娼婦ミスティックと称して単身麻薬組織に侵入。彼女は売春組織のボスでドラッグ・ディーラーのキング・ジョージ、更には大元締めのイタリア系マフィア、ヴィトローニに巧みに近づき、復讐の機会を窺うのだが…。

麻薬に冒された妹の仇を打つためたった一人麻薬組織に立ち向かう女。映画『コフィー』はタランティーノが『ジャッキー・ブラウン』で最大限のリスペクトを捧げた黒人女優パム・グリアの主演作品である。単なる看護婦でしかない主人公が満身創痍になりながら復讐に近づいてゆく様子は余りに痛々しく、悲壮感に溢れている。この作品などはブラックスプロイテーションのプロトタイプ描写から離れ、主人公が自立した女性であること、平凡な市民でしかない彼女がどのように犯罪に対抗してゆくかを描くことにより、別格の作品と仕上がっており、そこが見所なのだ。

Black Dynamite(監督: スコット・サンダース 2009年アメリカ映画)
70年代アメリカ、元CIA職員でありベトナム戦争の英雄でもあるブラック・ダイナマイトは謎の犯罪組織に無残にも兄を殺されてしまう。復讐を誓ったブラック・ダイナマイトは仲間と共に犯罪組織の違法ビジネスを次々に叩き潰し、悪の温床だったストリートを市民の手に返してゆく。そして彼は遂に組織の拠点であるカンフー島へと乗り込むが、実は真の黒幕は彼らではなかったのだ。

さてこれまで紹介したブラックスプロイテーション映画は70年代のブームの頃に製作されたものだが、この『Black Dynamite』は2009年に製作されたものとなる。いわゆる70’sブラックスプロイテーションリバイバルというわけだ。日本未公開作品につき輸入盤英語字幕にて視聴。タイトルや主人公の名前からは前回紹介したルディ・レイ・ムーアの『ドールマイト』を彷彿させ、怪しげなカンフー展開まで『ドールマイト』的だ。冒頭から70年代ブラックスプロイテーション映画へのオマージュが炸裂し、それはこのジャンルへの愛が十分にこもったものだ。社会奉仕する主人公の姿やコメディ・タッチの演出からは過去のブラックスプロイテーション映画批判へのアンサーも垣間見える。なんでもアリの破天荒な展開に度肝を抜かされ、パワフルでポジティヴィティ溢れる物語は胸がすく。あのとんでもないクライマックスにおいては「とにかく観て!」としか言いようがない。DVDスルーでもいいから日本語版を出せばいいのになあ。ちなみにこの作品は「蘇る70’sブラックスプロイテーション魂!『Black_Dynamite』 | FILMAGA(フィルマガ)」で知りました。