ローランド・エメリッヒが描く熾烈なる日米大海戦/映画『ミッドウェイ』

■ミッドウェイ (監督:ローランド・エメリッヒ 2019年アメリカ・中国・香港・カナダ映画

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1941年12月8日、ハワイのアメリカ軍事拠点である真珠湾を日本軍が奇襲攻撃し、これに併せ日本軍は連合軍に宣戦布告、太平洋戦争が開戦されることとなる。緒戦に敗退を喫したアメリカ軍は劣勢となり、この機に乗じて日本軍は軍事拠点を拡充するため多数の戦艦をアメリカの牙城へと送り込んだ。それは太平洋戦争の雌雄を決することになる戦い、ミッドウェイ海戦であった。

映画『ミッドウェイ』はこのミッドウェイ海戦を描く戦争映画だ。しかし、『ミッドウェイ』といえば、おっさんのオレからするとチャールトン・ヘストン三船敏郎らが出演した1976年公開の戦争映画をどうしても思い出してしまう、そのミッドウェイ海戦をテーマにした映画がそのまま『ミッドウェイ』のタイトルで再度制作され公開されるというから「なんで今しかもミッドウェイ?」と思ったのだ。だが、監督がなんとあのローランド・エメリッヒ。『インデペンデンス・デイ』や『2012』のディザスター・ムービーがお得意な監督ではないか。いやこりゃいったどんなことになるの?と思いオレは劇場に駆け込んだのである。

エメリッヒ映画『ミッドウェイ』は真珠湾攻撃から始まりミッドウェイ海戦へと至る日米軍の戦況の行方を、正確な戦時記録をもとにあくまで正攻法に描いた戦争映画となる。どっかの監督みたいに米兵同士の三角関係を持ち込んだ映画とは訳が違うのである(とか言って観てないんだけどね『パール・ハーバー』)(おい)(今度観ときます……)。登場する軍人たちも全て実名であり、その日米軍人たちをエド・スクラインパトリック・ウィルソンルーク・エヴァンスアーロン・エッカート、日本からは豊川悦司浅野忠信、國村準らが演じることになる。

このように配役はそうそうたるメンツだが、主要人物が多い分、ドラマ展開は大変慌ただしい。なにしろ上映時間138分の中で、太平洋戦争開戦前夜から真珠湾攻撃アメリカ初の日本本土攻撃であるドーリットル空襲、米諜報機関による日本軍暗号解読作戦、1942年6月5日のミッドウェイ海戦までみっちりと描くことになるからだ。しかも史実を並べるだけではなく、迫力に満ちた戦闘シーンを余すところなく描き、エンターテインメント作品としても申し分ない。これがアクション映画なら「全篇クライマックス!」ということになるが、史実を元にした作品でよくもここまで詰め込んだものだと思う(ただちょっと分からなくなった場面もあるのでもう一度観たい)。

徹底的に詰め込まれた膨大な史実と、リアリティを増す為の細かなエピソードの数々と、エンタメ作品としての説得力のあるアクションの全てを盛り込むため、その編集の様は鬼気迫るものになっている。情報量が多くカット割りも目まぐるしく、凄まじい戦闘シーンが海に空にドカンドカンと炸裂する。さらに人間ドラマも御座なりになることなくきちんと描かれているのだ。にもかかわらず映画を観ていても置いてけぼりにさせることなく、何かのダイジェストを見せられている気にもさせない。全てのものが過不足なく見せるべきものは徹底的に見せ集中力を持って描かれる。この驚くべき編集と製作ぶりはローランド・エメリッヒ監督の職人技が炸裂したものなのではないか。

あれこれ書いたがやはり注目すべきなのは迫真の戦闘シーンだろう。爆発、爆炎、死の弾幕、燃え盛る炎、もうもうと立ち上る黒煙、吹き飛ばされる兵士、墜落する戦闘機、沈んでゆく戦艦。これらの熾烈な描写の数々は破壊神ローランド・エメリッヒの面目躍如と言っていいだろう。特に恐るべき弾幕をかいくぐりながら日本軍空母に急降下爆撃をしかける米戦闘機のシーンの迫力は特筆すべきだ(なぜか『スター・ウォーズEP4』クライマックスにおける反乱軍によるデススター強襲シーンをちょっと思い浮かべてしまった)。

それにしても、歴史に疎いオレは真珠湾攻撃によってここまでアメリカが兵力を失い逼迫し、日本の攻撃に戦慄していたのだとは思わなかった。真珠湾の後は豊富な兵力で反撃していたと思っていたのである。しかし現実では日本の電撃攻撃によりアメリカは敗戦の瀬戸際まで追い込まれていたのだ。その雌雄を決する戦いがミッドウェイ海戦だったのだ。こうした太平洋戦争の真実と併せ、日米海戦の様をドイツ人監督が映画として撮ったというのもポイントだろう。この作品では日本を「敵役」ではなく公平な視点で描くこととなる(そういった部分で日本人としてちょっと面映ゆく感じた部分もあるが)。なんとなれば、本当に憎むべきものは「戦争」そのものであるのだから。

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