俺はバンジョー弾きのストリート・ミュージシャンだぜ!〜映画『Banjo』

■Banjo (監督:ラヴィ・ヤーダヴ 2016年インド映画)


タンジョー!それはオギャーオギャー!
カンジョー!それは喜怒哀楽!
サンジョー!それはスーパーヒーロー!
エンジョー!それはネット記事!
いや違うそうじゃない!
インド映画『Banjo』はストリートミュージシャンバンジョーを弾きまくる物語なんだ・・・ッ!?

というわけで2016年公開のインド映画『Banjo』でございます。インドのスラムに住むバンジョー・プレイヤーが成功と名声を得るまでを描いた作品なんですな。バンジョーとはいいますがアメリカのバンジョーとはちと違い、ブルブル・タラン、インディアン・バンジョーとも呼ばれるインド/パキスタンの弦楽器で、実は日本の大正琴がルーツであるといわれています。元は大正琴ではありますが、これがひとたびインド人プレイヤーの手によって爪弾かれると、あたかもギターの如きエモーショナルなメロディを生み出してゆくのですよ。主演はリテーシュ・デーシュムク、ナルギス・ファクリー。監督のラヴィ・ヤーダヴのことは詳しく知りませんがマラーティー語映画界隈の方のようです。
《物語》ニューヨークに住むクリス(ナルギス・ファクリー)は、ムンバイ滞在中の友人ミッキー(ルーク・ケニー)から素晴らしいバンジョー・プレイヤーの演奏を聴かされ、彼を音楽フェスティバルに出演させるためムンバイへと飛ぶ。クリスは地元の政治家を頼りバンジョー・プレイヤーを探すが、出会うバンドはどれも違う。しかし実は、彼女の現地案内人を勤めていたタラート(リテーシュ・デーシュムク)がそのバンジョー・プレイヤーだったのだ。タラートはムンバイのスラムに住むストリート・ミュージシャンだったが、バンジョー弾きを下賎な仕事と思われたくなくてクリスに隠していたのだった。その間にもクリスのインド滞在期間が終わりつつあったが、遂にクリスは自分の目当てのミュージシャンがタラートであることを知る。
映画は冒頭からタラートとそのバンドの熱狂的な演奏を見せつけ、期待はいやがうえにも高まって行きます。バンド編成はタラートのバンジョー+パーカッション3人といったものなんですが、これがもうロックバンドみたいなハードかつ高揚感溢れる音楽を展開するんですな。しかしね〜。その後がどうもイマイチでね〜。前半はクリスの見つかりそうで見つからないバンジョー・プレイヤー探しに終始され、観ているこちらは「すぐ隣にいるタラートがその本人なんだよ!」と知っているわけですからもどかしくて堪らない。そのもどかしさが面白さに繋がるわけでもなく、お話がずっと停滞しているだけで実にじれったい。この前半では他バンドとの対立とかタラートのクリスへのほのかな想いなども描かれますが、これらも単なる時間稼ぎにしか思えないんですよね。
後半になりやっとクリスがタラートを見出しますが、それで面白くなってくるかと言うと、う〜ん・・・・・・。バンドの危機やらなにやらも描かれますがやっぱり盛り上がらない。まず決定的に拙かったのはタラートとクリスのロマンスがきちんと描かれない(!)ということに尽きます。インド映画でこれは無いだろ!それともう一つは、映画全体を牽引するようなドラマらしいドラマが形作られていないということなんですよ。これはきっと、音楽映画であるにも関わらず主人公を音楽に向かわせるものは何か、ということをきちんと詳らかにしようとしないシナリオだからだったんじゃないかと思うんですけどね。つまり主人公であるタラートのキャラクターを掘り下げようとしていないということでもあると思う。
別にミュージシャンの内面には凄まじい何かがあるべきだとは言いませんが、少なくとも映画というドラマにおいてそれがないのは拙いんじゃないのかな。タラートはスラム生まれである以外はいたって従順な普通の青年で、ストリート・ミュージシャンという言葉から想像する繊細さとか無頼さとか反社会性とかを感じさせないんです。ただそれはあくまでステレオタイプなミュージシャン像だから、あえてそうである必要は無いんです。でもそれであれば別の何かが欲しい。例えばスラム生まれであることの怒りや苦悩でもいい。それを乗り越えようとするしゃかりきなポジティブさでもいい。結局観客は主人公の「止むに止まれぬ動機」と「そのためにいかに行動するのか」を知りたいしそれを物語に求めるんじゃないでしょうか。それがこの『Banjo』には欠けているんですね。
とはいえ全く見所の無い作品と言うわけでもありません。なによりゴージャスな美女ナルギス・ファクリーが終始出ずっぱりなのが男性ファンには眼福の限りでしょう。ファクリー演じるクリスは場面が変わるたびに違う衣装で登場してこれがまたセクシー全開なんですよ!ムンバイのスラムをミニスカ・肩出し・ヘソ出しで歩いているシーンなんかは「おいおいインドでそれは襲われるぞ!」と逆にヒヤヒヤしたぐらいですよ。なにしろファクリーのぼってりした唇を眺めているだけでずっと幸せになれる映画でしたね。リテーシュ君は汚い長髪が似合っていたしストリートファッションもキマっていたし、これも悪く無いんです。音楽シーンはというとこれは確かに派手で盛り上がりますが、どこか一本調子で最終的にはどれも同じに聴こえてしまったなあ。