■ヴィジット (監督:M・ナイト・シャマラン 2015年アメリカ映画)
■シャマラン映画を劇場で初めて観た
実はシャマラン映画を一度も劇場で観たことがない。あの『シックス・センス』からウィル・スミスのオレ様映画『アフター・アース』まで、ほとんど全てのシャマラン映画は、レンタルでしか観たことがないのだ(ただし『ハプニング』と『エアベンダー』だけは観ていない)。オレの中でシャマラン映画が一段落ちる、というわけでもない。だいたいのシャマラン映画は、面白く観ているからだ。ではなぜ劇場で観ていないのかというと、シャマラン映画に関するネガティヴキャンペーンがうるさくて、それに関わりたくないのと、それとシャマラン映画は、殆どがたったひとつのモチーフだけで物語が形造られていて、そこに多少の物足りなさを感じていた部分があった。
そんなオレだったが、今回この『ヴィジット』、劇場で観た。確かに予告編を観たら面白そうだった、というのはあるが、それでも、これまでのシャマラン映画よりも面白そうに思えたから、という訳でもない。ただ、観てはいないが評判の芳しく無かった『エアベンダー』と、SF好きのオレですらつまらなかった『アフター・アース』という大作2本を経て、小品のサスペンス・ホラー作品という原点回帰を果たしたシャマランに、なにか「厄が落ちた」という印象を受けたのだ。それと併せ、ここ最近インド映画ばかり観ているオレが、「そういえばシャマランはインド人だったな」ということを思い出し、この辺でちょっとした新たな興味が湧いた、という部分があったように思う。
■田舎の祖父母に会いに行った姉弟が遭遇する怪異
そんなわけで劇場で観た『ヴィジット』、これが、普通に面白かった。そして、十分にホラーらしい怖さを持っていた。普通に、というのは、とりたてて「大傑作!」とか「必見!」とかいうつもりもないけれども、少なくとも、お金を払って劇場に足を運び、それに見合った満足を得られる程度に、きちんとよく撮られたホラー映画だった、ということだ。
映画の粗筋は、「田舎の祖父母に会いに行った姉弟が遭遇する怪異」といったものだが、この作品のとてもよかった所は、「いったいどうしてこんなことが起こっているのかわからない」という不気味さを描いている、という部分だ。姉妹の会った祖父母は、最初はとても優しく暖かく二人を迎えるが、そのうち、どうもこの祖父母というのが、様子がおかしい、ということに姉弟が気付いてしまうのである。夜中になると一人暗闇で人外のような行動をとっていたり、離れの小屋で呆然としていたりする姿を、姉弟は見てしまうのだ。老齢による痴呆がはいっているのかもしれない、と最初は説明されるのだが、それでも、どうにも不気味すぎるのだ。いったい祖父母にはなにがあったのか、何を隠しているのか、ということで物語は語られてゆく。
■曖昧模糊とした不安
今作『ヴィジット』は、最近何となくサスペンス・ホラー・ジャンルをあまり観る気がしなくなっていたオレでも、興味を抱き楽しんで観られる映画だった。昨今のホラー・ジャンルに食傷したのは、「霊」とか「ゾンビ」とか「気の狂った殺人者」とか「神と悪魔のオカルト対決」とか、観る前からなにが物語られるのか分かっているものばかりだからだ。それらは、ショッカーとして先鋭化し鮮烈な印象を残すけれども、「曖昧模糊とした不安」というホラーがもうひとつ得意とする表現には欠けている。映画『ヴィジット』は、この「曖昧模糊とした不安」をきちんと描いている、といった点で面白く観ることができたのだ。いったい今、何が起こっているのか?なぜ、こんなことが起こっているのか?その「なぜなのか分からない、理解ができない」という気持ち悪さ、薄気味の悪さが、映画『ヴィジット』では描かれているのだ。
そういった「なぜ、どうして」を、自分の中で理由を見つけようとしながら、考えながら観られる部分がいい。物語の中ではさりげなく様々なキーワードが散りばめられており、その中にはミスリードを促すものもあるのだろうけれども、それらキーワードを拾いながら、「これはどんな物語なのか」とあれこれ想像してしまうのだ。「あ、これはこんなオチへ持って行こうとしているのか」「しかしこんなオチだと陳腐かも」「あ、しかしこのオチはシャマラン映画で一回使っているから無しだな」などとオチの持って行き先を予想するのが楽しかった。
この物語の真相にはもちろん触れないが、その「真相」とそこから導き出される結末それ自体よりも、そこに至るまでの「謎」と「不可解さ」の持つ恐怖を堪能するのが楽しめる作品だった。それらはホラーらしい扇情的なものではあるが、扇情的過ぎて物語に破綻をきたすことのない、きちんとしたシナリオに基づいて作られている。やたらグロテスクさや肉体破損に走ることもない。そして、どことな黒い笑いもある。さらに主人公姉弟の性格設定もしっかりしており、それぞれの個性に味を持たせている。映画『ヴィジット』は、シャマランのそういった堅実さを如実に示した作品として評価できるのではないか。