■地獄曼陀羅 アシュラ (監督:ラーフル・ラワィル 1994年インド映画)
日本語版の出ているインド映画をDVDレンタル店のHPであれこれ物色していると、「…これナニ?」と目に飛び込んでくる作品がこの『地獄曼陀羅 アシュラ』である。地獄。曼荼羅。アシュラ。おどろおどろしい単語が賽の河原の石のように積み重なり、『恐怖奇形人間』とか『妖怪百物語』みたいなじっとりどんよりしたカルトなホラー臭を漂わせているはないか。しかもDVDジャケットがこれだ。
地獄で曼荼羅でアシュラなだけではなく、「女・神・発・狂」だなんてわざわざナカグロで区切ったコワい言葉が書かれている。そもそもナカグロで区切ると焼肉定食でさえ「焼・肉・定・食」となにやら訳あり風になってしまうからナカグロというのは侮れない。
それにしても、これホントにインド映画なのか?と思った訳なのである。タイあたりの残酷映画がたまたま混じっちゃったんじゃないか?と思った訳なんである。世間一般だとタイもインドもアジアでひとくくりだからな。しかーし!説明をよく読むと、なんと主演はシャー・ルク・カーン!?シャールク主演で地獄で曼荼羅でアシュラなのか…これはいったいどうなってるんだ…。ブルース・リーのバッタもん俳優ブルース・リとかブリーズ・ルーとかがいたように、実はこれはシャールクのバッタもん俳優シェー・ルキ・クーンとかショー・リュク・チョーンとかいう人の間違いなのではないか、と目を疑ったのである。しかしやはりどう見てもシャー・ルク・カーンなのであった。
その粗筋はというと、とんでもないストーカーに目を付けられ、人生全てを破壊された女の復讐劇だというではないか…。ううむタイトル同様怖そう…。そんな物語でシャールクの役回りはストーカー被害に遭った女性を助けるヒーローなのかな、と思ったらさにあらず!なんとシャールク自身がストーカー!ううむこれは由々しきことだぞ…。
とまあなにやら暗くてドロドロしてそうだし、なるべく沢山のインド映画を観ようと心掛けているオレではあるが、この映画だけはあまり積極的に観る気がせず、存在しなかったことにしておこう…と胸に誓ったのだが、なんとその矢先、この映画をGYAOで無料配信する、という情報が(今はやってません)。ああ、これはもう「観なさい」というヒンドゥー神の思し召しなのであろうと観念し、それにタダだしなあ、と思い、こわごわと観てみることにしたのだ(顔を覆った手の指の隙間から)。
お話は主人公であるスチュワーデスのシヴァニー(マードゥリー)が、資産家の男ヴィジャイ(SRK)にしつこくしつこくつきまとわれ、不幸と悲劇の綴れ織りみたいな坂道を転げ落ちていってしまう、といったもの。これがもう徹底的に悲惨。シヴァニーはヴィジャイのせいで夫を亡くし、妹と娘を亡くし、刑務所にまで入れられて酷い目に遭いまくる。さらにはお腹の子供まで亡くして、遂に彼女は復讐の狼煙をあげるのだ。酷い男はヴィジャイだけではなく、ヴィジャイの腰巾着の警官、シヴァニーのギャンブル好きの義兄など、誰も彼もゲス野郎のオンパレード。そしてここままで酷い目に遭わせながら、ヴィジャイはシヴァニーに「ボクは君のことを愛しているんだよォ〜〜」とやってるもんだから気持ち悪さは倍加する。
しかしこの徹底的に気持ち悪いサイコパス野郎を演じるシャールクがなにしろいい。この映画はデビュー間もない頃の作品なのだが、どこかやんちゃそうなシャールクが初々しいのだ。演技のほうもギラギラした目つきや耳障りな笑い声がなかなかにイラつかさせてくれて貫禄たっぷりだった。一方どこまでも哀れなシヴァニーを演じるマードゥリーもなかなかの美人ちゃんだ。さらにこんな陰惨な物語なのに歌も踊りもあり、おまけにヒジュラの皆さんが現れてドタバタを演じてくれるから物語のカオス度はいやが上にも高まってくる。物語はストーカーによるサスペンススリラーから女囚モノへと変わったかと思うとウルトラバイオレンスの炸裂する復讐劇へとなだれこみ、上映時間もインド映画安定の3時間弱と、もうこれでもかという作りになっている。
そんな中でやはり強烈にインドらしさを感じたのが、主人公シヴァニーが今まさに復讐を誓う瞬間をヒンドゥー神ドゥルガーの祭祀と絡めて持ってくる部分だろう。ドゥルガー神は戦いの女神であり、ある意味主人公がドゥルガー神に化身することにより復讐が成されるということなのだ。先ごろ公開された『女神は二度微笑む』でもこのドゥルガー・プージャー(ドゥルガーを祝う祭り)が絡められ、物語の一つの暗喩となっていたが、シヴァニーの復讐は個人を越え、勧善懲悪の神意となって成敗をする、ということでもあるのだ。陰惨なだけのバイオレンス・ドラマのように見えながら、そこにはやはりインド的な心象が見え隠れした作品なのだ。
http://www.youtube.com/watch?v=3pw4GSqCT9U:movie:W620
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