インドのゾンビ映画『Go Goa Gone』に見るインドの埋葬事情!?

■Go Goa Gone (監督:クリシュナ 2013年インド映画)


うだつの上がらないボンクラ野郎3人が、「無人島で開かれるレイヴ・パーティーに乗り込んでハッチャケようぜ!」と愉快な夜を過ごしますが、一夜明けると島中ゾンビがうろついててさあ大変!?というインドでも珍しいゾンビ・コメディ映画です。

ボンクラ野郎3人、ハルディク(クナール・ケームー)とラヴ(ヴィール・ダース)、そしてバニー(アーナンド・ティワーリー)は、お楽しみを求めてインド西海岸のリゾート地、ゴアへと向かいます。そこでラヴの知り合い女性ルナ(プージャー・グプター)と合流し、沖合いの無人島でロシアン・マフィアが開催するというレイヴ・パーティーに潜り込むんですね。酒と音楽とクスリで思いっきりハッピーになった彼らでしたが、朝目を覚ますとなんとパーティー参加者全員がゾンビになっていた!?逃げ出そうにも無人島、迎えの船は数日来ない!パニック状態の4人の前に現われたのがロシアン・マフィアの生き残りボリス(サイフ・アリー・カーン)。彼らはボリスの持つ大量の銃でこの難局を乗り越えようとしますが…!?

この映画の面白い所は、なにしろ「インドでゾンビ」ということですね。インドを舞台にしたゾンビ映画というと『The Dead 2: India』というのがあるようですが、これはあくまでもイギリス資本映画。じゃあインドにゾンビ映画があるか?と調べてみたところ、2013年製作の『Rise of the Zombie』という作品が"ボリウッド初のゾンビ映画”なんて言われ方をしているようです。ただ年間1000本以上撮られているインド映画ででから、これまで何にも話題にならなかったゾンビ映画が一本や二本ありそうな気もしますね。どちらにしろ、インドではゾンビ映画ってジャンルは馴染が薄いようなんですね。

そんなですから、登場人物たちは最初ゾンビを見てもゾンビって分からないんです。だから人を襲うゾンビの姿を見て「あれって吸血鬼?」「あ、吸血鬼には十字架が効くんじゃない!?」なんて言ってるんですが、そこでふと彼らは「(インド人である俺らはヒンドゥー教イスラム教なわけだから)十字架効くわけないよね…」と気付くんですな。「じゃああれナニ?」と頭をひねり、やっとゾンビであることに気づくんです。「でもさあ、俺らのインドでは幽霊とか物の怪とかが一般的でしょ?なんでまたわざわざゾンビ?」と疑問を示す友人に一言、「だからそれが【グローバリゼーション】ってヤツなのさ!」とか言われて納得するんですね!これ、ゾンビ=アメリカから輸入された映画のバケモノ=グローバリゼーションってことなんですな。

確かにインド人にとってはゾンビって「なんじゃそりゃ?」という存在かもしれません。ヒンドゥー教じゃ火葬が普通だし、しかも墓地というものが存在せず、遺灰は聖なるガンジス川に流すのが一般的です。だから甦る死者ってピンとこなさそうじゃないですか。そもそも、ハリウッド映画におけるゾンビというのは新約聖書ヨハネ黙示録にある最後の審判の「死者の甦り」がひとつのモチーフになっていて、だから欧米諸国でゾンビという存在はキリスト教史観の中における終末論を現したものだということもできるんですね。しかしヒンドゥーの皆さんにとっちゃあ「黙示録?カンケーねーよ!」ってことになっちゃうんですよ。一方インドにおいて12%ほどの割合で信教されているイスラム教では土葬を基本とし、その教義には黙示録的な概念はありますが、「インドのゾンビはみんなイスラム教信者!」なんてやっちゃうとあれこれ問題が出そうですから、やっぱりゾンビ映画って作り難いんでしょうね。そんな部分で、映画の中でもゾンビ=アメリカから輸入されたバケモノってなことになっちゃうんじゃないかと思うんですよ。

そしてもうひとつ、映画におけるゾンビって、「大量消費社会の中でただただ反復的に消費行為を繰り返すだけの頭カラッポな一般市民」を揶揄したものでもあるんですね。う゛ーう゛ー言いながらノソノソ街を彷徨い、ケダモノみたいに人間にかぶりつくゾンビは、そのまま頭カラッポな消費者ってことなんですね。じゃあこの『Go Goa Gone』のゾンビはなんの暗喩なのか?というと、これはもう見たまんま、「ゴアに来て淫らな半裸の格好をして享楽的な音楽と酒とクスリで頭アッパラパーにしながら踊り狂う堕落しまくった外国人観光客」そのもののことを現してるんじゃないですかね!?意外とインド人ってゴアで一発キメて好き放題やってる外国人を「あいつらアホちゃう?」と思ってるんじゃないでしょうか。まあ思いつきなんですが、なんだかそういった皮肉もこの映画には込められているような気がしました。

そういえばガンジス川に死体が浮いてるって話だから水葬なんじゃ?なんておっしゃる方がいましたが、ガンジス川上流にあり政情不安でもあるネパールから流れてきている可能性が高いです。あとガンジーの墓、というのはありますが、あれは記念碑的な墓陵なんですね。それと、ヒンドゥー教では聖人の墓はあります。それは悟りを開き神と合一したからであり、一般の方のように輪廻するための火葬、というのが必要ないからです。ところでインドでは普通にベジタリアンの人が多い筈ですが、ベジタリアンの人がゾンビになったら、人間の肉を食いたがるのかしらん?

http://www.youtube.com/watch?v=4V5zGNVRmaE:movie:W620