■David (監督:ヴィジョーイ・ナンビヤール 2013年インド映画)
時代も場所も違う世界で生きる3人のディヴィッドを追ったドラマです。映画はそれぞれのディヴィッドを巡る3つの物語として進行してゆきます。そしてこの3つの物語、それぞれテーマが違うばかりか、各々が異なった映像手法で撮られているのが面白いんですね。
1975年のロンドン。一人目のデイヴィッド(ニール・ニティン・ムケシュ)はイスラム系コミュニティを支配するマフィアのメンバーであり、殺しも厭わぬ30歳の男です。しかしある日、彼はマフィアのドンと彼の両親にまつわる信じられない話を聞かされ、大きく心が揺らぎます。さらに彼の愛する女性がドンの息子と無理矢理結婚させられてしまうことを知るのです。
このロンドン・パートは冷ややかなモノクロの映像で撮影されています。殺しと裏切りがテーマになったその物語はどこまでもニヒルで、激しい銃撃戦まで描かれますが、主人公と恋人とのロマンティックでムードたっぷりなラブ・シーンも挿入されているんですね。
1999年のムンバイ。二人目のディヴィッド(ヴィナイ・ヴィルマーニ)はロック・ミュージシャンを目指す19歳の少年です。彼の父はキリスト教司祭でしたが、ある日その父がヒンドゥー教系の狂信者たち襲われ、酷いリンチを受けてしまいます。怒りに震えるディヴィッドは、裏で襲撃を指示したマフィアとヒンドゥー教系政治家に「なぜこんなことをするのだ?」と詰め寄ります。
このパートではインド都市の住宅街を舞台に、通常のカラー映像で撮影されています。やんちゃな少年と家族との明るく賑やかな暮らしは、いわれなき暴力により一変します。ここから物語はバイオレンス色を強めていき、少年は満身創痍になりながら暴動の首謀者たちに迫ってゆくのです。
2010年のゴア。三人目のデイヴィッド(ヴィクラム)は、飲んだくれで暴れん坊の、30歳になる漁師です。今日も楽しく酔っぱらっていた彼は川を下る小舟に乗った一人の女性に恋をしてしまいます。しかしなんとか探し当てたその女性は聾唖であるばかりか、友人であるピーターの婚約者でした。デイヴィッドは彼女の結婚を阻止しようと奔走しますが、やることなすことトンチンカンで…。
このパートは舞台である避暑地ゴアの自然の色彩を強調した非常にカラフルでヴィヴィッドな映像で撮影されています。ここで見られるゴアの風景は時折息を吞むほど美しく幻想的です。そして主人公を巡る物語もどこかすっとぼけていてナンセンス、ダメ男の恋がコミカルに描かれてゆきます。
この3つのパートはそれぞれが10分未満程度の短い時間に細切れにされ、同時進行しながら交互に物語られてゆきます。別々の物語ではありますが、起承転結といいますか序破急の流れは足並みが揃えられており、映画の進行に合わせそれぞれの物語が同時に盛り上がってゆく様が独特なんですね。これは3つのショートストーリーを順番に見せられるよりも一つの映画の大きなうねりとして観ることができ、思わぬ効果を上げているんですよ。それぞれの物語も短いとはいえ実に充実していて最後まで興味を持って観ることができるんです。
そしてそれぞれのパートのトーンは違いますが「一人の男が困難を乗り越えようとする物語」という統一感は感じられ、決してちぐはぐなものを見せられているような気にはならないんです。この辺、実に実験的であると同時に野心的なものを感じました。演じる俳優たちも、ゴアのディビッドを演じたヴィクラムぐらいしか見知った俳優はいなかったのですが、誰もが存在感のあるとてもよい演技をしており、見応えが満点だったなあ。同時に、映像が本当に綺麗なんです。パートにより撮影手法を変えていましたが、撮影それ自体にもこだわった作品なのではないでしょうか。DVDで観たのですが、その画質自体も優れていましたね。
ただし、ディヴィッドという名前以外にこの3人に共通点はないし、時代が離れているといった理由も含め物語自体も特に関連性が無い、といった部分が気になるかもしれません。自分は「まあそれぞれの話は十分楽しめたからいいやあ」と思ってクライマックスを眺めてたんですか…おおっとそうきたか!?いやー、してやられました。これは技ありだよなあ!実はこの作品、全くのノーチェックだったのを観たのですが、ある意味思わぬ拾い物とも言える良作でしたね。