俺たちインチキ捜査官!〜映画『Special 26』

■Special 26 (監督:ニーラジ・パーンデー 2013年インド映画)


映画は冒頭から物々しい雰囲気で始まります。捜査官らしきいかつい顔した男たちがとある豪邸に立ち入り、令状のようなものを見せたあと家宅捜索をし出すんです。棚という棚を調べ、引出しという引き出しを開け、遂には天井まで壊します。すると、出てくるわ出てくるわ札束の山。捜査官たちはその札束を険しい表情で確認し、家主を問い詰めた後、激しく叱咤してそれを押収します。おお、この映画はマルサの男たちの過酷な職務を描く社会派ドラマなのだな!?と固唾を呑んで見入ってると、車に札束を積んだ男たちはどこかの汚い空家に入り、札束を山分けした後、にっこり笑って別れていくではないですか!?そう、実はこの映画、「捜査官を騙って裏金を騙し取る詐欺師たち」の話だったんですね!

いやあこれは面白かった。物語はこの後、中央捜査局を騙る詐欺師たちと、事件を捜査する本物の中央捜査局との攻防を追ってゆくんですが、これが実に緊迫感たっぷりに、なおかつ非常にテンポよく描かれてゆくんですよ。80年代インドという時代設定からもうかがえるように、昨今よく映画で描かれるようなハイテク詐欺ではなく、詐欺師たちがいかにも本物のようなデカい態度と、口八丁手八丁の話術と、その場その場を巧みにしのいでゆく頭の良さで、次から次に現金を奪ってゆく、というもので、その泥臭さが逆に小気味いいんですね。しかもこの詐欺師たち、ニヒルでクールな犯罪者集団というわけではなく、素に戻るとどこにでもいる普通のオッサンたちばかり、という落差がまた面白いんですよ。ちなみにこの物語、インドで実際にあった事件を元に製作されているんですね。

一方、詐欺師たちを追いつめてゆく本物の捜査官ワシーム(マノージュ・バージパーイー)も、蛇みたいな目つきをしたコワモテ親父で、彼の登場時では別の犯罪を追うシーンが描かれますが、ここでもやはり蛇のように執念深く犯人を追ってゆくんですよ。捜査方法もインドというお国柄でしょうか随分荒っぽく、詐欺師たちの敵役として申し分ないんですね。詐欺師たち自身はヤクザな稼業もそろそろ潮時と、最後の大仕事を計画し、なんと新聞に「捜査官募集」の広告を出して人を集め、26人の捜査官チームを組ませます。この26人は自分たちが本当の捜査局に雇われた、と勘違いしたまま詐欺師たちに使われることになるんですよ!これがタイトルの『Special 26』ということなんですね。詐欺師たちの計画する最後の大仕事とはどのようなものか、ワシーム捜査官はどのように詐欺師たちを追いつめるのか、最後に笑うのは詐欺師か捜査官か、大詰めに向けて物語はどんどんサスペンスの度合いを深めてゆくのですよ!

主演の詐欺師アジャイを演じるのはアクシャイ・クマール。以前『Rowdy Rathore』という映画も観たのですが、この時と似たような七三に撫でつけたお堅そうなヘアスタイルをしていて、オレの中では「アクシャイ・クマールといえば七三」というイメージがついてしまいました。そんなアクシャイ・クマールの、真面目そうに見えて何考えてんだかわかんない表情が役柄に合っていましたね。映像はフィルム撮影だったのか微妙にイエローがかったレトロ調の色彩をしており、これが80年代インドという時代設定にマッチしていて雰囲気が出ていました。またその映像表現も素早いカットや画面分割を使った技巧が効果的に使用されており、こういった緻密さがハリウッド映画に近いテイストを感じさせました。派手さは無いんですが、映像を積み重ねることでじわじわと興奮を生んでゆくんですよ。この監督の作品、他のも観てみたくなりました。
http://www.youtube.com/watch?v=DNi8nyn-v0s:movie:W620