タイプ早打ち大会に賭けるスポ根ロマンス!?〜映画『タイピスト!』

タイピスト! (監督:レジス・ロワンサル 2012年フランス映画)


1958年〜1959年のフランスを舞台に、「タイプ早打ち大会」に打ち込む(タイプだけに)男女の根性とロマンス(!)を描いたスポ根・ロマンチック・コメディ。
主人公は田舎から職探しに都会に出てきたローズ。彼女はルイ・エシャールの経営する保険代理店の秘書になるが、タイプライターの腕を見込まれ「タイプ早打ち大会」に出場することに。猛特訓の甲斐あって勝ち進むローズだが、ルイに芽生えた恋心が伝わらずじれったい思いを募らせていた。主人公ローズ・パンフィルを演じるのは『メモリーズ・コーナー』のデボラ・フランソワ、彼女は「田舎から出てきた素朴な娘さん」という雰囲気が上手に出ていて非常にチャーミングだった。また、ローズをコーチするルイを『ムード・インディゴ うたかたの日々』のロマン・デュリスが演じているが、この男優さんはどうも口元に締りが無くてちょいと苦手だったかな。
実際にあったかどうかは別として、タイプ早打ち大会のスポ根ならぬタイプ根ドラマ、というのがユニーク。なんでだか次々に勝ち進んじゃうのはお約束っぽいし、他愛が無いと言えば他愛が無いのだが、汗臭いマッチョ男ではなく可愛い女子がお洒落して活躍してくれたほうがビジュアル的にも心和む。ロマンス展開もやはりお約束ぽくて、「特訓の為に僕の家に住まないか」だなんて、なにその分り易い展開とは思うが、話が早い分面倒臭くなくていい。タイプ早打ちがテーマだけにテンポも早くきっちり娯楽作として作られている。そして50年代フランスのレトロなファッションやライフスタイルが巧みに再現された美術が目を楽しませる。
ところで時代設定となった1958〜1959年のフランスというのは、それまで続いていた各地のフランス植民地独立運動がようやく終結の兆しを見せ始めた時期であり(劇中ルイが出征したというのはこの独立戦争なのだろう)、新憲法であるフランス第五共和憲法が制定され、シャルル・ド・ゴールが新大統領の任に就き、その強力なリーダーシップによりこれまで不安定だった政局が安定化し、高度経済成長を成し遂げることになるまさにその第一歩の年であった。この作品に横溢する奇妙な多幸感は、作品のテーマのみならず、実は当時のフランスの空気そのものだったのだ。
ちなみにこの映画は「アルフレッド・ヒッチコックビリー・ワイルダーダグラス・サークジャック・ドゥミフランソワ・トリュフォージャン=リュック・ゴダールミケランジェロ・アントニオーニ、50年代の小津のカラー作品『お早よう』などにオマージュを捧げて」いるらしく、そこここに名作映画のシーンが再現されているのだという*1。えーっとオレは全然気付かなかったんですが参考までに。