■気狂いピエロの決闘 (監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア 2010年スペイン映画)
I.
スペイン内戦中、デブの女装ピエロが銃弾をかいくぐって突撃、マチェーテ片手に玉砕!という唖然とするシーンから始まるこの映画、その後その女装ピエロの息子もサーカスピエロになり、サーカスクラウンのDV夫が振るう暴力に悩む曲芸美女に岡惚れした挙句、成就しない恋に遂に発狂!酸や熱したアイロンで顔を醜くただれさせ、毒々しいピエロの衣装を着こんで町に突撃!両手にマシンガン抱えてダイナーを襲撃!アイスクリームカーに乗り込んで曲芸美女を拉致!もはやキチガイピエロを止めることは誰にもできない!という凄まじい映画です。
サーカスのピエロって滑稽な存在ではありますが、ちょっと怖い感じもしますよね。この「怖いピエロ」のモチーフは小説・コミックや映像作品に結構現れます。TVムービー化もされたS・キングの小説『IT』でも"超自然的な究極の邪悪"はピエロの姿を身にまとって現れましたし、バットマンに登場する最凶のヴィラン・ジョーカーも道化師の格好です。宇宙からやってきたピエロ型宇宙人が人間を襲う『キラークラウン』なんていうホラー映画もありました。そもそもサーカスという空間自体が異世界を感じさせるものですから、そこで愛嬌をふりまくピエロが異界の住人のように感じられるのも当然でしょう。その中でも一番この映画『ラスト・サーカス』とテイストが似ているのはアレハンドロ・ホドロフスキーの映画『サンタ・サングレ 聖なる血』でしょう。サーカス団出身の少年が両腕の無い気の狂った母親に操られ、次々と女性を殺害する、というストーリーですが、ホドロフスキー独特のアンダーグラウンドな毒々しい美術が美しい作品なんですね。『気狂いピエロの決闘』も『サンタ・サングレ』も、強烈なカルト臭がする部分も実に共通していますね。
II.
おぞましい格好のピエロが画面を闊歩し、殺戮や死や狂気が全編を覆うこの映画、しかし実はホラーやサスペンスというのとはちょっと違うんですね。全編が過激で過剰な表現に満ち溢れてはいますが、物語の核となるのはピエロの悲恋なんですね。だから言ってみればこれ、あまりにもいびつな「暴走恋愛映画」ということもできるのではないかと思います。
そしてこの映画は同時に、「怪物映画」の系譜をきちんと踏んでいるんですね。醜い顔のエンターティナーが美女に岡惚れした挙句拉致し、悲劇的な結末を迎える、というのは「オペラ座の怪人」ではありませんか。ピエロが不気味な洞窟に隠れ住む、というのも「オペラ座〜」っぽいですよね。さらに映画のクライマックス、高い塔に上ったピエロと美女、そして軍隊との攻防戦というのは、これは「キングコング」なんですね。そして「オペラ座〜」にしろ「キングコング」にしろ、そこに通底するのは「美女への恋」なんですね。つまりは「美女と野獣」の悲劇、という怪物映画のパターンを踏襲しているんですね。ですからこれらを総合するなら、この映画は「暴走怪物恋愛映画」ということができるんですね。
世界に背を向け"怪物"と化した主人公が、それでもどこか哀れな存在として描かれるのは、初期のティム・バートン作品でも頻繁にモチーフとされた「フリークスの悲しみ」がそこにあるからなんですね。真っ当に生きようとしながらも果たすことが出来ず、ただひとつの希望を美しい女性との愛に見出そうとしながら、結局それさえも潰え去り、怒りと絶望から狂気の中に取り込まれ破滅へとひた走る主人公。おぞましい顔のピエロと彼が手を下す殺戮が描かれながらも、この物語の中心となるのは「愛の不在とその悲しみ」だったのです。
ところでこの映画は2011年に「ラテンビート映画祭」で限定的に国内上映されましたが一般公開はされておらず、日本語版ソフトも発売されていません(訂正:ついこの間『気狂いピエロの決闘』というタイトルで日本語版が出ていたようです。訂正しエントリ・タイトルも変えさせてもらいました)。自分も日本語字幕等のない輸入盤Blu-rayを購入し視聴しましたが、英語が苦手でもだいたいの内容は把握できました。そしてこの映画はDOYさんのブログ「THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE」のエントリ「スペインの悲しき歴史と壮絶な三角関係 - 『The Last Circus』」で知り、いつか観たいなあと思いつつやっと観ることができた作品でした。DOYさんのエントリではこの映画の歴史的背景も触れられているので是非ご覧になってくださいね。
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