と言うわけで年の瀬も押し迫ってまいりました。今週は今年の日記の総集編ということで、今年面白かったコミックや本、音楽、ゲーム、そして映画についてそれぞれエントリを挙げていきたいと思います。まず最初は今年読んで面白かった本などをつらつらと。まあもともとあんまり本は読まないほうだし、新刊というよりも重要本や名作を読んだ年でした。
◎ノンフィクション
ノンフィクションって実は今まで全然読まなかったんですが、今年はこのジャンルの鉄板といえるような本をやっと今頃読みました。『銃・病原菌・鉄』は文庫本になったのがきっかけで、『夜と霧』は一度読むべきなんだろうなあと思っていたのをやっと手にすることになりました。
■銃・病原菌・鉄−1万3000年にわたる人類史の謎(上)(下) / ジャレド・ダイヤモンド
人類社会には何故富と権力の格差があるのか。欧米白人と一部の有色人種、少数民族の豊かさがこれだけかけ離れているのは何故なのか。それは遺伝的・人種的優位・劣勢のせいなのか?アメリカの進化生物学・生理学・生物地理学者でありノンフィクション作家のジャレド・ダイヤモンドは、フィールド・ワーク中のニューギニアにおいて、あるニューギニア人政治家の「何故我々ニューギニア人は"持たざる者"なのか?」という問い掛けから、この膨大な著作を生み出した。作者は人類1万3000年の歴史を遡り、考古学のみならず、地理、資源、環境変動、植物学、動物学、言語学、遺伝子学、人類学、その他諸々の学術的情報と推論から、「何故現代社会における格差は成り立ってしまったか」を導き出す。【レビュー】
■夜と霧 / ヴィクトール・E・フランクル
- 作者: ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2002/11/06
- メディア: 単行本
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◎SF
『サイバラバード・デイズ』はインドを舞台にしたサイバーSFというのが面白かった。『アンドロイドの羊の夢』は非常に優れた冒険活劇でした。
■サイバラバード・デイズ / イアン・マクドナルド
- 作者: イアンマクドナルド,Ian McDonald,下楠昌哉,中村仁美
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/04/01
- メディア: 単行本
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■アンドロイドの羊の夢 / ジョン・スコルジー
- 作者: ジョン・スコルジー,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/10/04
- メディア: 文庫
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◎古典文学
今年は古典文学にも挑戦してみました。"シェイクスピア四大悲劇"と呼ばれる『リア王』『マクベス』『ハムレット』『オセロー』を立て続けに読んだのはいい読書体験でした。『失楽園』はキリスト教世界を描きながらもこんなにも面白い作品だったとは!と目から鱗でした。
■"シェイクスピア四大悲劇"
それにしてもシェイクスピアの悲劇作品というのはすべてがある種の【狂気】の物語なんですね。【悲劇】というよりも【狂気】なんですよ。人というのは様々な感情を持った生き物ですが、その感情のどれか一つが他を圧倒し、"それ"だけが一人の人間の唯一絶対の感情となる、いうなれば妄執であり強迫観念ということができますが、【狂気】というのはそういったものなんですね。逆に言えば【狂気】という形を取って人間のたった一つの感情を徹底的にクローズアップしてゆく、そしてその生々しさと激しさを徹底的に描ききる、それが【シェイクスピア四大悲劇】の本質なんではないのか、そんなことを感じましたね。【レビュー】
■失楽園 / ジョン・ミルトン
なにより感動的だったのは、イヴが教えを破って知恵の実を食べたことを知ったアダムが、しかしイヴへの愛ゆえに、彼女と共に同罪に落ちるために知恵の実を食べる、というくだりです。知恵の実を食べたアダムとイヴ、という話は知ってはいても、その動機には二人の【愛】が隠されていたのだ、という解釈には非常に切ないものを感じました。さらに神の怒りに触れ、楽園の追放を言い渡され、その子孫にも永劫の苦しみが待っている、と知らされた二人は、一度は死を考えながら、それでもやはり、生きてゆこう、そして、子孫を残してゆこう、と誓うんです。二人は、生は、実は苦痛ばかりなのではない、生きていることは、それ自体が祝福なのだから、だからこそ、生き続けるということは、その祝福を成就する行為なのだ、ということを悟るんですね。そして、楽園を追放された二人は、茫漠たる荒野へ、最初の一歩を記すんです。ある意味このクライマックスは、アダムとイヴの凄惨なるラブ・ストーリーとして完結するんですよ。【レビュー】
◎ロシア奇想小説
奇想文学の中でも非常に名高いロシア産のこの2作品、そのとんでもない展開はそのまま本を読む醍醐味そのものでしたね。
■巨匠とマルガリータ / ミハイル・ブルガーコフ
ミハイル・ブルガーコフの奇想小説『巨匠とマルガリータ』はモスクワの町に悪魔が現れて人々を翻弄し、てんやわんやの大騒ぎが繰り広げられる、という物語だ。しかしその悪魔は別に人間に悪さをしたいから現れた訳はなく、ある目的があってモスクワに出現したのだけれども、その段取りの中で人間たちが悪魔の差し出す餌にまんまと引っ掛かったり、またはご機嫌を損ねたりして、最終的にみんなとんでもない目に遭ってしまう、という訳なのである。しかしそんなブラックなスラップスティック・ドラマとは別に、時間を遥か遡り、キリストの処刑とそれを決定したピラト提督の苦悩が描かれるパートがこの小説には挿入される。そしてこのパートが、現代の悪魔篇のコミカルなドタバタと対比を成すかのように、静謐さと懊悩とが交差する、非常に文学的かつ思弁に満ちた文章で、美しい。【レビュー】
■青い脂 / ウラジーミル・ソローキン
- 作者: ウラジーミル・ソローキン,望月哲男,松下隆志
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/08/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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