『ドライヴ』監督ニコラス・ウィンディング・レフンによるピカレスク・へんてこ映画『ブロンソン』

ブロンソン (監督:ニコラス・ウィンディング・レフン 2008年イギリス映画)


『ドライヴ』の監督ニコラス・ウィンディング・レフンが2008年に実在の犯罪者をモデルに制作した"悪党映画"である。しかしレフン監督だけにこの映画、なんか「変」なのである。
"ブロンソン"とはイギリスで最も有名な服役囚マイケル・ゴードン・ピーターソンの通り名で、これは映画俳優チャールズ・ブロンソンにちなんでつけられたのだという。ブロンソン=マイケルは犯した犯罪こそチンケなものなんだが、刑務所での素行があんまりにも酷く、34年の刑務所生活のうち30年を独房で過ごしているのだ。その行動はもはや【狂犬】と言ってよく、看守を殴る蹴るは当たり前、返り討ちに遭って血塗れの姿で独房に入れられても出たら出たでまたもやケロッとした顔で暴力を振るい続ける、保釈になってもすぐさま犯罪を犯し刑務所に逆戻り、そしてまた暴力を繰り返すトリコ仕掛けの毎日、という社会不適応者の鑑みたいな男なのだ。
こういった犯罪者の実録ドラマを撮ろうとすると殺伐とした暗い物語になりそうなものなのだが、しかしそこは『ドライヴ』のレフン監督、バイオレンス・テイストは確かに存在しつつも全体的な雰囲気はなんだか「変」なのである。まず物語はブロンソンが舞台に立って自らの半生を観客に語って聞かせる、といった進行になっていて、既にここから変だ。ここでのブロンソンは小芝居を交えながら茶目っ気たっぷりに話を進めるのだが、すっかり目が座っていてアブナイやつであることは変わりない。そしてブロンソンの暴力に明け暮れる刑務所生活が描かれてゆくわけだが、ここに派手なオーケストラと90年代風エレ・ポップが絡んでゆき(ニュー・オーダーペット・ショップ・ボーイズが流れる)、さらに『ドライヴ』でも顕著だったデヴィッド・リンチを彷彿させるような奇妙な色彩のライティング、そしてどこか非日常感の漂うセットやシチュエーションが次第に物語を覆ってゆくのである。「イギリスで最も危険な服役囚」のお話だと思って観ていたら、いつの間にか赤いベルベットのカーテンが下りる訳の分からない異次元空間に放り込まれる、といった感じなのだ。
特に後半の芸術に目覚めるブロンソンの奇行ぶりは狂いまくっていてなおさら訳が分からない。根本敬に師事したかと思えるような気持ち悪いヘタウマ絵画を描きながら、全裸になって白塗りならぬ黒塗りにし、フルチン姿で暴れまわり、「オレにとって芸術とは!?」なんて喚きまわるのである。いったいなんなんだコイツは。そしてこのブロンソンを演じるのが『バットマンダークナイト・ライジング』でベインを演じたトム・ハーディ。ベインで変なマスク付けて暴れていたと思っていたらこっちでは黒塗りのフルチン姿である。役者魂炸裂である。威圧感たっぷりのダミ声は一緒なので、観ていて時々「ベインがフルチンで暴れている」という錯覚にとらわれるほどである。『ダークナイト・ライジング』ファンは必見である。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督の映画作品は、『ドライヴ』もそうだったけど、「面白かったんだけど何がどう面白かったのか説明が難しい」変なセンスに溢れている。酷評したが、監督の『ヴァルハラ・ライジング』も、実際変な映画だった。そしてこのレフン監督の変な面白さ、奇妙な魅力を的確に表現できる言葉がオレには見つからない。あえて言うなら、作る作品の、または監督としての制作態度の、どこかが過剰でどこかが欠落していて、しかし出来上がった作品のバランスの在り方は普通では考えられない場所を支点にして保たれている、そういった部分なのだろうか。

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