■ダークナイト・ライジング (監督:クリストファー・ノーラン 2012年アメリカ映画)
クリストファー・ノーランのバットマン3部作完結篇、『ダークナイト・ライジング』を観て来ました。以下、多分ネタバレ無しで書いています。
実をいうとクリストファー・ノーランという監督には、「斬新で良質な映画は撮るけれど」という言葉のあとに「どうも頭でっかちなばかりに今ひとつすっきりしない部分を残しちゃう映画監督」「あれもこれも盛り込んじゃって視点が定まらずさらにそれを畳み掛けちゃうからクドくて途中でイラッとくる映画監督」と言いたくなる部分があって、それは『ダークナイト』『インセプション』で感じたことなんですが、今回の『ダークナイト・ライジング』も確かにそういう部分も感じたけれども、バットマン3部作の終焉という意味ではいい仕事していた、総じて楽しめる映画だったと思いました。
ノーランのバットマン3部作のはじまりである『バットマン・ビギンズ』は「僕はこうしてバットマンになった」というバットマンの"過去"を描いていたんですね。そこでは幼少時の暗く苦痛に満ちた過去があって、そしてそのために悪を憎み悪を倒そうという、動機と必然性を描いたわけです。そして『ダークナイト』では「僕は今バットマンとしてこういうことをしている」というバットマンの"現在"を描いていたんです。でもその現在のバットマンは、「ヒーローであることってなんなんだろう?そもそもヒーローってなんなんだろう?善とか悪とかってどういうことなんだろう?」という現在進行形の葛藤もあって、それがそのまま描かれていたわけです。つまり自らの動機と必然性に揺さぶりが掛けられていたんですね。映画にはその分深みはありましたが、煮え切らない部分もあって、個人的にはそこがどうもひっかかていた。
そしてこの『ダークナイト・ライジング』では、そういった葛藤の先にある、「バットマンでもありブルース・ウェインでもある僕は、これからどうやって生きてゆくべきなのだろう?」というバットマンの"未来"を描いていた。そこでは、バットマンではあるけれども一人の人間でもあるブルース・ウェインの、人としての未来はどこにあるんだろう?ということを描こうとしていた。つまり、『ダークナイト』における「バットマンであること、あり続けることの動機と必然性への揺さぶり」に回答を見出そうとしていた。"3部作"のそのラストにおいて、そういった、一人のヒーローの"過去""現在""未来"をきちんと描き出そうとしていたところに、自分としてはとても好感が持てた。
この『ダークナイト・ライジング』は、『ダークナイト』における非情と虚無に満ちた世界を、もう一歩推し進めてもよかったのだろうし、さらにいってしまえば、この『ダークナイト・ライジング』という映画へのファンの期待は、『ダークナイト』における非情と虚無に満ちた世界をさらに推し進めた、いわば『ダークナイトpart2』とでもいった作品として完成していることに対しての期待だったのだと思うんです。しかしこの『ダークナイト・ライジング』は、決して『ダークナイトpart2』ではなく、あくまでも1作目を含めてのバットマン3部作の完結篇として成立しているんですよ。そういった部分で賛否両論に分かれるところはあるのでしょうが、自分は、「伝説が、終わる」という惹句通りに、一つのサーガの終わり方として、綺麗にまとめたな、と思うんですよ。
なぜなら、これが『ダークナイトpart2』では、バットマン・サーガは終わらず、たぶん苦悩も苦痛も引き継いだままの、本当に虚無的な終わり方をするしかない(すなわち引き継いだままで終わっていない)、まあそれはそれで壮絶な作品として完成していたかもしれないし、「綺麗にまとまればそれでいいのか」ということもあるかもしれないのですが、ひとつの方向性の選択として、バットマン3部作の終章としての『ダークナイト・ライジング』の終わり方は、3部作のまとまりという意味でよかった。だから作品的には『ダークナイトpart2』ではなく、『バットマン・ビギンズ』と『ダークナイト』の折衷的な内容、というかこの2作を踏まえた上で、その先にあるものを描こうとした作品、と観たほうが正解なんだと思うんですね。
確かに描写として余計で中途半端なシークエンスも多々あり、テーマとして持っていこうとしていたのだろうけれども全く生かしきれていない部分もあり、唐突過ぎて説得力に欠ける部分があり、勢いよく進んでいた物語をつまらない描写で失速させている部分があり、時空列がインチキな部分があるのも感じたのですが(このへんのシナリオの混乱は、映画の尺が長すぎてカットしちゃったからということも考えられ、ソフト発売の際はそれらが収録された「エクステンデッド完全版」が出てくれたら嬉しいですよね!)、以前のノーラン作品なら納得できない部分としてこれ見よがしにあげつらっていたそういう部分は、今回はなんだか「まあいんでね」で忘れたことに出来る、胸を熱くさせる描写もまた、実にたくさんあったんですよ。
それは、「善ってナニ?悪ってナニ?」とウダウダしてるバットマンではなく、「自分はヒーローとして、できることをやるんだ」という、腹をくくったバットマンがそこにいたからなんですね。それはつまり、「動機と必然性への揺さぶり」に対する、バットマンが最終的に見出した回答だったからなんですよ。それはある意味ベタな展開で、クールとは呼べないものだったとしても、逆にベタだったからこそ、今回の『ダークナイト・ライジング』は熱い映画だった。やっぱりね、男はやるときは腹くくってやらなきゃダメ、そういうことですね。
それと、なにしろアン・ハサウェイ演じるキャットウーマンがよかった。ここまで活躍して物語に大きく関わるとは思わなかったし、なによりもあの腰のくびれ、あれ、たまりませんでしたね。今回バットマンが男を見せたのも、このキャットウーマンのくびれのせいだったんではないのか、とさえ思わせてくれますね。男は女に立てられると頑張りますから。まあ、実はそういう物語でもあったんじゃないですかね。
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