【海外アニメを観よう・その4】美しい影絵の世界『プリンス&プリンセス』

■プリンス&プリンセス (監督・脚本:ミッシェル・オスロ 1999年フランス映画)

プリンス&プリンセス [DVD]

プリンス&プリンセス [DVD]

『プリンス&プリンセス』は、『キリクと魔女』で本国フランスに一大社会現象を巻き起こしたミッシェル・オスロ監督が、1989年に「もしもの映画」 “Cine si”と題するテレビシリーズとして製作したものを元にしています。2000年にプリンスとプリンセスをめぐる選りすぐりの秀作を集めオムニバス形式の作品として劇場公開され、「ミッシェル・オスロは、おとぎ話を断念することなく、新しいテクノロジーを創造する。つねにユーモアと愛を持ち続けながら」(リベラシオン紙)と、フランスのマスコミからも大絶賛された話題作です。製作から10年以上を経た現在でも、古さを感じさせるどころか、CGや3Dなどテクニカルなアニメーション技術に慣れ親しんだわれわれの眼には、むしろ新鮮に焼きつくことでしょう。<ストーリー>
好奇心旺盛な少年と少女が、魔法使いさながらの映写技師の協力を得て、だれも知らないおとぎの国のお話―6つの国の6組のプリンスとプリンセスの愛の物語―を創造し、その世界で無邪気に遊びます。

DVDジャケットから漠然と「影絵のアニメ?」と思ってたんですが、"切り絵"を使った影絵アニメというわけではなく、影絵風に人物を黒く塗りつぶし、抽象化して表現したアニメなんですね。ちなみに影絵アニメというと以前ドイツの映像作家ロッテ・ライニガーによる影絵アニメーション『アクメッド王子の冒険』(1926年作)という作品(レビュー)を観たことがありますが、こちらは影絵というプリミティブな表現方法ながら逆にそれが非常に強い印象を残す良質な映像作品でした。
さてこの『プリンス&プリンセス』、ありふれたタイトルから単純な1本のお伽話を想像していたのですが、なかなかにワザアリな作品に仕上がっています。物語は6つの小篇に分かれていて、それぞれ時代も舞台も違う様々な男女のやりとりが描かれているんですね。ざっと紹介するとこんな感じ:

Chapitre1.『プリンセスとダイアモンド』/囚われのプリンセスを救い出すため、プリンスは草原の中から111個のダイアを探します。
Chapitre2.『少年といちじく』/ファラオの時代。正直者の青年が、季節外れに実ったいちじくを、プリンセスに献上します。
Chapitre3.『魔女』/中世。忌まわしき魔女退治に、ひとりの青年が武器を持たずに立ち上がります。
Chapitre4.『泥棒と老婆』/北斎の時代の日本。老婆の肩掛けを盗もうとする泥棒が散々な一夜を過ごします。
Chapitre5.『冷酷なプリンセス』/未来。冷酷なプリンセスの孤独な心を、ウタドリ使いの青年が溶かします。
Chapitre6.『プリンス&プリンセス』/永遠の愛を誓ったプリンスとプリンセスの身に降り注ぐ思いがけない試練とは?

こんな具合に結構バラエティに富んでいるんですよ。しかもこの物語、基本的な登場人物は一組の若い男女と映写技師の男という3人だけで、彼らがお伽話を演じる、という形で物語が進行するんですね。新たな物語が物語られる前に、3人が「次はどんな物語にしよう?」と話し合い、内容が決まると"衣装製造機"みたいなSFチックな道具の中に入って衣装をあつらえ、それから舞台に入って物語を演じるんですね。作品紹介では「6つの国の6組のプリンスとプリンセスの愛の物語」とかなっていますが、実際は決してロマンス要素を強く押し出しているわけではなく、また古代エジプトや昔の日本を舞台にしていたり未来世界が舞台だったりと、お伽話の枠だけでは括りきれないいわゆる《寓話》としての物語展開がなされていて決して子供向けということはないんです。そしてその《寓話性》を高めているのが"影絵風の人物描写"ということなんですよね。6つの短編はどれもひねりがあって一筋縄ではいかない物語展開が楽しいのですが、特にSF世界を描いた『冷酷なプリンセス』、「蛙と王女」というお馴染みの童話に見せかけて変幻自在な展開を見せる『プリンス&プリンセス』が個人的にはお気に入りです。美術もミッシェル・オスロらしいとても美しいもので、シンプルながら目を惹きます。