モハメド・アリとジェームズ・ブラウンを繋ぐもの〜ドキュメンタリー映画『ソウル・パワー』

■ソウル・パワー (監督:ジェフリー・レヴィ・ヒント 2008年アメリカ映画)


1974年、ザイール(現在のコンゴですね)で行われたブラック・ミュージックの祭典【ザイール74】の様子を追った音楽ドキュメント・ムービーです。この【ザイール74】の背景には、後に"キンシャサの奇跡"と呼ばれるボクシング世界ヘビー級王者決定戦、モハメド・アリジョージ・フォアマンの戦いが同時企画されており、まさにブラック・パワーの凱歌とも言える壮大な祭典だったのだそうです。

出演者は"ゴッドファーザー・オブ・ソウル"ジェームス・ブラウンの他、B.B.キング、ザ・スピナーズ、ビル・ウィザース、セリア・クルース&ザ・ファニア・オール・スターズ、クルセイダーズドン・キング、スチュワート・レヴァィンなどなど、他にもアフリカン・ミュージシャンが数々出演しています。映画はこのフェスティバルの会場製作や打ち合わせの様子を描くところから始まり、キンシャサへ向う飛行機の中で賑やかにセッションするミュージシャンたち、キンシャサの町の様子、そして熱く盛り上がる本番ステージが描かれてゆきます。

それと合わせ、対ジョージ・フォアマン戦を控えたモハメド・アリの数々のスピーチを聞くことが出来るんです。このモハメド・アリのスピーチ、短い時間しか映画には挿入されていませんが、実はこの映画の中で大きなウェイトを占めるものである事は間違いありません。アリは言います、「ミュージシャンは所詮エンターティメントをしに来ているだけだが、自分はここで神から与えられた使命があるのだ」と。即ち早い段階から、アリは彼にとっては乱痴気騒ぎでしかない音楽祭と、黒人の威信と勝利を賭けた戦いを挑みに来た自分とは何も関係ないと言い放っているんです。

確かに出演ミュージシャンたちの中には、クオリティは決して低くないもののアフリカに普通に営業に来ているだけかもなあ、と感じる演奏も無きにしも非ずなんですよね。そして幾つかのミュージシャンによるブラック・ミュージックは、白人マーケットに合わせたソフトな音楽として成立しているばかりに、ザイール、即ちアフリカの、圧倒的なブラックネスに負けているように聴こえてしまうんです。実の所当時の欧米的な音楽シーンの中にはある意味それしかなかった、としか言いようが無いのですが、現在のよりグローバルかつ多様に展開しているブラック・ミュージックに聴き慣れた耳には、少々大人しいかな、と感じてしまう部分があるんです。

しかしそんな危惧を完膚なきまで粉砕するのはクライマックスに満を持して登場する帝王・ジェームズ・ブラウンの素晴らしいパフォーマンスです。モハメド・アリが"所詮エンターティメント"と言い放った音楽の範疇をJ.B.のパフォーマンスは軽々と飛び越えます。アリがチャンピオン・ボクサーを叩きのめすことによりアメリカの保守体制を叩きのめし、自己存在の正しさとパワフルさを示そうとしていたのに対し、J.B.の音楽は白人だろうが黒人だろうがその音楽のパワーで等しく叩きのめすと同時に高揚させ、そして踊り狂わせます。方法論さえ違え、二人は圧倒的な存在感でもって黒人たちの持つパワーと真の自由へのあり方を高らかに世に誇示します。この時アフリカの大地で、アリとJ.B.は同じ崇高なる場所に立っていたのに違いありません。

ソウル・パワー [DVD]

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