蘇る玉虫厨子 (監督:乾弘明 2008年日本映画)


玉虫厨子である。国宝なんである。なんでも"飛鳥時代推古天皇がご自身の宮殿において拝んでいたとされる"ものらしい。これが奈良の法隆寺に置いてあるのらしい。1300年前に作られたということだが、飛鳥時代というのが西暦何年なのか皆目分からないボンクラのオレとしては、あっちの方向を見ながら「そうだよね!」と莞爾と笑って相槌を打つしか成す術がないのである。そしてコーコーの時日本史赤点ばっかだったからなーよく卒業できたよなー、などと遠い過去にまで思いを馳せてしまったオレである。まあそんなことはどうでもいい。

この映画は、1300年の永き歳月に色褪せた玉虫厨子を、伝統工芸の職人達の手で現代に蘇らそう、といったプロジェクトを追ったドキュメンタリーなんである。ホンモノを弄くるんではなくて、写真資料から現物と違わぬ精巧なレプリカを作ろうとした試みなんだよね。結果的に、現物を緻密に再現したものと、現代的な装飾アレンジを加えたものの二つが作られることになるんだ。現物に施された装飾は殆ど劣化退色して正確な意匠を読み取ることが出来ないので、そこは想像力で補ったりはしているけどね。

オレは国宝も職人技もあんまり興味無い人間なんで普段はこんな映画は観ないんだけど、相方さんが「観るー!」と鼻息荒くしていたから付いていったんだがね。まあそんなオレでもそこそこ観る事の出来たドキョメンタリーだったな。なんかこう、スッゴイ技術を持った人がムツカシー顔して工作してるっていう画を「うわー器用だー」とか「うわーこまけー」とか思いながら観てるのは単純に楽しいよね。それも多分国内でも十指に入るような職人さんの腕、ってことだしね。

つまりさ、現代で言うところのモデラーみたいな人たちの仕事ぶりを感嘆しながら見るのと変わらないんだと思うんだよ。伝統工芸かフィギュアかの違いはあるかと思うが、職人の技という意味ではどちらもいっしょなんじゃない?だからこの映画、モノ作りの好きな若い人たちに、モノを作る最高の腕を持った人たちの映画、として観て貰っても面白いかもしれないね。モノを作る、ということの熱情や愛情はきっと変わらないと思うからさ。

ただ思ったんだけど、由緒ある古物を完璧に再現する、というのなら、大学あたりで学術チーム組んで、X線やらコンピュータやらを使って構造や図像の解析を行い、緻密で専門的な工作機器使って製作するとかはしなかったのかな?ということなんだよね。つまり、この玉虫厨子の復元は学術的なものではなく、あくまで日本の伝統工芸の職人たちによって成されることを目的としているということなんだね。そしてしかも、このプロジェクトの全てが、たった一人の人物の資本と熱願によって遂行されたらしいんだね。

その人物、というのが中田金太という実業家の方だった。上っ面だけの言い方をしてしまえば、金持ちの美術パトロンだと言えるかも知れないが、調べてみると、氏の日本伝統美術への熱情はどうやら半端なものではなかったらしい。今回のプロジェクトには1億円以上の私財を投じたらしいが、飛騨の匠たちの技術を後世に伝えるため、1台3億円かかる飛騨高山の祭屋台を8台造らせた、なんていうこともしていたらしい。金にあかせた酔狂ではなく、伝統技術を残したい、という強い思いが氏にはあったようだ。

この中田氏個人についてはあまり映画では触れられていなくて、玉虫厨子の完成を待たずに逝去されたという残念な映像が挟まれるぐらいだけれども、この映画というのは、荘厳に輝く完成した玉虫厨子の美しさを堪能する映画であると同時に、実業家中田金太が生前何を成し遂げたかったのか、についての映画でもあると思うんだよね。まあオレは実業家も美術パトロンも伝統工芸もカンケーねーやと言い切っちゃうような人間ではあるけれども、中田氏の傑物振りは十分伝わってきたな。

ちなみに映画館のお客さんの年齢層が相当高くて、こんなに沢山の御老人を見るのはこの映画館か巣鴨の刺抜き地蔵かと思ったぐらいでした!なんまんだぶなんまんだぶ!

■わしゃ、世界の金太!―平成の大成功者と五人の父

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