■幸せをつかむダイエット (原題:Vazandaar)(監督:サチン・クンダルカル 2016年インド映画)
とある大失敗をきっかけに、二人のインド人女子がダイエットに挑戦する!というお話です。
マハーラーシュトラ州パンチガニに住むカヴィ(サイー・タームハンカル)とプージャ(プリヤー・バーパト)は大の親友。ある日プージャは、伝統を重んずる家に嫁ぎ窮屈な毎日を過ごすカヴィの為に、一緒にダンスパーティーに繰り出します。テーブルに乗って踊り呆ける二人ですが、そのテーブルが壊れて転げ落ち、さらにその光景が動画に撮られて拡散し、近所の物笑いの種となってしまいます。「これは私たちがテーブルが壊れるほどおデブだからだわ!ダイエットして見返してやる!」かくして二人の過酷なダイエットの日々が始まりますが!?
ダイエットと言えば女性にとっては永遠の課題、もちろん男性だって決して無視していいことではありません。かくいうオレも大昔ちょっとしたダイエットに挑戦したことがありました。あれは中学3年ぐらいの時、大食漢&運動嫌いのオレは結構なぽっちゃり体型だったんですが、そこはやはり思春期、女子の目が気になってダイエットを決意、あの時は炭水化物と油と糖分を控えて、1,2年掛けて10キロほどの減量に成功しました。しかしその後も10数年食事制限を続け過ぎていつも頭をクラクラさせながら過ごしていたので、健康や精神状態にはきっと悪かったんだろうなあ。結局30歳過ぎてから食事制限止めたら以前の体重に戻っちゃいました。ただ、その後はほとんど同じ体重を維持しているので、この体重がオレには順当なんだろうと思うことにしています。
さて映画のほうは女子二人のダイエット大作戦となりますが、この主役の二人、たしかにぽっちゃり体型ではありますが、肥満体系というほどではないんですね。ダイエット成功後の姿も登場しますが、見違えるほど大変身!ってほどでもなくて、だから体重に大いに悩む女子二人、という物語に若干説得力が希薄なんです。あの手この手のダイエット作戦も想像の範疇を超えるものは無く、この部分のコメディ要素も大人しめです。これがハリウッド映画だったらとんでもないエグイ方向へと持って行くんだろうがなあ、とダイエットそれ自体の展開にはそれほど面白味はありません。また、物語はフラッシュバックの形式で描かれますが、これもそれほど成功しているとは思えません。
しかしこの物語の本質にあるのは、女性がどうやって自分に自信を持つことが出来るようになるのか、という部分にあるのだと思います。カヴィは厳格で格式高い実業一家に嫁いだばかりに、独身だった頃の自由は奪われ、ただ子供を産むことだけを期待される存在になっています。またプージャはアメリカで学位を取ることを目指す女性ですが、それほど裕福ではない母子家庭に育ち、そういったことを心の奥底で気にしていて、引っ込み思案で自分の容姿に自信が持てません。この二人の対比の面白い部分は、カヴィが自分の周囲の社会からの開放を夢見、プージャが自分自身からの開放を夢見ている部分にあります。そしてダイエットは、そのきっかけに過ぎないんです。さらに映画は、こういった女性二人の友情にクローズアップしている部分が見所なんですね。女同士の友情を描いたインド映画って意外と少ないと思いません?
併せてこの映画を魅力的にしているのは、舞台となるマハーラーシュトラ州パンチガニの、はっとするほど美しいロケーションにあるんですよ。オレは全然知らなかったんですが、パンチガニはムンバイから南東に240キロほどの距離にある内陸部の土地で、映画では花々の咲く瑞々しくて風光明媚な風景が映されてゆきます。インド映画ではゴアの自然が美しいなと思ったことがありますが、このパンチガニも負けてはいません。そしてその中に建つ住居とその内装の、素朴ながら暖かな生活感を感じさせる雰囲気がまたいいんですね。伝統性を重んじる裕福なカヴィの家は古いものを実に大切に使っていて、まるでコルカタの旧家のように見えるし、プージャの家も貧しいなんてまるで思えない山奥のコテージのような作りで、これも目を楽しませます。
そんなわけでこの『幸せをつかむダイエット』、ダイエットという今風なテーマながら、その中に女性の自己実現、女性同士の友情、そして静かで落ち着いたインドの暮らしぶりをうかがわせるロケーションと、実に様々な部分で注目すべき部分のある作品でしたよ。そういえばこの作品、珍しいマラーティー語の作品で、日本語字幕だけではなく英語字幕までついています。普段目にするボリウッド映画とマラーティー語映画の違いを気にしながら観るのもありかと思います。そういった部分でも面白味のある作品でしたね。
Vazandar | Official Trailer | Sai Tamhankar, Priya Bapat | Latest Marathi Movie 2016