モンスター・ハウス (監督:ギル・キーナン 2006年 アメリカ映画)

「ワシの家の芝生には絶対入るな!」と喚き散らし、子供達を怯えさせている偏屈親父ネバークラッカー。このネバークラッカーの家をこっそり部屋から監視していた主人公DJは、彼の家がなんでも食べてしまう恐るべきモンスターであることを知るが、大人たちはそれを取り合わない。かくしてDJとその友人チャウダー、ジェニー3人のモンスターハウス退治の決死の戦いが始まる!

アメリカ70年〜80年代を背景に、ちょっとレイドバックした街並みの中での子供達のドタバタ・ホラー・コメディ。きっとこの年代に少年少女時代を送ったアメリカ人を「懐かしい!」と唸らせる様な小ネタや雰囲気を再現しているに違いありません。少年時代というのは現実と空想の境が曖昧だったりしますから、日本人でも「あーこんな感じで友達同士肝試しとかしたなあ」なんて懐かしく思われる部分もあるかも。だからこの作品は子供達の物語であると同時に、かつて子供だった大人のアーリーデイズを描いたものと見ることもできるんじゃないでしょうか。物語は単純なんですが、きちんと作られていてなかなかの良作です。そして物語はラストで一つの報われない愛の物語として収束するんです。そういった意味で決して子供向けで終わっている作品ではないので、大人になっちゃった方にも是非観て欲しいですね。また、偏屈親父ネバークラッカーの声をスティーヴ・ブシェミが担当、さらに吹き替えを泉谷しげるが当てているのがお楽しみかな。キャスリーン・ターナーも声の出演をしています。

サバービア(郊外住宅地)の悪夢と言えばジョー・ダンテ監督の「メイフィールドの怪人たち」を思い出しますね。「ポルターガイスト」「エルム街」などもサバービアが舞台でしたが、スラッシャームービーがよく舞台とされるアメリカの辺鄙な田舎とはまた違った意味でホラーになりやすい潜在的な病理のようなものがここにはあるのでしょうか。まるでお仕着せのように型で抜いたような町並みは大量生産・大量消費の行き着く果ての光景のようにも見えます。そこには何か人の感覚を萎えさせていくものがあるのかもしれません。また人を食う家というホラーは大林宣彦のその名もズバリ「ハウス」なんて作品もありましたね。所謂お化け屋敷ものですが屋敷自体が生きて行動するところが面白い。

この作品は「トイ・ストーリー」などで有名なピクサーや「シュレック」のドリームワークスと同じフルCG長編アニメですが、これらと違うのは、実はCGアニメにモーション・キャプチャーを使用している所なのだそうです。逆に言えば、ピクサーやドリームワークスのCGアニメではモーション・キャプチャーは使われていなかったと言う事を知ってちょっと驚きました。ピクサーアニメがモーションキャプチャーを忌避していたのは”アニメーション”の動きに自由な作家性を持たせることに重きを置いており、現実の動きをトレースしたモーション・キャプチャーなど想像力の欠けたものだとする立場だったのでしょう。これは宮崎駿なんかも同じような事を言っています。「アニメーターがアニメーションさせずにどうするんだ」みたいな言い方でしたね。しかし今回ゼメキスはあくまで実写的な映像に拘ったということでのモーション・キャプチャーだったのでしょう。アニメーションにおけるブレの無いリアルな動きを求めていたのは、この作品がもともと実写での製作を予定されていた事からもあるのでしょう。そういった意味ではCGアニメの動きは自然なぐらいリアルです。

また、ピクサーアニメと違うのはその色彩設計などにも現れていると思います。中間色やペールトーンを多用したファンシーな色使いのピクサーに比べ、この作品は赤や黒などのきつい原色が多用され、特にホラーテイストが全開となる後半では、色彩設定自体もダークでくすんだリアルなものに準拠しているように見受けられました。同じようなフルCGアニメでも細かく見るとそれぞれ目指すものが違っていて面白いですね。

モンスター・ハウス トレイラー