- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2006/09/27
- メディア: DVD
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パリやミラノの高級ブランドに囲まれた生活に飽きた女性達が、スローライフだのロハスだのという広告代理店の惹句に乗って”ナチュラルなライフスタイル”に憧れる。そんな女性達にうってつけなのが生活に密着しつつも美しく自然体のデザインを生み出す北欧であり、この映画の舞台であるフィンランドなのだろう。しかしアンアンからクウネルに読む雑誌が変わったとしても、それもひとつのブランド信仰であることに変わりないように思う。
本来「食」を巡る物語であるべきこの映画に生活感がまるで欠けているのは要するにこれが「女性のための新しいライフスタイルカタログ」を標榜したものでしかないからだ。カタログだから人間は遠景に欠け、会話は上滑りし、ドラマらしいドラマも存在しない。”異国の地で料理屋を経営する”というのはファンタジーとして十分面白くなる要素があると思うし、個性的な面々で揃えた俳優もフィンランドというロケーションも決して悪くはないんだが、この”ドラマがない”という一点でなし崩しに損をしている。
しかも、登場するフィンランド人には何がしかの物語が存在するのに、主人公達三人の女にはフィンランドにいる動機さえ希薄だ。「おにぎりは日本のソウルフード」と誇らしげに言うのならそれをフィンランド人に食わせ美味いと言わせるのがドラマというものだろうが、映画ではこの話は途中で立ち消えになりシナモンロールでお茶を濁す。ああ、根性のない映画だ。料理屋は最終的には賑わう事になるのだがそれも「なんとなくそうなった」だけであり、鍛錬や学習があったとも思えない。要するに切羽詰ってない。お洒落な家具に囲まれたおままごとから一歩も出ていない。
この映画の主要な観客になると思われるのは、北欧家具やロハスな生活に憧れるような30代前後の女性なのだろうが、教育もあり経済的にも豊かで清潔で真新しい”モノ”が大好きなこれらの女性達にしても、実際は恋愛や夢や挫折などの生臭いドラマに飢えているのではないか。これらを主要なテーマにする必要はないとは思うが、スパイス程度にでも映画の中で存在させて貰いたかった。映画の設定は魅力的なので、もしもこの映画が大ヒットしたのだとしたら、「2」あたりを作ってそれを実現させてみるというのもいいかもしれない。その時はまた観せて貰います。