チョーク!/チャック・パラニューク (著), 池田 真紀子 (訳) 

チョーク! (Hayakawa novels)
この作家は映画『ファイト・クラブ』の原作者と言うことで知った。『ファイト・クラブ』って物凄い映画でしたね。全身の神経細胞の末端をビリビリと電気で炙られている様な恍惚と覚醒。ドラッグ体験のような映画だった、というか、あの映画自体がドラッグみたいなもんだったな。
その後この作家の『サバイバー』という小説を見つけた。このあらすじがまた凄くて、“カルト教団集団自殺の最後の生き残りだった少年が、成人してまた自らがカルト教祖になりそして失墜するまでの半生を墜落しつつある旅客機のなかで書き綴った手記”ということになっている。そしてその中で語られる様々なエピソードは強烈で皮肉、何処で間違ったのかわからない人生がそのまま雪崩式に暴走する崩壊感覚に満ちている。チャック・パラニュークという人の基本的なテーマはどうもこの“雪崩式に暴走する崩壊感覚”なような気がする。傑作でした。
この小説『チョーク!』はちょっと一言ではストーリー説明がしづらい。セックス依存症の主人公と、強迫観念的な反社会的生活を送った挙句、精神異常になって入院して余命いくばくもない彼の母と、オナニー中毒から逃れる為に山のように丸石をかき集め終いには地下室から部屋の廊下まで石の山にしてしまう彼の友人と、主人公を愛するあまりに彼とセックスをしなければならないと言い続ける女医と、そしてキリストの包皮から生まれたキリストの生まれ変わりと旅客機別トイレ内カーマスートラ案内と西暦2556年からやってきた恋人についての物語である。そして擬似レイププレイの最後の合言葉は「プードル!」。
小説はほとんどストーリーが展開せず、皮肉なエピソードと大量の注釈が痙攣的に挿入されていく。この訳が判らないほどの混乱。この小説で描かれるのもやはり前述した『何処で間違ったのかわからない人生がそのまま雪崩式に暴走する崩壊感覚』なのだ。
だから小説として読もうとするととっ散らかった情報量に面食らうが、本のページに現れては消える“生きること”に対する辛辣な視線を描写したエピソードを堪能するなら、その名文ぶりにきっと深い感銘を受けるはずだ。
ただ読み辛いと言えば読み辛い小説でしたがね。最初読むんなら、どっちかというと『サバイバー』のほうを薦めます。