国立西洋美術館『ピカソとその時代/ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』に行ってきた

ピカソとその時代/ベルリン国立ベルクグリューン美術館展

先週の土曜日は上野にある国立西洋美術館に『ピカソとその時代/ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』を観に行きました。そういえば国立西洋美術館、6月に『自然と人のダイアローグ展』を観に行ってますから、今年2回目ですね。そして今回はピカソピカソも5月に『ピカソひらめきの原点展』を観に行っており、やはり今年2回目のピカソとなります。ただし『ひらめきの原点展』は版画が中心でしたが、今回は国立西洋美術館で日本初公開も含む油彩中心となってますから、ピカソ好きとしては大いに期待が膨らみます。

《展覧会概要》ドイツ、ベルリンにあるベルリン国立ベルクグリューン美術館は、ドイツ生まれの美術商ハインツ・ベルクグリューン(1914-2007年)のコレクションを収蔵展示する美術館として1996年に開館し、2004年から現在の名称に改まりました。本展は、同美術館のコレクション97点をまとめて紹介する日本初となる展覧会です。ピカソの初期から晩年にいたるまでの作品と、同時代に活躍したクレー、マティスジャコメッティら、ベルクグリューンが最も敬愛した芸術家たちの優品に、日本の国立美術館が所蔵する11点を加えることで、20世紀ヨーロッパ美術の偉大な足跡をたどります。

ピカソとその時代─ベルリン国立ベルクグリューン美術館展

エントランス

というわけで行ってきたわけですが、いやあ、なにしろピカソ展だけあって、あっちもピカソこっちもピカソ、見渡す限りずっとピカソ!という、もう夢のような展覧会でありました!実は版画中心の『ひらめきの原点展』も相当にシブくてユニークな展覧会で忘れ難いものがあったのですが、今回の「浴びるほどピカソの油彩を観る」という体験は、なんかちょっと変なスイッチが入ってしまうものがありましたね。

特にピカソ晩年の作となる2枚の作品、『男と女』闘牛士と裸婦』は絵画それ自体がダンスをしているかのような奔放で自由闊達な色彩と描線が実に素晴らしく、暫く見入ってしまいました。これも絵画を突き詰めた者だけが達しうる技という事なのでしょう。しかしピカソは膨大な量の作品を製作しており、これでも全貌のほんの一部なわけですから、まだまだ「ピカソ宇宙」の探索の旅は終わることがありません。

なお今回の展覧会はピカソだけの展示だけではなく、ベルリン国立ベルクグリューン美術館所蔵による、ピカソと同時代に活躍したクレー、マティスジャコメッティの作品も展示されます。特にクレーに関しては相当の量の作品が展示されており、クレーに興味のある方も足を運んで間違いないと思います。パウル・クレー、スイスの画家ですが、柔らかく温かい色彩とカンディンスキーを思わせる音楽的なコンポジションシャガールの如きメランコリックでファンタジックな絵画世界が特徴といえるでしょう。また、アンリ・マティスについては、来年大規模なマティス展が開催される予定ですので、その予習といった形で楽しめました。

ところで国立西洋美術館は特別展のチケットで常設展も観ることができますが、この常設展がまたヤバ目の作品が目白押しで、チケット1枚買ったら半日はここでぶらぶらしながら至高の作品を眺めまくれるんだよなあ、これって最高じゃん……と変な笑いを浮かべながら会場を散策していたアブナイ老人のオレでありました。

というわけで今回も気に入った作品を幾つか並べておきます。

パブロ・ピカソ作品

パブロ・ピカソ《ギターと新聞》

パブロ・ピカソ《浜辺の静物

パブロ・ピカソ《座って足を拭く裸婦》

パブロ・ピカソ《多色の帽子をかぶった女の頭部》

パブロ・ピカソ《大きな横たわる裸婦》

パブロ・ピカソ《男と女》

パブロ・ピカソ闘牛士と裸婦》

クレー、マティスジャコメッティ作品

パウル・クレー《夢の都市》

パウル・クレーネクロポリス

パウル・クレー《植物と窓のある静物

アンリ・マティス《室内、エトルタ》

アンリ・マティス《植物的要素》

アルベルト・ジャコメッティ《ヤナイハラⅠ》

アルベルト・ジャコメッティヴェネツィアの女Ⅳ》

さて禁煙1ヶ月目となったわけだが

Photo by Immo Wegmann on Unsplash

60歳の誕生日に書いたエントリにおいて禁煙宣言をしたオレであるが、とりあえず禁煙を初めて1ヶ月経ったのでそれを報告しようと思ったのである。

1ヶ月経ってみて体調がどうだ、というのははっきり言って分からない。なぜなら今現在絶賛老人中なので、煙草を止めたぐらいで足取り軽く気分も軽く元気はつらつ今日もいい日だ、などというわけにはいかないのである。世の中そんな虫のいいことなどないのだ。まあ多少は体が軽くなったような気がしないでもない。だがそれだけである。

煙草を止めてご飯が美味しくなったか、というとこれもよく分からない。実のところ煙草を吸っていた頃からオレはいつでもご飯が美味しい人間だったので、それがさらに美味くなったのか、と言われると疑問である。とはいえ以前よりは何か食っていることが多くなった。それは口さみしいので以前は殆ど食べなかったお菓子を食べたり、以前は殆ど飲まなかった清涼飲料水や缶コーヒーを飲んだりしているからだ。

そのせいで、体重は増えた。1ヶ月で3キロは増えただろうか。禁煙による糖分摂取や体重の増加で糖尿病リスクが高くなることをどこかのサイトで読んだが、全く、じゃあどうしろというんだと思ってしまう。とはいえ禁煙中の体重のコントロールは禁煙が落ち着く6~8週間後ぐらいに考えればよい、と厚生労働省のサイトにも書いてあったので、それを参考にもう1ヶ月ぐらい様子を見るつもりではある。

ただ、飴やガムや菓子や茶を大量に摂取しているせいで相当に胃も荒れており、あれらは胃酸過多のオレには鬼門なので、胃薬が手放せない。そもそも甘いものがあまり好きではなかったし、茶を飲む習慣が全く無かったので、今や飴もガムも菓子も茶も心の底から憎むようになってきた。煙草を吸いたくなったからって飴舐めたりガム噛んだり茶淹れたり菓子食ったりとか、ガキじゃないんだけどな、ととても屈辱的な気分にさせられる。

ガムは主にニコチンガムである。これは普通のガムのようには食べてはいけないことになっている。ちょっと噛んで柔らかくなったら口中で歯肉に貼り付けて、粘膜経由でニコチンを摂取するのだ。これは確かに効く。ただ、なにしろニコチンを摂取するガムなので噛み過ぎると気持ちが悪くなってしまい、せいぜい1日1個か2個使用すればいいところだ。

禁煙1ヶ月目の経過としては、仕事中や日常生活では煙草が吸えないことはあまり気にならなくなってきているし、吸いたくなったら大嫌いな(そして心の底から憎んでいる)飴やガムや菓子や茶を摂取することでなんとかしのげている。だが、こうしてブログを書いている時が最もヤバい。以前はブログを書いている時が最も喫煙量が多かったからだ。ブログ書きを止めたら大嫌いな(そして心の底から憎んでいる)飴やガムや菓子や茶を摂取せず、イライラも感じなくなるような気がするのだが、実はブログ書き自体もオレの生活習慣なので、これもどうにも止められない。困ったもんである。

いやしかし、こうして書いていて思うのは、禁忌に関する恨み言も含めて、これってまさに「中毒患者」の文章だよね!?ホント、マジニコチン中毒なんだなあ。今でも煙草吸いたいなあとやっぱり思うし、禁煙止めてもいいや、と思ってしまう瞬間もある。だがとりあえず禁煙を止めないのは、なにしろ煙草がモロに歯周病を悪化させ、歯が相当ガタガタになったという経緯があったからだ。呼吸器とか心臓とか血管がどうとかではなく、歯だったんですよ、止めようと思った切っ掛けは。

だから禁煙しても特に体調が変わらないとは書いたが、実は禁煙して口臭が無くなったのは確かだし、歯と歯茎の具合も以前よりこころなし良くなっている気がしているのだ。だからまあ、効果は出ているのだとは思う。禁煙の効果は実のところ長期間で見なければならず、先ほど引用した厚生労働省のサイトでも「禁煙して10-15年経てば様々な病気にかかる危険が非喫煙者のレベルまで近づくことがわかっている」などとかなり悠長な事を書いている。ただ健康なんて一日にして成るものではない。だからそれで納得するしかない。

で、煙草の次は酒なんだが、これも例の誕生日ブログで酒を減らしたいと書いたのだけれども、今のところ週3日は抜いている。大したことが無いように見えるが、実は以前は毎日飲んでいて、抜くなんて月に一回あるかどうかだった事を考えると、結構な進歩だと思っている。ただ、飲む日は以前よりもとことん飲むようになっちゃいましてね……ひょっとしたら全体的な酒量は変わってないかもしれない、という事になっているような気が……(そしてこのことについてはこれ以上考えないことにする)。

あのホームズがクトゥルフ神と対決!?『シャーロック・ホームズとシャドウェルの影』

シャーロック・ホームズとシャドウェルの影/ジェイムズ・ラヴグローヴ (著)、日暮 雅通 (訳)

シャーロック・ホームズとシャドウェルの影 (ハヤカワ文庫FT)

ある日突然H・P・ラヴクラフトが血縁であることを知らされた作家ラヴグローヴ。彼はラヴクラフトが保管していたジョン・ワトスン博士による秘められた原稿を託される――1880年ロンドン、ワトスンはひょんなことから怪事件を追う探偵ホームズと出会う。事件の背後にいるのはクトゥルーの古き神々! ふたりは深淵へと足を踏み入れる。ホームズ物語とクトゥルー神話を大胆にマッシュアップした前代未聞のパスティーシュ

誰もが知る稀代の名探偵シャーロック・ホームズがあのクトルゥフ神と対決しちゃう!?というマッシュアップ小説『シャーロック・ホームズとシャドウェルの影』である。しかしホームズとクトゥルフの組み合わせだなんて「カレーとトンカツでカツカレー」みたいな組み合わせだよね!?

そもそもホームズというのは他ジャンル小説との親和性が実に高く、これまでも「ホームズvs.火星人」な小説『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』や「ホームズvs.ゾンビ」なコミック『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』なんてェ作品があった。実は「ホームズvs.クトルゥフ」というパターンもニール・ゲイマンの短編集『壊れやすいもの』収録の「翠色(エメラルド)の習作」という形で既に存在している。ガイ・リッチーの映画『シャーロック・ホームズ』もある意味「スチームパンクシャーロック・ホームズ」って見方ができるよね。

さて物語はワトソン博士が「ホームズ正史に隠されたもう一つの裏ホームズ」を語るという形で描かれる。この『シャドウェルの影』自体3部作の1作目だというが、まずワトソンとホームズの出会いから順を追って描かれる体裁になっている。ちなみに今作でのワトソン博士、従軍中にアフガンのクトルゥフ神殿でトカゲ人間に襲われて九死に一生を得ていた、なんていう美味しい過去を持っている。

そのワトソンがホームズと共にロンドンの闇夜に蠢く妖しい影と恐るべき陰謀を追ってゆく、という展開になるのだが、作者がホームズにもクトルゥフにも両方造詣が深いらしく、この辺りの書き込みは丁寧だし両方のファンを満足させる出来になっているんじゃないかな。ちなみに今作でのホームズ、図書館でクトルゥフ魔導書を読みまくりルルイエ語を訳し、しまいにはネクロノミコンを詠唱しちゃうという美味しい展開付きだ!

そんなクトルゥフ神を陰で操りワトソンとホームズを究極の危機に陥れるのはあの人、そう、ジェームズ・モリアーティ教授だ!ワーオ訳者が揃ったね!今作でも悪辣な企みを巡らしホームズたちを追い詰めるんだが、ここが実は今作のネックでもあるんだよな。つまり宇宙的規模に禍々しく人知の及ばない絶対の恐怖であるはずのクトルゥフ神が、いかな悪党とはいえ単なる人間でしかないモリアーティ教授に使役されちゃう、という部分がなんだかクトルゥフ神ぽくない、というかだったらクトルゥフ神じゃなくてもええやん、と思えてしまうんだよ。

まあそこだけ少々引っ掛かったとはいえ、全体的にはコミックタッチのノリで読み易く気軽に楽しめる作品であったことは確か。3部作の1作目と書いたが、2作目3作目も今後訳出されたら多分読んじゃうんじゃないかと思うね。

 

最近聴いたエレクトロニック・ミュージックなどなど

Lone

Always Inside Your Head / Lone

Always Inside Your Head

Always Inside Your Head

  • アーティスト:Lone
  • Various
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名門R&S Recordsレーベルからリリースされた、ノッティンガム出身のプロデューサーLoneの5年ぶり8枚目のアルバム。女性ヴォーカルを多用した抒情的でドリーミーなエレクトロニック・サウンドが強い印象を残す傑作アルバム。

 

More D4TA / Moderat

MORE D4TA

MORE D4TA

  • アーティスト:MODERAT
  • Monkeytown
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ドイツのエレクトロニック・ミュージック・グループ、Moderatの6年ぶり通算4枚目のアルバム。ポップでドラマチック、そしてポジティヴィティ溢れる力強いサウンドに心躍らされる。

 

New Discoveries / RX-101

New Discoveries

New Discoveries

  • Suction Records
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オランダ出身のエレクトリック・ミュージック・プロデューサー、Erik JongのRX-101名義による3枚目のアルバム。デトロイト・テクノとインテリジェント・テクノへの愛溢れる素晴らしいトラックが並び、これらのサウンドのファンであるオレもうっとりして聴き入ってしまった。

 

Osam / Tosca

1994年に結成され、ウィーンを拠点に活躍するベテラン・エレクトロニック/ダウンテンポ・ミュージック・デュオ、Toscaのニューアルバム。心和むダウンテンポアンビエントサウンドにコンテンポラリーな味わいを加味した匠の一枚。

 

The Weather / Whatever The Weather

ノースロンドンのプロデューサー、Loraine Jamesの別名義ユニットWhatever The Weatherによるニューアルバム。前半冷ややかなアンビエントサウンドで始まりつつ、中盤から春の訪れのような温かさに包まれ、メランコリックなビートに溢れた後半へと繋がってゆくコンセプチュアルな作品。

 

Miracles / T. Gowdy

Miracles

Miracles

  • アーティスト:T Gowdy
  • Constellation
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カナダはモントリオール出身のプロデューサーT.Gowdyのフルアルバム。催眠的で浮遊感溢れるミニマル・サウンド

 

Carbs / Robert Ames & Ben Corrigan

CARBS

CARBS

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ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの共同創設者であり、現代音楽家・指揮者・キュレーター・アレンジャーとマルチなタレントを持つRobert Amesが現代音楽家Ben Corriganとコラボレートしたダンサンブルかつシンフォニックな味わいの作品。

 

From The Far Future Part 3 / Terrence Dixon

ドイツの名門レーベルTresorからリリースされたデトロイト・テクノの重鎮Terrence Dixonの3枚目となるアルバム。浮遊感溢れるアンビエントとアフロ・フューチャリスト・テクノとテック・ハウスが混ざり合い、捻じれたシンセ・ラインが躍るアグレッシヴなディープ・テクノ。

 

Kern Vol 4 / DJ Stingray

KERN-4-MIXED BY DJ STI

KERN-4-MIXED BY DJ STI

  • アーティスト:V/A
  • TRESO
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2017年にリリースされたTresorレーベルのミックス・シリーズ「Kern」第4弾、担当DJとなるのはかつてDrexiyaの一員でもあったデトロイト・テクノの重鎮DJ Stingray。全27曲を高速で繋いでゆく怒涛のエレクトロ・カーニバル。

 

Magic Island Vol 11 / Roger Shah

Magic Island Vol.11

Magic Island Vol.11

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ドイツのプロデューサー、Roger Shahによるトランス&プログレッシヴ・ハウスのミックス・アルバム。バレアリックでメロディックな1枚目、ガッツンガッツンにトランスな2枚目。こういうの作業用にいいんです。

 

 

変わりゆく世界の中で決して変わらない想いを描く珠玉の名編/映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』

ダウントン・アビー/新たなる時代へ (監督:サイモン・カーティス 2022年イギリス・アメリカ映画)

イギリス貴族の華麗なる生活を描くTVドラマ『ダウントン・アビー

20世紀初頭のイギリスを舞台に、ダウントン・アビー城で暮らす貴族クローリー家とその使用人たちとが織りなす華麗なる群像劇を描いた人気TVドランシリーズ『ダウントン・アビー』。このドラマは2010年から2015年まで全6シーズンが放送され、ゴールデングローブ賞エミー賞など様々な賞に輝き、世界で最も視聴されたドラマの一つとしても知られている作品です。

あのミック・ジャガーがファンであることを公言していることでも有名な作品ですが、オレもミック・ジャガーに負けず劣らずこのドラマの大ファンで、毎話毎話観る毎に心蕩けさせられ「ああん……素敵だったわ……」とお目目をハートマークにしてため息をついていた程でした。シーズン終了後も人気は決して衰えることなく、2019年に遂に映画化され大ヒット、さらにその余勢を駆い2022年に映画化作品第2弾として公開されたのがこの『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』です。

ドラマ『ダウントン・アビー』の魅力、さらに映画化作品第1弾の感想は以前こちらで書きましたので宜しければお読みください。

人気TVシリーズ映画化作品第2弾!

映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』は前作映画の1年後、TVシリーズ終了時の2年半後である1928年のクローリー家を描いています。今作では2つのドラマが展開します。1つ目はハリウッドの映画製作会社からダウントン城を映画ロケ地に使わせてほしい!と打診があり、クローリー家と召使たちが大騒ぎになるというお話。もう一つはフランス貴族から南仏の別荘が譲られることになり、一家はそこに出掛けるのですが、なにやら深いワケアリな事態が隠されていた、というお話。

《物語》1928年、英国北東部ダウントン。グランサム伯爵クローリー家の亡き三女シビルの夫トムが、モード・バッグショーの娘と結婚することに。華やかな宴が繰り広げられるが、屋敷は傷みが目立ち、長女メアリーは修繕費の工面に悩んでいた。そんな折、映画会社から新作の撮影に屋敷を使用したいとの申し出が入る。高額な謝礼をもらえると知ったメアリーは、父ロバートの反対を押し切って撮影を許可。一方、ロバートは母バイオレットがモンミライユ男爵から南仏の別荘を贈られたことを知る。その寛大な申し出に疑問を抱いたロバートは、家族とともに現地へ向かう。

ダウントン・アビー 新たなる時代へ : 作品情報 - 映画.com

「ダウントン城映画ロケ地編」、「南仏別荘篇」の二つのドラマは同時進行で語られ、登場人物たちはそれぞれのドラマに数人ずつ別々に割り振られて物語が進んでく形になります。どちらも笑いがあり涙があり、物語に配された大いなる謎や密やかな苦悩が緊張感を生み、様々な人間関係が大きなうねりとなって紆余曲折を経ながら一つのドラマへと収束し、大団円を迎えるのです。

同時進行する2つのドラマ

いやあもう、今回も十二分に楽しませてもらいました。映画化第1作がTV版のゴージャスなアップグレード篇だったとすれば、この第2作目はTV版の持つ細かな人間関係の面白さを巧みに活かし、『ダウントン・アビー』本来の楽しさと豊かさを掘り下げた作品だったという事ができるでしょう。

「ダウントン城映画ロケ地編」ではハリウッドスターの登場に使用人の皆さんが大いにさんざめくのですが、主演女優がどうにもイケズでみんなゲッソリ!一方撮影中に突如サイレントからトーキーへと方針が変わったことで大騒動!?というドラマが展開します。ここでは「サイレントからトーキーへ」という時代の変化を見せながら、ダウントンお馴染みの使用人の皆さんがとんでもない大活躍を披露し、シリーズ始まって以来の「大変身」を見せてくれるのが大いに盛り上がりました。名物キャラによる可笑しなシチュエーションも頻出し、オレは映画を観ている間中クスクス笑いが止まりませんでした!

一方「南仏別荘篇」ではクローリー家長老であるヴァイオレットの過去の秘められた恋、当主グランサム伯爵の出生の謎、妻であるコーラを襲う病魔など、『ダウントン・アビー』の物語を揺るがすドラマチックな展開が目白押しとなります。このトーンの異なる二つの物語が絡み合うことで相乗効果が生まれ、非常に豊かなドラマへと結実してゆくのです。

新たなる時代へ

そしてこれらのドラマを通して描かれるのは「時代の変化」です。そもそも『ダウントン・アビー』は、ドラマ1作目からこの「時代の変化」を描き続けてきた作品でした。一見煌びやかな貴族の生活を描いているように見えながら、20世紀初頭は貴族の没落が始まった時期であり、クローリー家にもその影が忍び寄り、存続の危機が囁かれていました。そんな中で、貴族と平民の立場の変化、男女の立場の変化、社会全体の変化を描いてきたのがこのシリーズなのです。

しかしそういった変わりゆく世界の中で、変わらないものを描こうとしたのもまたこの作品なのです。それは人と人との信頼であり愛であり、生きるために常に最善の事を成してゆこうという気概です。貴族と平民、その立場に違いこそあれ、人同士の想いと繋がりにも、今生きている場所で精一杯生きてゆこうという気概にも変わりはありません。変わりゆく時代、変わりゆく立場の中でお互いに手を取って生きてゆこうとすることの素晴らしさがこのドラマにはあります。

それは映画化作品第2作であるこの『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』でも決して変わりはありません。いや、その変化が今まで以上に加速しているからこそ、より一層鮮烈な印象を与える作品として完成していたのではないでしょうか。そして深い余韻を残すそのラストは、それ自体が豊かに実るひとつの幸福の情景だと思えてなりませんでした。

素朴な時代への憧れ

最後にあれこれと雑駁な印象などを。

まず今作でも衣装がいい!貴族男性のりゅうとした背広姿、貴族女性のたおやかなドレス姿、その煌びやかな宝飾の数々、こうした貴族の服装も素敵でしたが、使用人たちのパリッとしたお仕着せ、あるいは普段着の飾り気の無さもまた素敵でした。『ダウントン・アビー』を観る楽しさの一つは、この「服飾を見ることの楽しさ」にあるといっても過言ではありません。

もちろん本物の城を使ったロケーション、その豪奢極まりない内装、家具、小道具、それらを眺めることの楽しさも忘れてはいけません。同様に平民たちのつましい生活の様子もまた見ていて心和みます。つまり服飾にしろセットにしろ、当時のイギリスを完璧な時代考証を基に再現している部分にこの作品の凄さがあるんです。それはあたかもこの時代にタイムスリップし、登場人物たちに寄り添いながら物語を注視しているような気持ちにさせられるんです。

それは眩しくもまたおおらかな時代であり、厳しくもまた愚かな時代でもありました。過去とはいつもそんなものなのだと思います。ただ、現代のように様々なものが複雑化してしまう以前の、素朴な時代への憧れ、そんな郷愁が、『ダウントン・アビー』にはあるんです。

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